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IoT と人工知能に関する調査を踏まえて

IoT(Internet of Things)の現状と展望

2015年8月
みずほ情報総研株式会社
株式会社みずほ銀行

要旨

  • IoT(Internet of Things)とは、“モノ、ヒト、サービスの全てを包括したインターネット化による価値創造”と定義される。あらゆるモノがインターネットに繋がり、利便性向上や生産性向上等の“価値”が生まれるといった概念自体は新しいものではないが、センサ、ネットワーク、コンピューティングの3つのイノベーションが要因となり、IoT時代が現実のものとして立ち上がりつつあるものと考えられる。
  • IoTは、2025年に約8兆ドルもの経済価値をもたらすものと想定される。このIoTの価値創造の類型として、オペレーション最適化、リスク管理、マーケティング強化、新規事業創出の4点が想定される。また、産業別では、製造業における機器の遠隔監視・予防保全の高度化やウェアラブルデバイス等を活用した予防医療の推進等、各産業で様々なユースケースが想定される。
  • 世界では、ドイツが国を挙げて製造業の高度化に取り組む「Industrie 4.0」や、GEの「Industrial Internet」など、新たな産業革命の幕開けとも言われる取り組みに注目が集まっている。
  • ドイツのIndustrie 4.0は、ドイツの強みである製造業において、製造プロセスの垂直統合と製品ライフサイクル及びバリューチェーンの水平統合を行い、更にこの2つを統合することで、エンドユーザーの需要に応じたマスカスタマイゼーションを可能とする生産システムの構築を目指す取り組みである。
  • GEのIndustrial Internetは、GEが強みを有する産業機器のインストールベースを活かし、ハード・ソフト・サービスの融合により、新たな顧客価値の創造を目指す取り組みである。具体的には、産業機器にセンサと通信機能を搭載し、収集される膨大なデータのビッグデータ分析と、ソフトウェアによる高度な制御により、予防保全の高度化、オペレーションの最適化を実現するものである。
  • 今後のIoTの普及・進展にあたっては、(1)技術 (2)制度における課題が想定され、課題解決に向けた取り組みの進展が求められる。また、個別企業の課題として、IoTがもたらすビジネスモデルの変革への対応が求められる。
  • 日本政府は、「『日本再興戦略』改訂2015」における重要施策の一つとして、IoTへの取り組みを掲げ、技術開発、人材育成等の支援施策を挙げており、今後IoT政策の取り組みの進展が期待される。他方、欧米でのIoTへの取り組みが先行する中、日本企業が後追い或いは従属的なポジションに留まることなく、欧米グローバル企業に伍していくためには、“世界に対抗しリードしていく”といった高い視線と、ドイツのように明確な成果目標(KPI)を掲げる“攻めの姿勢”が必要とも考える。
  • 日本企業のIoTへの取り組みの方向性は、(1)顧客価値創造 (2)課金モデル・マネタイズ (3)ケイパビリティの獲得 (4)プラットフォーム戦略 (5)ビジョンの5つの共通項目で考察されるほか、IoTのエコシステムにおけるサプライヤー、メーカー、ユーザーの3つの視点で個別の取り組みが想定される。
  • 今後のIoT時代に向けた戦略策定・実行のために重要なものは、経営者をはじめ、幹部、従業員における“ITへの理解”ではないか。個々の企業の取り組みとして、人材育成・採用、外部人材の登用、IT企業との戦略的アライアンス等による人材強化が求められよう。
  • IoTは、モノがインターネットに接続され、製品の付加価値や生産性向上等が実現するという言葉だけで足らない、大きな変化を生活・暮らし、企業活動にもたらすことが見込まれる。移動・物流、ライフスタイル、産業・ものづくりにおけるIoTの先進事例とその展望を見ても、IoTが各分野における情報通信技術の活用の高度化というだけでなく、近代社会を支える自動車の概念の変化や新たなサービスの勃興、人の生活・行動の質の向上、ものづくりのバリューチェーンの変革、新たなものづくりスタイルの創造等を生み出す動きが活発化している。
  • 移動・物流分野では、インターネットにつながる自動車がコネクテッド・カーと呼ばれるなど、IoTの具体的な活用が明確化してきているモノとして注目が集まっている。自動車の動態情報や渋滞情報、周辺地域の情報等がインターネット上に集約され、自動車を運転するドライバーの快適性向上・安全性向上や自動車を活用する人々への利便性向上にIoTが役立てられている。また、センサ技術の高度化に伴い、自律的な制御が可能な自動運転車(Autonomous Car)やドローンの実用化も進められており、自動車・航空機の持つ価値そのものがIoTによって多様化しようとしている。
  • 生活・くらしでは、IoTが普及することで、人々の生活・行動にかける時間に変化が起こると考えられる。社会生活上やむを得ず時間をかけていた時間が削減され、趣味や余暇等の時間が充実する。加えて、より良い眠りや、最適な食事(料理)を提案するサービス等、基本的な生活の質が向上すると期待される。他方、生活やくらしにIoTが浸透することで個人の情報管理、プライバシー保護等が課題になるであろう。
  • ものづくり分野では、近年、IoTを活用した取組が急速に進められている。工場内の様々な情報がネット上に集約されるようになり、現場の取組の効率化や高度化にIoTが役立てられている。また、IoTを活用してバリューチェーンにおける複数の段階をつなぎ、ビジネスの幅と質を高める仕組みが生まれつつある。これらのIoT活用に伴う流れは、単にものづくりの方法を変えるだけではなく、製品・サービスを顧客にまで届ける流れや、顧客によるモノやそれに伴うサービスの使い方を大きく変えてしまう可能性を秘めている。
  • IoT時代には、デジタルデータの爆発的増加と同時に、データの動的変化、形態や頻度が多様化する。そのデータを処理するための新たな情報処理基盤やデータから付加価値を生み出すための情報分析技術等が必要となる。IoTを商機と見込む情報通信企業では、IoT向けの情報処理アーキテクチャを発表し、情報処理基盤提供の動きが活発化している。
  • データから付加価値を生み出す情報分析技術として人工知能が注目されている。近年の人工知能に関する革新的な研究成果は、音声・画像認識の高度化という範囲を超えて、人による判断や知的活動の支援の可能性を示し、これまで手が届かなかった分野での情報通信技術の活用や付加価値創出の可能性が期待されている。
  • IoTと人工知能の発展は相互作用を持つ。人工知能の水準を高める(学習する)ため膨大なデジタルデータを生み出すIoTは人工知能を育て、その人工知能は、IoTに付加価値をもたらす(命を吹き込む)というエコシステムを形成している。
  • IoTの拡大に伴い、取扱う情報の範囲や用途が大幅に広がることから、従来にも増してセキュリティの重要性が高まる。また、IoT関連技術が目覚ましい進歩を遂げている一方で、法規制や利用者のIoTやセキュリティに対する意識などが追いついいていない状況を鑑み、今後のIoT時代において、IoTがもたらす利便性やサービスの高度化、効率化といったメリットとセキュリティリスクのバランスを見極める必要性等を示した。また、IoTと人工知能の活用には、その発展に大きな期待がある一方、技術的課題のみならず、社会制度・ルール、社会的受容性などの課題もあり、こうした課題への多角的な検討が求められている。
  • IoTを支える基盤として「人材」という観点も重要である。非常に幅広い概念であるIoTを活用するための具体的な技術や、IoTを活用した具体的な製品・サービスは、多くの領域において今後の実現が期待されているが、こうした未知の領域を切り拓く際に中核となるのは人材である。IoTに関連する分野の最先端で活躍する人材に注目し、第一線の人材が描く未来像のほか、今後のIoT時代に活躍できる人材に求められる能力等を示した。
  • IoTや人工知能の活用は、遠い未来の話ではなく、現実の話となりつつある。IoTと人工知能の組み合わせにより、人の行動や生活の利便性を高め、産業活動の効率化が進むだけでなく、その質を高め、産業活動により、これまでにない新たな付加価値が生み出される新たな時代の幕は既に上がりはじめる中、その取組みとそのための議論を本格化するタイミングを迎えている。

目次

はじめに

第1部 IoTの全体動向
    1. IoTとは
    2. 世界のIoTの潮流 ―新たな産業革命の幕開け―
    3. IoTの普及・進展にあたっての課題・論点
    4. 日本企業におけるIoTの取り組みの方向性

第2部 IoT活用、IoTを支える基盤の最新動向と展望
    1. 移動:乗り物が変わる(自動運転)、物流が変わる
    2. ライフスタイル:生活・くらしが変わる
    3. 産業:ものづくり・バリューチェーンが変わる
    4. IoT時代の情報処理基盤
    5. IoT時代のセキュリティ
    6. IoT時代に活躍する人材
    7. IoTが創り出す新たな時代の到来

執筆担当一覧
主要参考文献


  • *「みずほ産業調査」は、業界全体を俯瞰したうえで、「大きな構造変化」「潮流の動き」「ビジネスモデルの変化」「ビジネスの新基軸」といった視点を中心に分析し、「業界の将来像の予想」「業界への提言」も盛り込んだレポートです。
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