ページの先頭です

[特集] 先端テクノロジーが食を変える

先端技術の活用、イノベーション研究が進む ―調理技術領域

調理や食品加工の現場では、ロボットの導入による自動化の取り組みが広がり、人と一緒に作業を行う協働ロボットも登場している。
価値の創出や社会課題解決のための食のイノベーション研究も行われている。

協働ロボット

人と一緒に働くロボットの実用化に挑む ―株式会社アールティ

食品の加工にかかわる領域においても先端技術の活用が進み、自動調理家電のほか、人の代わりに調理や盛り付けを行うロボットの開発なども盛んになっている。その一例が、ロボット・AIベンチャーの株式会社アールティが開発した「Foodly」だ。

2019年7月に開催された「FOOMA JAPAN 2019 国際食品工業展」で発表されたFoodlyは、弁当の盛り付けラインで人と一緒に作業を行うことができる人型の協働ロボットだ。AIを活用した画像認識技術により、食品コンテナにばら積みされた唐揚げなどの不定形な食品一つ一つを認識して取り出し、弁当箱に盛り付けることができる。人と並んで作業することを想定しているため、圧迫感を与えないよう、身長150センチ、肩幅39センチと小柄な成人のサイズに設計されている。

こうしたロボットが注目を集める背景には、食品工場や飲食店・施設などの厨房が抱える慢性的な人手不足と衛生管理の向上という課題があり、厨房機器メーカーやベンチャー企業などによりさまざまな調理ロボットが開発され、導入が進んでいる。しかし、弁当の盛り付け作業は、多種多様なおかずをさまざまな容器に盛り付けて何種類もの弁当を作るという特性があり、それが自動化のハードルとなっていた。まず、弁当のおかずは工業用部品のような規格品ではなく、形状がそれぞれ微妙に異なる。加えて、無造作に積まれたおかずの中から1つを取り出すには、AIが、ばら積みされた状態を複数の食品の集合体として認識し、一つ一つの個体を識別できるようにしなければならないという難しさがあった。

そこで同社は、ディープラーニングにより鶏の唐揚げの多様な形を学習させ、ばら積みの唐揚げの境目を認識して1個ずつつかんで移動させることに成功した。ロボットには奥行きのわかる深度カメラを内蔵することで、食品の色や形だけでなく、大きさや凹凸も認識できるよう精度を高めたという。「開発当初は、1つの食品の認識に1分以上かかることもあった。また、おかずの種類によって大きさや硬さが異なるため、それぞれを程よい強さでつかんで運ぶという力の制御が難しかった」と同社 取締役 技術開発部 部長の中川範晃氏は述べる。現在では、唐揚げについては実用的な速さで検出してつかむことができるようになり、トマトなどの柔らかい食材をつぶさないようにつかむことも可能になったという。

食の安全につながる衛生面の向上についても、ロボットは有効な解決策になり得る。食品が人の手に触れる機会が減れば、昨今重要視されているウイルス対策にも効果が期待できる。同社では、ロボットの表面を常に清潔に保てるよう、専用の作業着を開発し、食品をつかむトングも簡単に交換できるものにした。また、異物混入対策の一環として、その原因となりやすいネジが表面に露出しない設計も行っているという。

現状では、人の目による確認や手作業が必要となるが、「画像認識技術の活用により確認作業を自動化するなど、人による“ラストワンハンド”の自動化を実現したい」(中川氏)考えだ。

協働ロボットの導入は製造業を中心に広がりつつあり、AIやIoTの進展によって画像認識技術の高度化やロボット同士の連携が進めば、さらなる自動化が可能になるだろう。

図1
アールティが開発した人型協働ロボット「Foodly」

イノベーション研究

持続可能な食のシステムデザインに取り組む ―立命館大学

大学など先端研究の場では、さまざまな角度や従来にない視点で「食」を捉えることによって、社会課題の解決や付加価値拡大につなげる食のイノベーション研究が進められている。立命館大学では、経済学、経営学などマネジメント領域をベースに、人文科学に関するカルチャー領域と自然科学などテクノロジー領域の3つの領域から食を総合的に捉え、研究する「食マネジメント学部」を2018年に創設した。同学部 准教授の野中朋美氏は、生産システム工学、サービス工学を専門としており、持続可能な食のシステムデザイン研究に取り組んでいる。

その1つが、歴史学(日本史)を専門とする鎌谷かおる准教授と共同で立ち上げた、江戸時代における食を、歴史学とシステム工学の観点から紐解き、未来社会をデザインする研究プロジェクトだ。この中で野中氏は、江戸時代に書かれた料理書を対象に、具体的に記述されていない情報や曖昧な情報が調理者に与える影響に着目し、レシピをシステム工学的に分析し再設計するレシピデータベース研究や、日本酒文化の発展など地域に根付いてきた食の歴史や食文化を発掘し、活用することで、未来のサステナブルな食をデザインする研究を進めている。

もう1つの研究例が、菓子メーカー・ユキオーと共同で進めている、ゼリー技術を起点とした社会課題解決のためのMulti-Purpose Jelly Foodの研究開発だ。同社はゼリーを無菌充填する技術を持っており、果物や野菜など素材が持つ風味やフレッシュさ、日本酒やワインなどのアルコール分を保持したゼリーを作ることができる。野中氏はこの技術の特徴について、「生鮮食品の場合、完熟や新鮮さなど素材のおいしさを味わうためには時間軸の設計が重要だ。このゼリー技術は、食材が最もおいしい瞬間をゼリーに封じ込めることができ、天然素材のみで常温で長期保存ができる。たとえば、古くからの食文化である乾物や発酵などの保存食は、時間経過とともに食材のおいしさが醸成され変化するのに対して、このゼリー技術では、最もおいしい瞬間を封じ込め、時間・空間を超えたアクセスを可能にする」と分析する。2019年3月には、同社の技術を活用して日本酒100%ゼリーのプロトタイプを開発し、世界最大級のスタートアップイベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)2019」期間中に、現地で持続可能な食のイベントを共催し発表した。「ゼリーにすることで、日本酒の輸送や輸出が難しい地域に、常温で素材そのままのおいしさを届けるといった可能性も出てくる」(野中氏)。高齢者の嚥下食や災害食、宇宙食などへの応用も考えられるという。

サービス・生産システムにおける生産性向上と付加価値創出の研究にあたり、野中氏は、「無形性を有するサービスそのものの分析は難しいが、無形財と有形財の両方の要素が強い食サービスの現場では、サービス研究において新たな気付きが得られやすい」と述べる。たとえば、レストランなど外食産業では、調理(生産)と消費が同じ場所で行われることによる「同時性」が特徴であり、消費者の反応をすぐに知ることができ、素早いフィードバックにつなげることができる。食関連産業のサービスシステムの研究によって他の産業も含めたマネジメント・設計手法の研究にも新しい知見を与えられる可能性があるという。

食を起点として生まれた新しいテクノロジーや持続可能なサービス・生産システムがイノベーションを促進し、社会全体に波及していくことでさらに研究が進み、フードテックはもちろん、幅広い領域でテクノロジーが発展することを期待したい。

ページの先頭へ