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社会動向レポート

わが国医療サービスの国際展開促進に向けた課題と展望(1/3)

社会政策コンサルティング部 コンサルタント 清水 徹

わが国の医療法人による医療サービスの国際展開の動きが進んでいる。法規制や市場環境が異なる海外で事業を展開するに当たっての課題を既存の取組みを基に整理するとともに、課題への対応の方向性を検討した。

はじめに

近年、日本の医療法人や医療機器メーカー等が、新興国を中心とした海外において、その国の医療機関に対する日本の技術・ノウハウの提供、現地医療人材に対する教育を行ったり、さらには現地の医療機関等と共同/あるいは単独でクリニック、診断センター、総合病院などの医療施設を建設するなど、医療サービスの国際展開を行う動きが進んでいる。

医療法人独自の取組みに加え、政府においても、経済産業省が、平成22年度補正予算より、医療サービスの国際展開を行う事業者に対するF/S調査・実証事業への補助事業として国際展開の支援を行っており、「日本再興戦略」(改訂2014)(2014年6月24日閣議決定)においても、「医療の国際展開については、他国における医師・看護師等の人材育成、公的医療保険制度整備の支援や民間保険の活用の促進、一般社団法人メディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)を活用した医療技術・サービス拠点整備などの医療関連事業の展開を図るとともに、国際共同臨床研究・治験の推進、日本で承認された医薬品・医療機器について相手国での許認可手続の簡素化等の取組をより推進する」ことが位置付けられている。

2014年3月には、医療法人の附帯業務として、「海外における医療施設の運営に関する業務」が追加され、海外において医療施設を運営するために現地法人に出資することも一定の条件の下で認められることとなった(1)

医療サービスの国際展開は、政治、経済、生活水準、医療・公衆衛生水準、医療従事者・医療機器・医療施設等に係る各種法規制、医療保険制度などの前提条件が異なる未知の領域での取組みであるため、実際に事業を進めるに当たって困難に直面することも多い。

そこで、本稿では、既に医療サービスの国際展開を実施している事例及び経済産業省の「医療機器・サービス国際化推進事業」(平成25年度又は平成26年度)において国際展開に向けた実証事業・需要調査に取組んでいる事例を基に、国際展開に向けて事業者(主として医療法人)が直面する主な課題を整理するとともに、課題への対応の方向性を検討した。

1. 医療サービスの国際展開の現状

以下は、実際に医療サービスの国際展開を行っている事例及び経済産業省の事業において検討が進められているものを整理した図表である(図表1~7 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例)。これを見てわかるように、医療サービスの国際展開には、施設整備を伴わないソフト面での国際展開と、クリニック、診断センター、治療センター、病院建設などの施設整備を伴うものがある。

(1)ソフト面での国際展開

ソフト面での国際展開の事業形態としては、現地の医療機関において、現地の医師や看護師、技士等に日本式サービスの提供に必要な技術指導、機器の使用方法の教育研修を行ったり、遠隔診断などのサービスを提供するものがある。教育を提供するものとしては、名古屋大学と医療機器メーカー・医薬品メーカーによるコンソーシアムが日本から医師を派遣して、ベトナムの医療機関において現地の医師に対して日本式内視鏡診療のトレーニングを実施した例などがある。

サービスを提供するものとしては、公益財団法人がん研究会が、中国の北京大学深?医院とインドネシアのGading Pluit Hospitalに病理遠隔診断サービス(2)を提供した例などがある。こうした形態では、事業者が自ら施設整備や現地人材の雇用を行うことはないため、事業規模や事業リスクは病院等を建設する形態に比べ小さくなる。

(2)ハード整備を伴う国際展開

ハード整備を伴うものとしては、クリニック、診断センター・健診センター、特定分野の治療センター、病院の開設が挙げられる。

クリニックは、外来診療や外来手術を中心としたサービスを提供するものである。病院を開設する場合に比べ、相対的に集患リスクや投資規模は小さい。既に開設されたものとしては、カンボジア(プノンペン)におけるKNIグループ(北原国際病院)による脳卒中後患者のリハビリ等を提供するクリニックや、インドネシア(ジャカルタ)における偕行会グループによる透析治療等を提供するクリニックがある。

診断センターや健診センターは、CT、MRI等の診断機器や、血液検査室等の検査設備を有し、画像診断や内視鏡検査、検体検査などを行うものである。事業モデルは比較的単純だが、高度な医療人材の確保が必要である。既に開設されたものとしては、ロシア(ウラジオストク)における社会医療法人北斗による画像診断センターがある。

特定分野の治療センターは、透析、放射線治療などの特定分野の治療を提供するものである。診断センター同様、事業モデルは比較的単純だが、高度な医療人材の確保が必要である。病院建設は、事業スキームにもよるが、外来から入院まで総合的な医療を提供するもので、事業規模が大きく、複数の診療分野における集患、多数の医療人材の確保・教育が必要となるため、事業リスクは最も大きい。既に開設されたものとしては、インド(バンガロール)において、セコム医療システムと豊田通商が現地のキルロスカグループと共同で開設した総合病院などがある。


図表1 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例【1】
(既存の医療機関における教育・コンサルティング・サービス提供)

図表1


図表2 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例【2】(クリニック)
図表2


図表3 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例【3】(診断・健診センター)
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図表4 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例【4】(特定分野の治療センター)
図表4


図表5 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例【5】(病院)
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図表6 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例【6】(出資)
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図表7 医療サービスの国際展開の実施事例及び実証事業の事例【7】(その他)
図表7

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