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技術動向レポート

3D映像の過去・現在・未来

情報コミュニケーション部
シニアコンサンタント 前川秀正

本稿では3D映像の歴史と現在の3Dブームを概観した上で、3Dテレビの普及の現状について考察する。また、将来の3Dテレビとして期待される裸眼タイプの動向についてもその一端を紹介する。

3D映像の歴史

奥の物体は手前の物体に遮られると見えなくなる(=隠蔽)。遠方になるほど物体は小さく見える。(=相対的な大きさ)あるいは、大気中では遠方の物体ほど、彩度、明度、コントラストが低く見える(=大気透視)。

人間は様々な視覚的な情報を手がかりに奥行き感を知覚している。数ある手がかりのなかでも、近距離では左右の眼から見える物体の像の差異=「両眼視差」が奥行き感を知覚する上で最も有効な手がかりの一つであることが知られている。

現在実用化されているメガネ式の3D映画や3Dテレビは、いずれもメガネとプロジェクタあるいはディスプレイを組み合わせて、両眼視差を与えた映像をそれぞれ左右の眼に振り分けて送り込むことで立体視を実現している。

両眼視差を用いた立体視の歴史は意外に古く、既に紀元前3世紀にギリシャの数学者ユークリッドが彼の著書のなかでその原理について言及している。

1853年には、左右で異なる色のついたメガネをかけることで、左眼用と右眼用に映像を分割して提示するアナグリフ方式の原理が考案され、1920年代には同方式を用いた多くの短編作品が制作された。また、1891年には現在の3D映画でも採用されている偏光方式の原理も考案され、1929年の偏光フィルターの実用化に伴い、本方式による作品も制作されるようになった。

これまで、3D映像は何度となく流行と衰退の歴史を繰り返してきたが、なかでも過去に二度の大きなブームがあったとされている。一度目は米国で家庭へのテレビの普及がはじまった50年代。二度目は同じく米国においてケーブルテレビの普及がはじまった80年代。

しかし、いずれのブームも3年程度で終息してしまうことになる。

立体映画研究家の大口孝之氏は「立体映像のブームと失敗の研究※1」のなかで、一度目のブームの終息の原因を「内容的な問題」と「鑑賞システム上の問題」の二つの面に分けて指摘している。

内容的な問題については、「立体効果頼りのおろそかなストーリー」、「立体感の過剰な強調による陳腐な演出」、「鑑賞の邪魔になる立体効果」、「撮影やポストプロダクションのコストの大きさ」の四点をあげている。

これらはいずれも現在の3D映像に対する過去からの貴重な教訓である。3D映像といえども、それだけで鑑賞ニーズを喚起し続けることができるようなものではなく、逆に適用の仕方を誤れば陳腐な演出や鑑賞の邪魔といった負の効果を生み出す危険性をはらんでいる。3D映像の表現力を効果的に活かす技術やノウハウが重要であることがわかる。また、3D映像がビジネスとして成立するためには制作コストの低減も欠かせない。

鑑賞システム上の問題については、「映像機のシンクロのずれ」、「偏光メガネの不足」、「メガネの使いまわしにより病気がうつるという風評」、「長時間の立体視による疲労」、「メガネをかけることの煩わしさ」をあげている。

映像機のシンクロのずれや偏光メガネの不足については現在ではまず問題はないとみてよいだろう。一方、アクティブシャッター方式や波長分割方式のような高価なメガネを使う場合には、メガネは使いまわしになり、病気とはいかないまでも衛生面での不安は残るところである。また、立体視による疲労については現状でかなり改善してきてはいるものの今後も引き続き取り組むべき大きな課題である。

メガネの煩わしさについては、メガネを用いる限り、多少の改善はあっても根本的に解消されることはない。裸眼立体視が唯一の解決策となる。

三度目のブームの到来

二度目のブームの終焉からほぼ四半世紀が経過した現在、3D映像は再び大きなブームを迎えている。今回のブームは、2005年にラスベガスで開催された映画興行関係者向けのコンベンション「ShoWest」でのシンポジウムが発端とされている。ここで、ジョージ・ルーカスやジェームズ・キャメロン、ロバート・ゼメキスといった著名な映画監督やプロデューサが壇上に3Dメガネをかけて並び、記者会見を行った。

その後、3D映画は2D映画を大きく上回る良好な興行成績を収めつつ、05~08年にかけて13作品が、さらに09年には過去4年間の累計を超える18作品が公開された(Screen Digest調べ)。そして、09年末には、世界歴代興行成績の新記録を樹立した3D映画の金字塔「アバター」が公開されることになる。

3D映画がビジネスになることが認知されたことで、今後、3D映画を上映できるスクリーン数は急ピッチで増加していくことが予想される。調査会社のシード・プランニングによれば、18年には世界の全スクリーンの22%が3D対応になるとの見込みである。

肝心な作品の方も、少なくともあと2年は十分な供給量が見込まれる。現時点でわかっているだけでも、11年に24作品、12年に15作品が公開される予定である(10年11月23日時点のBox Office Mojoの公開データをもとに集計)。ちなみに、このままいくと10年には23作品が公開される。

3D映画という強力な3Dコンテンツを家庭に届けるべく、09年12月に3D対応のブルーレイ・ディスクの規格策定が完了した。そして、「アバター」の快進撃に注目が集まるなか、10年1月に米国で開催された世界最大の家電見本市「2010 InternationalCES」では、家電メーカ各社が、「薄型」、「デジタル」、「ハイビジョン」に続くテレビの新機軸として「3D」を大々的に打ち出した。

これを境に、08年9月の家電見本市「CEATECJAPAN 2008」においてパナソニックが103インチ3D対応プラズマテレビを発表したのに端を発した家庭向け映像機器・ソフトの3D対応の動きが、一般の人の目にも見える形で一気に加速していく。

主役のテレビについてみると、国内では4月にパナソニックが先陣をきって3D対応のプラズマテレビの販売を開始した。続いて、6月にはソニーが4倍速の3D対応の液晶テレビを、7月にはシャープが4原色技術を採用した3D対応の液晶テレビを発売した。

さらに、8月には三菱電機がリアプロジェクション方式の大型レーザーテレビで、10月には東芝が高性能プロセッサを搭載した液晶テレビで、それぞれ3Dテレビ市場への参入を果たしている。10年度末には日立製作所からも3Dテレビが投入される見通しで、10年度内に国内の主要な家電メーカから3Dテレビが出揃うことになる。

この他、ハード面では、ブルーレイ3Dの再生対応機が既に各社から投入され、ビデオカメラやデジタルカメラ、パソコン、ゲーム機、スマートフォンなどでも次々と3D対応の製品が発売あるいは発売の計画が発表されている。

ソフト面では、4月からケーブルテレビ国内最大手のJ:COMがVOD方式による3Dコンテンツの配信を開始し、6月にはCS放送のスカパーJSATが3D専門チャンネルを開局している。BS放送でもBS朝日がパナソニックとコラボレーションする形で11月から3Dのレギュラー番組を放送している。

また、本格的な3D放送は当面難しいと思われるが、地上波でもTBSがホワイトスペース(空き周波数チャンネル)を使って、受信エリアが半径100m以内の小規模な試験放送を行っている。さらに、これまでは3D映像機器へのバンドルが中心であったブルーレイ3Dも年内に25作品が発売される模様である。

過度な期待の終息

夏を過ぎた頃から3Dテレビに対して、「不振」、「苦戦」、「低調」、「期待はずれ」といった言葉が目につくようになってきた。それを裏付けるように、10月には米国の調査会社ディスプレイサーチ社も10年の3Dテレビの出荷台数の予測を下方修正している。また、家電メーカ幹部のコメントからも出荷台数が期待したほどには伸びていない様子がみてとれる。

しかし、これはひとえに3Dテレビに対する期待が実態以上に大きくなりすぎた反動ではないかと思われる。現時点ではテレビなどの映像機器がとりあえず一通り出揃ったにすぎず、2Dテレビとの価格差もまだ多くの消費者にとって許容されるレベルにはない。ソフトにいたっては、特に量の面で圧倒的に不足している状態にあり、そう簡単に消費者が3Dテレビに飛びつける状況にはないのが実情である。

図表1は09年8月と10年10月に米国の調査会社ガートナー社が発表した「先進テクノロジーのハイプサイクル」をもとに、3Dテレビの状況をハイプサイクル上にプロットしたものである。

ハイプサイクルとは、同社が考案した話題や評判が先行しがちなIT分野の新技術が実際に普及するまでにたどる期待度の時間変化を示したものである。(1)黎明期、(2)流行期、(3)反動期、(4)回復期、(5)安定期の五つのステージからなる※2

09年8月には、3Dテレビ(3Dフラットパネル・ディスプレイ)はまだ世の中に登場したての「黎明期」、しかもその初期段階にあった。それが10年8月には、期待度がほぼピークに達する「流行期」に突入している。「2010 International CES」以降の3D関連の映像機器やソフトの相次ぐ市場への投入や計画の発表、家電メーカ各社による大々的なプロモーション等により過剰に期待が高まった、いわゆるバブルの状態にあったといえよう。

ピークが過ぎると今度は過剰な期待に対する「反動期」が訪れる。同社の指標によれば、メディアによる否定的な論評のはじまりが、「流行期」から「反動期」へのステージ移行のシグナルになる。ちょうど現在の状況がこれに相当すると思われる。

今後についていえば、期待度が持ち直すことなく市場から消えてしまうことがなければ、新技術の有用性が徐々に明らかになっていく「回復期」を経て、適度に成熟していく「安定期」を迎えることになる※2

図表1 ハイプサイクルでみた3Dテレビの期待度の時間変化
(ガートナー社のハイプサイクルを用いて、みずほ情報総研が作成)

図表1 英ハイプサイクルでみた3Dテレビの期待度の時間変化

普及の現状

社団法人電子情報技術産業協会の統計※3によれば、10年4~9月の6ヶ月間の3Dテレビの国内出荷台数の累計は約13万台で、同期間に出荷された薄型テレビの1.34%を占めた(別売の3Dメガネやトランスミッターを追加することで3D映像の表示が出来るものも含む)。現在の3Dテレビは大型サイズのみでの展開のため、37型以上に限ってみるとその構成比は4.12%となる。

国内の世帯数を5,000万世帯とすると、9月末時点の世帯普及率は0.26%。10月以降は大手家電メーカからの3Dテレビがほぼ出揃っていること、それぞれのラインナップが充実してきたこと、そして、エコポイント減額による駆け込み需要が発生したこと等を勘案しても、12月末までの世帯普及率はせいぜい1%程度といったところであろう。

物価や所得の水準など時代背景が大きく異なり単純に比較することはできないが、テレビの買い替え時に移行の期待が持てるという意味でカラーテレビは3Dテレビと共通点を持つ。

国産初のカラーテレビが発売され、カラーの本放送が開始されたのが1960年。一方、普及率が価格に関係なく新製品を追い求める「イノベーター」と呼ばれる消費者グループの構成比に相当する2.5%を突破したのが67~68年。さらに広く普及するか否かの一つの目安とされるクリティカルマスの構成比である16%を超えたのが69~70年で、実に最初のカラーテレビの発売と放送の開始から10年近くの歳月を要している。

また、ここ数年で一気に普及が進んでいる薄型テレビも、クリティカルマスを超えたのは2005~06年のことで、比較的大型(10.4インチ)の民生用液晶テレビがシャープから発売された1995年からやはり10年近くが経過している。

2010年は「3Dテレビ元年」と呼ばれているが、実際には国内の3D放送は07年末からBS11において既にはじまっていた。それを視聴するための韓国ヒュンダイ製の3Dテレビが発売された08年から数えても、現時点ではまだ3年しか経過していない。

カラーテレビや薄型テレビなどの過去の普及事例を鑑みれば、現在の普及率をみて、3Dテレビの将来性をそれほど悲観する必要はないだろう。

少なくとも大型のテレビについては、近い将来、3D対応機能が標準で搭載されていくことが予想されるため、テレビの買い替えの進展に伴い、3Dテレビの普及は半ば自動的に広がっていくものと思われる。

内閣府の統計によれば、テレビの平均使用年数はおよそ10年であることから、05~06年にかけて先行して薄型テレビを購入した比較的大きなボリューム層の買い替えがはじまる15年前後から徐々に普及が加速し、エコポイントによる買い替え層が次の買い替え時期を迎える20年頃には本格的に普及が進むのではないかとみている。いずれにしても、3Dテレビの普及は長い目でみていく必要があるだろう。

3Dテレビの将来にとってより重要なのは、3D映像が文化として定着し、市場を創造していけるかという点にあると考える。いくら「3D対応機能付き」テレビが普及しても、その機能が使われなければ意味がない。

そのための鍵は、3Dテレビならではの映像表現を価値ある体験として提供できるような、放送番組やブルーレイ・タイトル、ゲームなどをいかに数多く生み出していけるかにかかっている。

なお、3D映像の特長を活かすには音響も非常に重要であると思われる。せっかく、コンサート会場の最前列の目線からの3D映像を視聴しても、観客の声援が前方から聞こえてきたのでは臨場感は半減してしまうだろう。

裸眼3Dテレビへの挑戦

みずほ情報総研が10年2月に実施したアンケート調査の結果では3Dテレビの購入意向者は4割強。このうち、3Dテレビで視聴したいとする人の割合が高かったコンテンツは「映画」と「スポーツ」で、それぞれ9割、6割強であった。また、「演劇/公演」、「特撮」、「アダルト」では、3Dで視聴したいとする人の割合が、現在(2Dで)視聴している人の2倍を超えた。

これらはいずれも「ながら見」があまり向かないジャンルである。3Dテレビが普及しない理由としてよく指摘される3Dメガネであるが、このようなコンテンツであればメガネをかけること自体は実はそれほど大きな障害にならないかもしれない。

一方で、前出の調査の結果で6割弱を占める3Dテレビの非購入意向者のうち、4割の人は購入に否定的な理由としてメガネをかけて視聴することへの抵抗感をあげている。今後、このような人たちに対しても3Dテレビを訴求していくのであればメガネなしは重要なポイントとなってくるだろう。

12月に東芝が民生用の液晶デジタルテレビとしては世界初となるメガネなしで3D映像を楽しめる裸眼3Dテレビを発売した。物体からの反射光を複数方向(水平方向のみ)からサンプリングしたのと同等の光を、レンチキュラシートと呼ばれるカマボコ型のレンズアレイを使って、それぞれ対応する方向に放射する。実際の物体からの反射光に近い光を再現することができるため、専用のメガネをかけなくても自然な立体視が可能となっている。現時点では、まだサイズが小さく、立体感についてもメガネ式には及ばないものの、裸眼3Dテレビを身近な未来として予感させてくれる。

この方式の3Dテレビはメガネが不要であるとともに、実際に物体を見るときと同じように、視聴する位置に応じた3D映像を楽しむことができる。これは同時に、視点移動による視差=「運動視差」という奥行き感を知覚する上で有効な新たな手がかりを入手できることをも意味する。今後、このような3Dテレビが普及すれば、従来にはなかったような新たなコンテンツや視聴形態の登場も期待できるだろう。

メガネ式の3Dテレビでは、眼のピントはテレビの画面上に合っているにも関わらず、立体像はその前後に知覚される。このため、「ピント調節」と物体に両眼の視線を交差させる「輻輳」の深度が一致せず、この乖離が大きい場合には視覚疲労や不快感を生じることになる。

現在、物体から実際に反射される光を再現することで、ピント調節と輻輳の不一致を解消し、さらにはピント調節を奥行き感の知覚の手がかりとして利用できるような「インテグラルフォトグラフィ方式」や「ホログラフィ方式」といった、より自然な立体視を実現できる3Dテレビ(ディスプレイ)の研究開発が進められている(前出の裸眼3Dテレビは垂直方向の視差を放棄したインテグラルフォトグラフィ方式)。実用化されれば、実物に近い自然な映像で、しかも自由な姿勢で視聴でき、生体安全性も高い理想的な裸眼3Dテレビが登場することになる。

現時点ではまだ原理や可能性を実証するための試作段階にあり、家庭向けの製品として実用化されるまでにはまだ10年単位の時間がかかるものと思われる。非常に息の長い研究開発を要するため、常に営利が求められる企業だけで取り組むには困難な研究開発テーマと言える。中期的なマイルストーンを設定し、その時々の状況に応じたフレキシブルな対応を図ることを前提としつつも、長期的な視点にたった国等による継続的な支援が期待されよう。

参考文献

  • 磯野春雄(2009)「奥行き感と立体情報」3次元画像工学特論:第2回
  • 大口孝之(2010)「3Dブーム・失敗の研究 ~同じ過ちを繰り返さないために~」3Dコンソーシアム・立体映像技術研究会合同シンポジウム講演資料(※1)
  • シード・プランニング(http://www.seedplanning.co.jp/press/2009/2009071701.html
  • 本田雅一(2010)「インサイド・ドキュメント 3D世界標準を作れ!」小学館
  • 川上一郎(2010)「Digital Cinema Now! 第43回:3Dエンターテインメント・サミット速報」月刊フルデジタルイノベーション2010/10 Vol.133:p.41-43
  • 3Dコンソーシアム安全ガイドライン部会(2010)「人に優しい3D普及のための3DC安全ガイドライン」
  • ガートナー(http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20090908-01.html
  • ガートナー(http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20101019-01.html
  • @IT情報マネジメント(http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/hypecycle.html)(※2)
  • 電子情報技術産業協会(2010)「3D薄型テレビ及び3Dパソコンの国内出荷実績について」(※3)
  • 内閣府経済社会総合研究所景気統計部(2004)「主要耐久消費財等の普及率(全世帯)」
  • 内閣府経済社会総合研究所景気統計部(2010)「主要耐久消費財の買替え状況(一般世帯)」
  • みずほ情報総研(2010)「3Dテレビに対する購入意向およびその特性と普及要件 「3Dテレビに関するアンケート」調査結果から」
  • 東芝(http://www.toshiba.co.jp/regza/option/gl1/quality.html
  • 苗村健他(2008)「立体視テクノロジー ─ 次世代立体表示技術の最前線─」NTS
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