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[特集] With/Afterコロナ時代のサステナビリティ

《インタビュー》コロナ禍からの学びを活かした次世代のBCP

COVID-19の世界的な流行により、各企業において事業継続のためのさまざまな取り組みが行われている。
これからの時代、BCPに求められる役割や実効性を高める取り組みについて、リスクマネジメント、事業継続マネジメントについて研究を行う渡辺研司教授に聞いた。

結果事象にフォーカスした「オールハザード型BCP」の必要性

佐久間 新型コロナウイルス感染症の拡大が企業活動に大きな影響を及ぼしています。企業の事業継続に与える影響について、どのような見通しを持っておられますか。

渡辺 研司氏

渡辺 コロナ禍によって、企業はこれまでの慣習を変えざるを得ませんでした。たとえば、テレワークは以前から事業継続に有効といわれていたものの、なかなか浸透しなかったのですが、ここにきて急速に拡大しました。ただ、この変化を一過性のものとして捉えている企業があることは残念です。

重要なのは、転換期を見逃さないことです。Afterコロナの世界は、元の状態に戻る「回復」ではなく、「進化」に向かうと捉えるべきです。実際、〝転禍為福″とばかりに、業態や領域を変えるなど戦略や方針の転換を図り、進化し始めている企業があります。今後、産業構造や生活様式が変わっていく中で、日本の経済を引っ張っていくのは、そのような企業だと思います。補助金や事態の収束をじっと待っているばかりの企業は、いずれ淘汰されてしまうでしょう。今まさに、経営者の手腕が問われているのです。

佐久間 当社では、7月に、事業戦略や経営戦略、事業継続計画(BCP)の策定に関与する人を対象に「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査」を実施しました。全体の4割弱、大企業では6割以上が以前からBCPを策定していたと回答した一方で、コロナ禍においてBCPが「効果的に機能した」との回答は、16.7%とかなり少なめでした。

機能しなかった理由としては、パンデミックを想定できていなかった、あるいは世界各国で緊急事態宣言の発出や都市封鎖が行われる状況までは想定できていなかったというものが挙げられていました。企業では、既存のBCPには不足があったと捉え、見直しの必要性を感じているようです。先生はどのように見ておられますか。

渡辺 私は、16.7%という数字は意外に多いと感じました。おそらく企業は二極化しているのだと思います。

BCPは、大規模地震や風水害などの「発生事象」ではなく、それを機に起こるシステム障害や製造ラインの停止などの「結果事象」にフォーカスして策定しなくてはなりません。そうすることで、「オールハザード」、つまりさまざまな発生事象に対処できるものになります。今回の場合も、「多くの社員が出社困難な状況」という結果事象を想定していた企業は、テレワーク環境の整備などの対策を講じていたはずですので、在宅勤務にすぐにシフトして事業を継続することができたでしょう。一方、各災害など発生事象に合わせたBCPを策定していた企業では、おそらくBCPはうまく機能しなかったでしょう。それが調査の回答にも現れていると思います。

在宅勤務への切り替えなど対応が早いと感じたのはIT企業です。製造業では、一部大手で品質管理などをリモートで行う例はありましたが、特に中小企業は対応が難しかったと思います。それでも、業務を複数のチームに分散し、同時感染を防ぐスプリット・オペレーションを実施するなど、社員の安全・安心を確保するために、企業ではさまざまな取り組みが行われていました。

佐久間 調査の結果からも、事象特定型ではなく、想定外のリスクなどさまざまなリスクに包括的に対応できるオールハザード型のBCPへと転換していく必要性が高まっていることが明らかとなりました。

BCPの実効性を高めるために、企業はどのような準備を行っておくべきでしょうか。

渡辺 事業継続のための包括的なマネジメント(BCM)を行う必要があります。BCPの策定・運用・改善を行うPDCAサイクルを構築し、決められたことを行う「訓練」だけでなく、想定外の事案が起こった場合にも意思決定し行動できるよう、最悪のシナリオを作って「演習」を行うことが重要です。あるエネルギー企業では、製造・供給・販売・安全管理など各部署の中堅社員のつながりを作り、連携を強化するために、リスクシナリオを作成する取り組みを行いました。それぞれの持ち場の脆弱性を連鎖させるようなシナリオで演習を行うことで改善点をあぶり出し、対策を検討する。そうすることで、災害時においても、次に起こる事象を予測し、事前に打つべき手を考えることができるようになります。


佐久間 敦

レジリエンスを向上させるBCMの重要性

佐久間 先生は、日々起こる事象への対応の積み重ねこそが災害時の対応につながることであり、「動的なスタンバイ状態」を保っておくことが重要だということも仰っていますよね。そのような状態をどうやって作り、維持すればよいのでしょうか。

渡辺 社内で発生するさまざまな事象や事故に対し、その場の対応だけで済ませるのではなく、より深刻な状態になった時のことを皆で考え、小さな演習や議論を積み重ねていくことにより、多様なリスクに柔軟に対応する力を高めていくことが重要です。

BCPは分厚いマニュアルのようなものというイメージがあるかもしれませんが、手順やルールを事細かに盛り込むのではなく、原理原則を定めて、それに基づいて現場で判断し対応できるものにしたほうよいと考えています。自社のBCPの原理原則を社員に伝え、それに基づいて各現場で対応してよいのだと知らしめておくのです。そのためには、ある程度の権限移譲も必要でしょう。

たとえば、家庭用・産業用・医療用ガスのサプライヤーである北良株式会社は、BCPは策定していないのですが、実効性のある取り組みを行っているとして「中小企業BCP支援ガイドブック」の事例集に優良企業事例として掲載されています。それは、実態としてのBCPがあるからです。同社では毎週、社長が社員に万が一のことが起こったらどうするかを問いかけ、対応や自社の使命を絶えず考えていくという、BCPに値する取り組みを続けているのです。

佐久間 外部環境が大きく変化する中、事業を継続し、持続的な成長を続けていくために、経営者にはどのような姿勢が求められているのでしょうか。

渡辺 重要なことは、自社の残存リスクを認識すること、そのうえで、それらのリスクが顕現化・具現化することを前提として事業継続を考えることです。手元に残った経営資源をどう組み替えれば自社がなすべきことを実現できるのか考えてみるのです。

また、災害が起こったら無理に元に戻ろうとせず、この際だからこれは諦めて方向を変えるというような、転換のタイミングを見逃さないことです。地震により古い工場が被災したことから、それを機に保険金や補助金で最新鋭の工場を建てた企業がありましたが、そうした、ある種のしたたかさも必要です。大田区のある町工場では、コロナ禍の影響により会社を畳むことを決めたものの、取引先と交渉して会社を売却し、事業を継続させる方法を取ったそうです。これも、経営者としての責任を果たした例だと思います。たとえ転んでも、起き上がることができれば企業はさらに強くなります。市場や投資家もそれを見ています。そういう意味でも、BCPは経営者が考えるべきものなのです。

佐久間 With/Afterコロナの時代において事業を継続し、成長につなげていくためには、危機的な事象への対応力、回復力、弾力性を備えた「レジリエンス」の概念を経営戦略に組み込んでいくことが重要になっていくと思います。〈みずほ〉の金融機能も含めて、お客さまの事業継続を支援していきたいと思います。

渡辺 研司(わたなべ けんじ)氏
名古屋工業大学大学院 工学研究科社会工学専攻 教授
富士銀行、プライスウォーターハウスクーパースなどを経て、2010 年より現職。NISC サイバーセキュリティ戦略本部 重要インフラ専門調査会会長

・インタビュアー
佐久間 敦(さくま あつし)
みずほ情報総研株式会社経営・ITコンサルティング部 課長
1997年入社。リスクマネジメント、BCP策定に関するコンサルティングのほか、キャッシュレスやデジタル技術活用に関する業務を担当

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