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第20回 ESG投資を促進する「環境金融」の最前線を見に行こう

ツチヤ教授の大人の社会科見学

哲学者でありコラムニストでもあるツチヤ教授が、みずほ情報総研のさまざまな“現場”を訪問。
ソリューションやサービスが生まれる舞台裏をご紹介します。

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サステナブルファイナンスに取り組む〈みずほ〉のバリューチェーン

永井さん写真

永井 環境エネルギー第2部の永井と申します。本日はリモートでのご案内となりますが、よろしくお願いします。

土屋 よろしくお願いします。モニター越しというのも慣れないですね。

永井 不思議な感じですね。

今回は、環境金融の手法である「グリーンボンド」についてご紹介します。気候変動が社会に及ぼす影響は大きく、今や経済上の問題としても位置付けられています。世界経済フォーラムが公表する「グローバルリスク報告書」では、気候変動への取り組みの失敗は影響度がもっとも大きなリスクとして指摘されており、経済活動においても、環境への配慮が重視され始めています。

土屋 なるほど。

永井 近年では、気候変動対策やSDGs(持続可能な開発目標)への企業の取り組み度合いを考慮して投資する「ESG投資」が増えてきています。

土屋 初歩的な質問ですけれども、環境に配慮した投資というのはどの程度普及しているんでしょう。パリ協定も、どの程度の影響力があるのかよく分からないなと感じます。素人としては、ESGを意識している投資家はそれほど多くないのではないかと思うのですが、どうですか。

永井 ご指摘のとおり、投資家のESGに対する責任を求める「責任投資原則(PRI)」に署名している機関投資家は増えていますが、実際の投資金額ベースで見ると、ESG投資に充てられている割合は2%ほどと、まだまだ低い状況です。ただ、2%というのは、環境分野からするとかなり大きな額なんですよ。

土屋 確かに、それはそうですよね。

永井 そこで、ESG投資家の資金を集めて、再生可能エネルギー発電やグリーンビルディングなど環境改善効果の見込める事業に使うための仕組みとして考え出されたのが、グリーンボンドです。2019年には国内で65件が発行されました。

土屋 もうそんなに普及しているんですね。

永井 グリーンボンドの発行には3つのメリットがあります。まず、ESG投資をコミットしている投資家からの投資を獲得できること。ESG投資では債券が長期間保有される傾向があり、債券価格の安定にもつながります。2つ目は、自社のESG戦略や取り組みをアピールできること。3つ目は、低金利で資金調達できる可能性があることです。

土屋 グリーンボンドを発行すると、評価が上がるような仕組みはあるんですか? 投資の世界では格付け機関も重要な存在だと思いますが、そこでの評価には反映されているのでしょうか。

永井 グリーンボンドの発行などESGの取り組みは、格付けではなく企業のESGスコアに反映され、ESG投資家の判断に活用されます。また、投資家の評価を得るには、自社のESGの取り組みを企業価値向上と結び付け、投資先としての有望性を伝えることも重要です。

“説得力のある専門的な知見が必要なんですね” ―ツチヤ教授

永井 グリーンボンドの発行には、通常の社債(ボンド)の発行手続きに加えて、社会問題解決への貢献と自社の成長戦略を結び付けた説明ストーリーの構築や、資金使途とする「環境に貢献する事業」の選定、環境改善効果の評価方法などの専門的な検討が必要になります。そこで、債券発行を行うみずほ証券のノウハウと当社のESG・環境分野の知見を活用して、両社で企業などのグリーンボンド発行を支援しています。

グリーンボンド発行支援で連携している、みずほ証券 コーポレートファイナンス部 サステナブル・ファイナンス室の伊井室長です。

土屋 よろしくお願いします。グリーンボンドの売れ行きはどうですか? どういうところが購入しているんでしょうか。

伊井 銘柄にもよりますが、需要倍率が通常の社債と比べても高くなっています。購入者は、以前は中央のアセット・オーナーが多かったのですが、現在は地方投資家も含め幅広く購入しています。

発行者(発行体)は、国内公募債において2016年の国際協力機構によるソーシャルボンド発行以来、独立行政法人の発行が増え、18年頃からは事業会社が増えてきています。リース会社による発行も多かったですが、足許は資金使途が広がっています。

土屋 たとえば企業規模など、起債するための条件はあるんですか。

伊井 国際資本市場協会(ICMA)が定めるグリーンボンド原則に適合していることが求められます。調達資金がグリーンプロジェクトに使われること、事業の評価と選定のプロセスを投資家に公表すること、調達資金が適切に管理されること、資金使途に関する最新の情報を開示することの4つの要素を満たす債券がグリーンボンドと定義され、発行にあたっては、第三者機関による外部評価を受けることが奨励されています。

土屋 みずほ情報総研とはどのような連携をしているのですか?

伊井 資金使途の選定や、環境改善効果の度合いと参照する「基準」の設定など、債券発行の肝となるグリーンボンドフレームワークの検討を連携して行っています。そのほか、プロジェクト実施後の環境改善効果の算定やレポーティングなど、専門分野の知見が不可欠な部分でご協力いただいています。

永井 資金使途に関する基準にはさまざまなものがあり、議論中ですので、最新動向や今後の政策見通しを踏まえながら設定することも重要です。

土屋 基準そのものにも動きがある中で、説得力のある論理を構築するためにも、永井さんの知見が必要ということですね。

環境改善効果の算定とは、削減が見込まれるCO2の量を計算するというようなことですか?

永井 そうです。算定方法が決まっていれば計算自体は難しいものではないのですが、どの計算式を用いるかさまざまな考え方がありますので、そこが当社の出番といいますか、評価方法についてアドバイスしたり、ロジックを構築して計算式を検討するなどの支援を行っています。

土屋 〈みずほ〉の強みはほかにどういう点がありますか?

伊井 議論を重ねて新しい仕組みを作り、検討段階から組成・発行までトータルに支援するところに強みがあると思っています。投資家向けの説明や、企業活動を通じたESG戦略の成長ストーリーづくりにおいても評価をいただいています。

金融機関として、サステナブルファイナンスの発行支援や市場拡大に取り組むとともに、お客さまの成長の機会を阻害することのないよう、バランスを取って進めていくことも重要だと考えています。


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みずほ証券 伊井室長(左)と、グリーンボンドやESG投資について説明

“環境を重視する動きがこれほどとは驚きです” ―ツチヤ教授

ツチヤ教授写真

土屋 大学などもグリーンボンドの発行はできるのですか?

永井 東京大学が社会課題の解決に資する債券「ソーシャルボンド」を発行予定です(*)。教育・研究施設やキャンバスの整備に資金を使うとのことです。

土屋 大学はどこも年々国の予算が削られていて、資金調達に困っていますから、そうした調達方法があればいいですね。

先ほど、まだ基準が決まっていない部分があるという話が出ましたが、何をグリーンと見なすかは難しそうですね。どのような規則や基準があるのですか。

永井 たとえばEUは、2019年にCO2排出量の多い7部門67種の活動について基準案を発表し、反響を呼びました。

EU基準(タクソノミー)では、石炭や石油と比べCO2排出量が少なくグリーンとされていたガス火力発電も、排出量がごくわずかでなくてはグリーンとは認められません。これは最新型の火力発電設備でも達成が難しい基準です。乗用車も、化石燃料を併用しCO2を一定量以上排出するハイブリッド車はグリーンではないとされています。

土屋 ドイツ車など、ヨーロッパではこの基準を満たしているのですか?

永井 厳しいと思います。この基準は、2050年までにEUが「温室効果ガス排出実質ゼロ」を実現するために推進すべき事業を定めたもので、現状から見ると、非常に意欲的な水準です。また、EUの産業政策という一面もありますので、背景には、日本のハイブリッド車への対抗や水素を推進していこうといった戦略もあるのでしょう。

この基準は、ESG投資に加え公的支援対象の基準としても使用されつつあり、EUのESG投資家からの資金調達の有無に関わらず、日本企業のビジネスにも影響します。

土屋 これほどまでに、環境を重視する動きが、企業にも金融機関にも出てきているというのは驚きでした。環境のことを考えないと利益が出せないような社会になりつつあるのでしょうね。

永井 環境分野にずっと携わってきましたが、証券会社の方が環境やSDGsを話題にしているのを見ると、時代は変わったなと感じます。

土屋 僕も少し株を持っていますが、株を買うという行為は純粋にお金儲けのためだと思っていました。そもそも普段の生活の中でも環境について考えてはこなかったものですから(笑)。ただ、やはり将来のことを考えると、ESGへの取り組みが不十分な企業への投資は危ないという判断はあるのかもしれませんね。

永井 ESG投資家と一括りでいわれますが、実態はさまざまです。純粋に環境によい投資をしたいと考えている人もいれば、環境配慮を行っている企業のほうが株価が上がると考え、非財務情報も加味して長期投資する機関投資家などもいます。そういう経済合理性を重視している投資家をいかに巻き込めるかが重要だと思います。

土屋 今後、どういうことをやっていきたいですか。

永井 近年、再生可能エネルギーはコスト低減が進み、経済合理性のある投資対象となりつつあります。こうした再生可能エネルギーを政策やファイナンスの観点から後押しし、環境問題の解決や地域社会の活性化に貢献したいと考えています。また、金融機関のESGへのさらなる取り組みが世界から求められていますので、〈みずほ〉の中で当社が果たすべき役割も増えていくだろうと考えています。

環境対策は一般の方に取り組んでもらうことが重要です。「意識せずに選んだら環境に配慮されたものだった」という社会にしていくことが大事ですので、そのためにも、〈みずほ〉を通じてESGの取り組みを支援していきたいですね。

  • *10月16日に「東京大学FSI債」を発行

土屋 賢二 (つちや けんじ) 氏
1944 年、岡山県生まれ。お茶の水女子大学名誉教授。
柔らかな語り口の哲学論集・講義集のほか、数多くのユーモアあふれるエッセイ集でも知られる。趣味はジャズピアノ。ユーモアエッセイ集には『妻と罰』『ツチヤ学部長の弁明』『紳士の言い逃れ』など多数。ほか『ツチヤ教授の哲学講義』『哲学者にならない方法』など。

案内人:みずほ情報総研 永井 祐介(ながい ゆうすけ)
みずほ情報総研株式会社 環境エネルギー第2部 シニアコンサルタント
2007年入社。環境金融や排出権活用を中心とした政策支援や企業向けコンサルティング、環境事業の実現可能性調査等に従事。<みずほ>のサステナブルファイナンスの取り組みにも携わる。

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