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[特集] With/Afterコロナ時代のサステナビリティ

“コロナ後”も継続する働き方の変革

感染症防止対策として広がった時差通勤やテレワーク。
働き方の変化は、働く人の意識を変え、人事制度の見直しなど企業の取り組みも本格化している。
調査から見えてきた変化の実態や課題、「新しい働き方」へのシフトを加速する先進企業の取り組みを紹介する。

調査から見る、働き方と働く人の意識の変化

新型コロナウイルスの感染防止対策として、多くの企業で取り入れられたのが時差通勤やテレワークだ。公益財団法人 日本生産性本部が実施した「働く人の意識調査」でも、その変化は如実に表れている。

同調査は、緊急事態宣言発出から約1カ月後の5月11日~13日、宣言が解除されてから1カ月半後の7月6日~7日、そして、経済活動再開と感染再拡大防止の両立を模索する約3カ月を経た10月5日~7日の3回にわたって実施された。5月の第1回調査では、緊急事態宣言発出後、短時間勤務、時差通勤やテレワークの導入など何らかの方法によって、働き方が「多少変わった」あるいは「大きく変わった」と答えた人が6割近くにのぼっている。テレワークの実施については、5月調査の31.5%から、7月調査では20.2%に減少し、オフィスへの回帰が進んだものの、10月調査では18.9%と一定程度定着の兆しがみられる。在宅勤務による仕事の効率については、「効率が上がった」「やや上がった」と答えた人は5月調査の33.8%に対し7月調査では50.0%、10月調査で50.5%まで上昇しており、緊急措置的に始まった在宅勤務に慣れてきたこと、資料やデータの共有化などテレワークの仕組みが整ったこと、テレワークに適した職種や業務の絞り込みが行われたことが理由として考えられるという。

このような社員の安全や健康に配慮した対策が、勤務先への信頼感に影響を及ぼすと、調査を担当した同財団生産性総合研究センター 上席研究員の柿岡 明氏は解説する。同調査では、勤務先への信頼の程度についても尋ねており、分析したところ、勤務先が健康への配慮を十分行っていると実感している回答者ほど自社への信頼感が強く、配慮が不十分と感じている回答者ほど自社への信頼度が低かったという。「人命や健康に関わるようなクライシスが発生した場合、時差通勤やテレワークなどの“命を守る取り組み”が行われているかどうかが、会社への信頼感を大きく左右する。怠れば人材流出につながりかねず、長期的な観点からは生産性の低下を招くことも懸念される」。

働き方の変化の有無や大小については、業種や職種によって事情が異なる。回答者のうち、専門・技術職や管理職、事務職のほか、販売やサービスといった職種においては大きな変化を経験している一方、生産工程、輸送・機械運転、建設・採掘、運搬・清掃・包装などでは、6~7割が「特に変化はない」と答えている(下図)。柿岡氏は「テレワークについては、それが主流になったかのような報道も見受けられたが、実際にはしたくてもできないという職種も相当数あり、従来と同様の働き方を続けている人もいるということは把握しておく必要がある」と指摘する。

社員を守るため企業ができる対策として、他にどのようなものが考えられるだろうか。飲食店やホテルなどさまざまな業種において、サービスの安全や、衛生への取り組みといった感染拡大防止の対策費用は事業者が負担しているのが現状だが、この費用の一部を消費者も負担するという「セーフティ・チャージ」の考え方がある。対策にかかるコストを価格転嫁できるとすれば、事業者が対策に取り組む動機付けともなる。第2回調査において、セーフティ・チャージの負担について尋ねたところ、費用の一部負担を容認する意見は約4割で、費用負担の容認意向は50代~70代の男性で比較的多かったという。性別や年代別で容認意向に差があることから、「企業は、自社の客層を考慮しながら導入可能性を模索する必要があるだろう」(柿岡氏)。

企業はさらに、働き方の変化が労働者にもたらした意識の変化も考慮する必要がある。柿岡氏は、「自宅で働くという経験は、収入や健康など何を重視して働くのかを改めて考える機会になったのではないか」と述べる。第2回調査で、兼業・副業について尋ねたところ、「現在は行っていないが将来的には兼業・副業を行ってみたい」という回答は40.2%であり、「現在、兼業・副業を行っている」という人と合わせると、前向きな意見が5割弱を占めたという。「兼業・副業は、コロナ禍による収入不安の解消だけでなく、労働者のキャリア形成にも役立ち、企業側から見ても社員の新しいスキル獲得と社内への還元につながるというメリットがある。勤務先企業の理解や行政支援など、積極的な検討が進むことが期待される」(柿岡氏)。

コロナ禍による社会・経済・生活の変化は、働き方と働く人の意識に大きな変化をもたらしている。今後は、こうした新しい働き方が導入されているかどうかが、就職・転職先を決定する際に重要な要素となる可能性もある。優秀な人材をつなぎ止めるためにも、企業はこうした変化を受け止め、柔軟に対応することが必要となるだろう。

職種別「緊急事態宣言」発出後の働き方の変化
図1
新型コロナウイルスの感染拡大が働く人の意識に及ぼす調査(第1回「働く人の意識調査」)結果(日本生産性本部、2020年5月22日)

見えてきた「新しい働き方」の課題と対策

一方、テレワークのような新しい働き方の導入が拡大したことによって、さまざまな課題も見え始めている。

国土交通省が2020年3月に行った「新型コロナウイルス感染症対策におけるテレワーク実施実態調査」では、感染症対策の一環としてテレワークを実施した人のうち、72.2%が、実施するうえで「何らかの問題があった」と回答している。問題と感じたことのうち、もっとも多かった回答は「会社でないと閲覧・参照ができない資料やデータなどがあった」で26.8%、次いで「同僚や上司などとの連絡・意思疎通に苦労した」(9.7%)、「営業・取引先等との連絡・意思疎通に苦労した」(9.2%)となっている。資料やデータの閲覧・参照については、ペーパーレス化の推進や文書管理のクラウド化、リモートでもセキュアな閲覧・参照を可能にするセキュリティ対策が求められる。意思疎通の苦労など、テレワークにおけるコミュニケーションの課題については、調査会社など各社の調査でも指摘されており、社員間のコミュニケーションをスムーズにし活発化させる工夫が必要だ。

参議院の調査情報誌『立法と調査』425号(2020年7月発行)掲載の「テレワークの拡大と課題」では、政府および民間企業の調査結果や施策などを基に、テレワークの課題と対応として、(1)労務管理(2)押印・書面提出等の慣行(3)セキュリティ対策(4)通信量の増大と通信基盤の整備(5)資料・データへのアクセス、意思疎通等に整理して紹介している。テレワークは、仕事とプライベートの切り分けが難しく、長時間労働になりやすいといった課題が認識されており、テレワーク普及の前提として、厚生労働省は2018年に「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を策定しているが、テレワークにおける労働時間の正確な把握は難しいのが現状だ。また、押印慣行の見直しに伴なう信頼性確保の手段や、オンライン会議システムのセキュリティ対策など、新しいシステムや仕組み作りを模索する必要がある。

また、新しい働き方が社員にもたらすストレスについても、留意が必要だ。リクルートワークス研究所とHRデータラボによる共同研究では、2019年4~5月と2020年4~5月にストレスチェックを実施した企業の約1800名の社員のデータを比較することで、コロナ禍において働く人のストレスがどのように変化したかを分析している。原因となるストレスの変化については、「仕事の量」によるストレスは3.02点から2.95点に、「対人関係」におけるストレスは、2.83点から2.71点に低下した。テレワークの浸透によって職場の人との接触が減り、結果としてそれが対人関係のストレスを低下させたと考えられる。一方、仕事の「コントロール度」によるストレスは、3.29点から3.37点に上昇する結果となっている。テレワークの浸透により、自分のペースで仕事ができる人は増えているが、仕事がうまく進まなかったり、職場の方針への働きかけが難しくなっていることが推察されるという。

こうした課題をいかにして解決し、生産性を向上させ、働き方の変革に取り組んでいくか。ニューノーマルにおける各企業の手腕が問われている。

変化を機に人事制度を改革

未来を見据えて、コロナ禍がもたらした働き方の変化を、新しい働き方へと本格的にシフトする動きが始まっている。その一つが、緊急措置として始まったテレワークの導入や、柔軟で多様な勤務形態への転換だ。

2020年1月下旬にいち早く在宅勤務体制への移行を発表して話題となった、GMOインターネットグループでは、長期化する在宅勤務体制において社員の負担を軽減するため、削減が見込まれるオフィスの水道光熱費などを財源とした「オフィスコスト還元プログラム」と「通信環境整備支援」の2つの施策を実施している。同グループは、新型コロナウイルス感染症終息後についても、社員が週1~3回を目安にオフィス以外で働くことのできるリモートワーク制度の導入を予定している。リコーも、ニューノーマルへの対応として、在宅勤務などのリモートワークを標準化するとしている。同社では、社員調査において、8割以上の社員が在宅勤務で「生産性は維持・向上した」と回答したことを踏まえ、新しい働き方のガイドラインを国内グループ向けに発行した。全社一律ではなく、職種や業務の内容に合わせて出社とリモートワークを柔軟に組み合わせ、最適な働き方を実践することを狙うという。カルビーは、オフィス勤務者を対象とした新しい働き方「CalbeeNew Workstyle」を7月から開始し、モバイルワークの標準化とフルフレックスの導入、モバイルワークを基本とすることによる単身赴任の解除を打ち出している。

さらに、場所や時間に縛られない働き方に合わせて、雇用形態を、ジョブディスクリプションを定め業務内容を明確にして雇用契約を結ぶ「ジョブ型」へと転換する動きも見られる。従来の日本の雇用形態は、業務範囲などをあらかじめ定めない「メンバーシップ型」が主流だったが、テレワークが標準となるのであれば、評価制度や人材育成の手法も見直す必要がある。日立製作所は、「在宅勤務活用を標準とした新しい働き方」の2021年4月からの適用に向けてロードマップを策定し、「ジョブ型人財マネジメント」への転換加速、IT環境の整備などの施策を開始している。また、コミュニケーション活性化ツールの提供や、産業医によるリモート相談窓口の設置といった健康支援策など、在宅勤務に必要な各種支援策も打ち出している。

「ジョブ型」 雇用と「 メンバーシップ型」 雇用の主な違い
図2

DX企業への変革を目指す富士通の取り組み

ニューノーマルにおいて、デジタルトランスフォーメーション(DX)企業への変革をさらに加速させ、イノベーション創出を促進する新しい働き方に取り組んでいるのが富士通株式会社だ。同社では、2017年からテレワーク勤務制度を導入し、2020年4月からは、DX企業への変革を実現するための人事制度として、国内グループの幹部社員の職責を明確に定義し、職責に応じた報酬設定と柔軟な人材配置を実現するジョブ型人事制度を導入している。テレワークの利用状況は、2019年秋時点では1週間に1回利用する社員が約48%だったが、緊急事態宣言発出後のテレワーク実施率は約90%となり、利用回数の制限も撤廃したという。2020年5月~6月に実施した社内アンケートでは、約55%が「働く場所を選択したい」、約30%が「自宅やサテライトオフィスで働きたい」と回答するなど、多くの社員が柔軟な勤務形態に前向きな反応を示したことも、新制度導入の後押しとなったという。

同社が7月に発表した新しい働き方のコンセプト「WorkLife Shift」は、「Smart Working(最適な働き方の実現)」「Borderless Office(オフィスのあり方の見直し)」「CultureChange(社内カルチャーの変革)」の3つの要素から構成されている。このコンセプトのもと、約8万人の国内グループ社員の勤務形態は、テレワーク勤務を基本とし、コアタイムのないフレックス勤務の適用拡大や、テレワークと出張で業務に対応できる単身赴任者の自宅勤務への切り替えなど、業務内容やライフスタイルに応じて時間や場所をフレキシブルに活用できる働き方の実現に向けた施策が盛り込まれている。

また、オフィスのあり方を見直し、業務内容に合わせて自宅やサテライトオフィス、機能を定めたハブオフィスなどから自由に働く場所を選択できる勤務形態を実現するための施策にも着手している。テレワークが拡大する中でオフィスの役割を再定義する必要が生じているが、同社では、顧客との共創や実証実験、チームビルディングなど主となる機能を定めて、オフィス環境の整備に取り組んでいる。たとえば、これまでのテレワークは個人作業が中心だったが、コロナ禍の現在では、会議やセミナーなどオンラインでの業務領域が拡大している。そこで、出社が必要な業務の洗い出しと、リモートワークに対応できる業務プロセスへの見直しを行い、快適で創造性のあるオフィス環境を構築していく考えだ。全国の各エリアごとにハブオフィスを設置し、サテライトオフィスのスペースを拡張して、ハブオフィスと同等のインフラを整備していくという。同社 総務・人事本部 ファシリティマネジメント統括部 シニアマネージャーの西川尚作氏は、「多様な社員が目的に最適な場所を自由に選択できるよう、創造性のある快適なオフィスを作りたい。それが社員の『Well-being(幸福・健康)』を実現し、ひいては会社への信頼感や貢献意欲にもつながる」と話す。

また、新しい働き方を実現するためには、社員の高い自律性と相互の信頼に基づいた人事制度が必要となる。業務を明確化して評価し、効率的・効果的な働き方を進めるためにもジョブ型人事制度が有効であるとの考えから、一般社員への適用拡大に向けて検討を開始している。また、テレワーク勤務によるコミュニケーション不足を解消するため、上司と部下の1対1ミーティングを原則月1回推奨し、コミュニケーションスキルアップ研修も実施している。研修制度もオンラインで全社員が受講できるように整備し、いつでも学び直しができる形にした。同社 総務・人事本部 人事部 シニアマネージャーの高田ユリ氏は、「学習内容や時間の使い方は各自に任せられており、社員はより自律的にキャリアを考える必要がある」と述べる。

同社は、自社の存在意義・果たすべき役割として、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を掲げ、自らの変革として「DX人材への進化・生産性向上」に取り組むことを明言している。「当社の役割としてWork Life Shiftに取り組むことは、世の中への貢献にもつながると考えている」(高田氏)。同社は、コロナ禍による変化を前向きに捉え、多様な人材が最適な働き方を実現できるよう取り組みを進めるとともに、社内での実践を通じて得られた知見を顧客のDX推進にも活用していくという。

こうした先進企業の取り組みは、各社が推進してきた働き方改革を、With/Afterコロナのニューノーマルを見据えてさらに前進させようとするものだ。この機を活かして変革を加速し、生産性向上やイノベーション創出につなげることができるか、今後の動向が注目される。

リアルオフィスに必要となる機能
図3
富士通では、業務内容とオフィスに求められる機能を整理し、オフィスのあり方の見直しを推進

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