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社会動向レポート
宮古市・気仙沼市・南三陸町での現地調査を踏まえて

被災地の高齢者の自立支援をめぐる現状と今後の課題について

社会経済コンサルティング部 年金・福祉チーム 福祉・労働課
課長 山岡由加子
チーフコンサルタント 羽田圭子
コンサルタント 小曽根由実

被災地における高齢者の自立支援に向けては、震災で被害を受けた介護予防や相談支援の拠点の再建と共に、孤立を防ぐための交流機会の創出、移動や買い物等の日常生活支援が必要とされる。加えて、高齢者自身が地域の復興やコミュニティづくり等で活躍できる機会づくりも重要である。

はじめに

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、私達の想定をはるかに超えた被害をもたらした。震災は老若男女を問わず人々の生活に大きな影響を及ぼしているが、中でも社会的弱者となりやすい高齢者については、生活の場や状況に大きな変動があり、家族や地域のネットワークも失われる中において、健康で自立した生活の継続が脅かされる状況が容易に生じうる。

当社は、6月初旬に国際NGOであるワールド・ビジョン・ジャパン(以下、WVJと表記*1)から、東日本大震災緊急・復興支援に係るアセスメントを実施する機会を頂戴し、筆者を含むコンサルタント3名が現地入りし、被災地における高齢者に関する調査を実施した。具体的には、津波により特に甚大な被害を受けた岩手県宮古市、宮城県気仙沼市・南三陸町の3市町を対象に、当該市町の行政機関や仮設住宅に入居している要支援・要介護認定を受けていないおおむね65歳以上の高齢者(以下、元気高齢者と表記)等に対するヒアリング調査を実施したものである。

本稿では、現地でこの調査を行ったコンサルタントから、今、被災地の元気高齢者の生活の実態がどのようになっているか、そしてそれら高齢者が健康で自立した生活を続けていくためにはどのような支援や環境整備が必要であるかについて、それぞれの感想も含めレポートする。

(山岡由加子)

コンサルタントレポート1 被災地の元気高齢者に対する「健康維持」支援の方向性

3月11日14時46分。16時からの打合せを控え、急いで資料を作っている時だった。「地震だ」の声が職場のあちこちから上がり始めた。揺れはなかなか収まる気配がない。しかも右に左に大きく揺れる。席から立ち上がった瞬間、真後ろの本棚の本や資料がバラバラと落ち始めた。よくテレビで目にする地震体験のあの光景そのもの。「こうやってモノは落ちるのか…」と、その様を妙に冷静に眺める自分に驚く。

夜になってインターネットニュースで「海岸で30体ほどの遺体を発見、津波が原因か」の文字を見たとき、思わず声に出してそれを読み上げていた。職場の同僚たちも皆「えっ?」と声を詰まらせた。2011年7月現在、結果として東日本大震災による死者は1万5千人を、行方不明者は4千人を超えている。あまりにも甚大な被害である。

震災からの復興に向け、何か自分ができることはないか。そう考えていたところ、6月初旬にWVJから調査の機会を頂戴した。

実際に現地を訪れて改めて気付かされたのは、今回の震災は地震そのものよりも津波による被害が圧倒的に大きいという事実である。山を越えて南三陸町に入った瞬間、そこには瓦礫しか見当たらないと言っても過言ではなく、テレビ等で報道されている「壊滅状態」という言葉がイヤというほどよく飲み込めた。数年前に出張で訪れたことがあるからこそ余計に、一面が瓦礫となったその町にカメラを向けることはできなかった。

一方で宮古市や気仙沼市では、海岸線に程近い場所であっても曲がり角をひとつ曲がるだけで津波被害の程度が大幅に異なる区画もあった。また、こちらの高台には津波が到達しているが、同じ高さのあちらの高台には到達していないなど、場所によって明暗が分かれたことが見て取れた。

このような中、3市町ともに5月上旬から被災者の仮設住宅への入居が始まっている。そもそも高齢化が進んでいる市町であるため元気高齢者の入居も多いが、いずれの市町も6月初旬時点で保健師を主とした行政による「仮設住宅入居高齢者」の状況把握を正に開始したばかりであり、元気高齢者の実態は掴めていないとのことであった。

震災により体調を崩したり、精神的な不安を抱いたりしている被災者は少なくない。とりわけ元気高齢者にとっての「健康維持」は、要支援・要介護状態に陥らないために最優先で取り組むべき事柄であると言えることから、その状況把握と「健康維持に向けた取り組み方策の検討・実施」が早急に望まれる。

以下、本レポートでは3市町におけるヒアリング調査結果を踏まえ、3市町のみならず被災地全域における元気高齢者に対する支援方策について、「健康維持」の観点から大きく2点述べる。

(1) 介護予防事業の円滑な推進―ハード・ソフトの両面から―

元気高齢者に必要な方策としてまず、「介護予防事業*2を展開するためのハード面での支援」を挙げることができる。というのも、いずれの市町においても介護予防拠点となる地域包括支援センターや社会福祉協議会等が津波により流出・損壊し、あるいは避難所や支援物資の保管場所として利用され、介護予防事業の実施が困難なのである。

仮設住宅からの交通手段が限られていることもあり、買い物を含め思うように外出することが難しい高齢者が介護予防事業にも通えない状態は、要支援・要介護状態に陥る可能性を高めるとも考えられる。まちづくり計画等との兼ね合いからすぐに介護予防拠点を再建することは難しいかもしれないが、「取り急ぎ仮設でも介護予防拠点を設置するとともに、そこへの移動手段(たとえば巡回バス等)を確保する」ことが不可欠ではないか。

また、これまで通り自宅で暮らしている元気高齢者であっても、移動手段を十分に確保できなかったり、隣近所が仮設住宅に入居したりすることで孤立し、自宅に引きこもりがちになる可能性も否定できない。このような元気高齢者に対しては「健康維持をサポートするための個別アプローチ」が有効であり、「個別アプローチを行う人材の確保」が支援メニューの一つとなろう。たとえば気仙沼市では、高齢者の引きこもり対策や生活相談への対応を兼ねて社会福祉協議会が「生活支援相談員」の新規配置を検討しているなど、サポート体制の充実が図られる予定である。

(2) 元気高齢者が活躍できる仕組みの構築

続く支援方策として、「復興活動や地域コミュニティの形成に元気高齢者が参画できる仕組みの構築」を挙げることができる。労働者として一線から退いた後は社会貢献したいと考える高齢者が少なくないことは一般的に知られているが、仮設住宅に入居する高齢者からも「復興活動に何らかの形で貢献したい」との声が数多く聴かれた。高齢者がこれまでの生活・仕事で培った知識・経験・能力は必ずや復興活動や地域コミュニティの形成に資するであろうし、これら活動を通じて元気高齢者自身も健康を維持することができよう。

たとえばこのような仕組みの一つの方法として、あるシルバー人材センター*3の職員から「これまでのように仕事を引き受けるだけでなく、会員が雑巾を作成・販売する」「買い物に不便を感じている高齢者に注文を取り、会員がそれを購入して届ける」といった個人的なアイデアを聴くことができた。何か新しくハコモノを造るのではなく、すでにある地域資源を活用しながら知恵を出し合って元気高齢者が活躍できる仕組みを構築することは、地域住民から受け入れられやすく、ひいては活躍の場の拡大にもつながるのではないか。

あの日のインターネットニュースから受けた衝撃はあまりに大きく、南三陸町をこの目で見た瞬間のショックは到底言い表すことができない。そして、気仙沼市の仮設住宅でひときわ丁寧にヒアリングを受けてくださった80代の女性に「兄弟7人なんだけど、6人は流されちゃってね」と最後に言われた時には正直なところどうしてよいかまったく分からなかった。また、帰りの新幹線の駅の売店で店員の方が「遠くから来てくれてありがとう。疲れたでしょう」と声を掛けてくださった時には現地の方々の心遣いに涙がこぼれかけた。

今回はアセスメントでもあり、自身としては「復興を支援した」というよりも「復興に向けて何が必要かを教えていただいた」に過ぎないと考えている。こうした機会を頂いたことを大変ありがたく思うとともに、一刻も早い具体的支援の早急な展開の必要性を痛切に感じた。

(小曽根由実)

コンサルタントレポート2 仮設住宅の高齢者に対する包括的な支援のあり方について

今回の調査では、5月上旬から順次、入居が始まった仮設住宅の入居高齢者等に対するヒアリング調査を実施した。ここでは、その結果を踏まえ、要支援・要介護認定を受けていない元気高齢者の生活環境に対して、どのような支援が求められているのか述べてみたい。

(1) 仮設住宅の生活環境整備への支援

仮設住宅は原則2年の「仮の住まい」ではあるものの、2年という期間は長い。日々の生活の場であり、仮設住宅の生活を暮らしやすく、より快適なものとするハード、ソフトの両面からの支援が求められている。

仮設住宅は学校の敷地、公園、キャンプ地などの高台の公有地に建てられることが多いため、入居者からは「買い物や通院が不便」という声が少なくなかった。高齢者は足・腰が悪く、自分で車を運転して外出することが困難な方が多く、同居・近居の子どもや親戚に運転を依頼するという方がみられた。買い物、通院、趣味活動等の外出を支援する巡回バス、送迎サービス、乗り合いを支援するしくみ等が求められている。

外出の足を確保する他、仮設住宅や近隣に商店街を設けることも有効である。ヒアリング時、宮古市のグリーンピア三陸みやこ(248戸)においては、商工会議所の協力もあり、早期にミニ商店街が設置されていた。市役所としては、100戸を下回るような小規模の仮設住宅の場合は、商店街の設置は難しいため移動販売車の活用も考えられているとのことで、地域の実情にあわせ、きめこまかな支援が必要である。

(2) コミュニティ形成への支援

一口に「高齢者」といっても、年齢の幅が広く、心身状況や活動状況なども様々である。高齢期においては、積極的に身体を動かし、人と交流をして、生きがいをもった生活を送ることが心身機能の低下を予防する上で重要だと言われるが、加齢にともない、医療や介護、様々な生活支援サービスを必要とする場面が増えてくる。

仮設住宅においてもコミュニティの形成が重要だと言われるが、社会性を維持し、人とのつながりができることによって、閉じこもり、運動不足、うつ、アルコール中毒、虐待、いわゆる孤立死(孤独死)などを予防することにもつながると考えられる。

実際、入居者ヒアリングにおいても、「旧地区の住民がたくさんいるので安心、心強い」という声がよく聞かれる一方で、「一人ぐらしで知り合いもなく、毎日することもないので、テレビに向かって文句を言っている」、「夫(もしくは妻)が病気などで世話や介護を必要とするので、仮設住宅の入居者との交流は難しい」といった孤立をうかがわせる方もいた。

この点、宮古市では地域一括原則(震災前のコミュニティの住民はなるべく同じ仮設住宅に入居できること)による入居が行われており、大規模な仮設住宅においては旧来の地縁を生かしたコミュニティ形成が期待できる。しかし、数戸~十数戸の小規模な仮設住宅や、地域一括原則がとられていない地域においては仮設住宅でのコミュニティの形成が難しいといわれている。

仮設住宅への入居者を決める際の配慮に加え、入居後、仮設住宅での生活にうまく適応できるための支援として、仮設住宅での生活に役立つ情報の提供、町内会・自治会の組織化、入居者同士の交流の機会、近隣住民との交流の創出等が望まれる。

(3) 入居者の意思の尊重

仮設住宅の入居者40人に就労や地域の様々な活動への参加意向についてうかがったところ、半数の方が「意向がある」と回答された。70~80歳代の方にも前向きに意向を示される方がいた。震災から3ヶ月も経たない時期、入居したばかりの仮設住宅で、被災者の方々が震災前の生活や新たな生活への意欲を示されたことには感銘を受けずにはいられなかった。現地でヒアリング調査を行ってみて、復興にあたっては、こうした入居者の意欲を尊重することが大切だと改めて感じさせられた。

入居者が希望する活動、あるいは実際にしている活動としては、就労、力仕事、畑仕事、大工仕事、町内会・自治会、近隣の清掃、サロン、散歩、手芸、園芸等、様々である。今後はそうした活動の場や機会の提供が復興期の課題となるであろうが、入居者自身の発案で、そうした活動が立ち上がり運営されることなども期待したい。

(4) 連携によるきめ細かな支援

元気高齢者の場合、医療や介護といった専門職とのつながりがないため、ニーズが支援につながりにくいことも考えられる。相談機関等は、被災者の電話や来所による相談を待つだけでなく、訪問して相談を受けたり、地域の住民ネットワークなどを通じて、きめ細かな希望やニーズをくみ取るしくみが求められるであろう。国においても、仮設住宅等における総合相談、デイサービス、生活支援等を包括的に提供するサービス拠点の設置・運営に要する費用を計上し、被災した高齢者等に対する生活支援を進めているところである。

震災以降、現在にいたるまで、行政職員、地域包括支援センター、保健医療機関、社会福祉協議会、介護・予防事業者、NGO・NPO、ボランティア団体、民間企業、個人等が連携して復旧・復興にあたっているが、上記のような国の支援策も活用しながら、連携を今後も継続し、発展していくことが望まれる。私自身も引き続き関係機関と連携をしながら被災者の方々の支援に関わっていきたいと感じている。

(羽田圭子)

おわりに

調査にあたって、我々は「高齢者参加型の復興支援プラン」というコンセプトを持って、高齢者の実態とニーズの把握を試みた(図表)。それは、高齢者が「生きがい」を感じられる生活を再建していくことが重要であるとの考えのもと、高齢者が仮設住宅を含む新たなコミュニティで交流を図りながら、地域の復興に向けた活動に参画していく社会を目指すものである。

図表 被災地の高齢者支援のコンセプト

高齢者が「生きがい」を感じられる生活に向けて―高齢者参加型の復興支援プラン―

先の各コンサルタントのレポートでもわかるように、このコンセプトは調査の中で適合性が一定程度確認されたものの、いざ現地に調査に入ると、被害があまりに甚大であるがゆえに高齢者支援の拠点等の基盤そのものが失われてしまっている、高齢者自身の状況把握が十分になされていないなど、まずもって取り組まねばならない課題も多く散見されたところである。

現在、国及び各県においては、仮設住宅等への介護・福祉サービス拠点整備やその運営への助成、被災した高齢者に対する専門職による相談・生活支援、介護予防拠点等を含む社会福祉施設等の災害復旧支援のための財政援助などの取り組みを進めている。今般成立した第二次補正予算では、社会福祉施設等の再建を支援するための二重債務問題への対応も盛り込まれた。また、被災者の孤立死を防止するための取り組みについても、各地の先進的な事例が紹介されながら有識者等の参画のもとに検討が進められている。この8月には、兵庫県が宮城県内7市町の障害者や高齢者向け仮設住宅に運営アドバイザーを派遣し、阪神淡路大震災の高齢者の孤独死やアルコール依存などの問題の教訓を踏まえた支援を行うという報道*4もあった。

このように、国、県、市町村は3月11日以降、総力を挙げて被災地の復旧と復興支援にあたっているが、支援策の決定に時間がかかり、支援を受けるにも事業主体の制限や自己負担などの要件があることも多い。また、地域、地区によって被害状況や復旧・復興のテンポに違いがあり、必要とされる支援も異なることから、今後は地域の状況に応じたきめ細かな支援が必要とされる。

今回の調査では、調査の依頼元であるNGOのWVJと調査の行程をご一緒させていただいたが、多くの民間団体の活動が被災地の復旧・復興をきわめて早期の段階から支えていることが調査の過程を通じてよくわかった。今後は、行政と民間の活動とがコミュニケーションを密に取り、互いの強みを生かし弱みをカバーしあいながら連携し、各地域の実情に応じたきめ細かな支援が短期的のみならず中長期にわたって展開されることが必要となろう。

(山岡由加子)

脚注

  1. *1ワールド・ビジョン・ジャパン(http://www.worldvision.jp/
  2. *2介護予防事業とは、65歳以上の高齢者を対象に、介護が必要となる状態を予防することを目的とした介護予防の講座や講演会、保健師や社会福祉士等の専門職による訪問指導・相談などを行う事業。
  3. *3シルバー人材センターとは、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に定められた、企業・家庭・公共団体等から高齢者にふさわしい仕事を引き受け、会員に請負あるいは委任の形式で仕事を提供する団体。
  4. *4日本経済新聞電子版、2011年8月9日
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