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社会動向レポート
上場800社調査からみえる新市場創出のための戦略とは

権利化の先を拓くグローバル知的財産戦略(1/3)

経営・ITコンサルティング部 チーフコンサルタント 野口 博貴

本稿では上場企業800社に対する独自のアンケート調査を通じて、日本企業の知的財産戦略の変化と今後の課題に関する分析を行った。調査結果により、権利を形成する領域の選択と集中が進展していること、新市場の創出を主導していくためには事業戦略、標準化戦略、知財戦略の3つを連動させる「新たな三位一体」を推進していく必要性があること、を述べた。

はじめに
―日本企業と海外企業との圧倒的な差―

「日本の企業は特許をたくさん持っているが、その使い方が上手くない」といわれることがある。これは本当だろうか。

みずほ情報総研は、2013年11月に上場企業10,000社に対して知的財産戦略に関するアンケート調査を発送し、その結果、807社から回答を得た。

図表1はそのアンケートで「日本企業と海外企業との知的財産戦略の特徴」を訊ねた結果である。「日本企業が得意」としているのはわずか1項目だけで、ほとんどの項目で「海外企業が得意」になっている。上場企業ですらこのような認識を持っているのだ。企業経営はマーケティング、人事、生産など様々な要素から成り立っているが、これほどまでに日本企業が圧倒的な苦手意識を持っているテーマは珍しい。


図表1 日本企業と海外企業との知的財産戦略の特徴
図表1

1. 問題意識
―企業の知的財産戦略は「権利化」を越えてどこまで進んだのか―

これまで日本の企業が事業を進める時には「まずは自前で研究開発を行い、その成果を特許権などの知的財産権として権利化しておき、事業が始まったら必要に応じてその権利を活用する」というプロセスを経ていた。

しかし、グローバルな競争環境は大きく変化しており、このような素朴な権利化だけでは、今後競争力を高めるのは難しい。海外の企業では権利化だけではなく、外部環境の変化や製品ライフサイクルに応じて、技術の「公開・普及」と「囲い込み」を使い分け、組み合わせ、それらのバランスをコントロールする競争戦略が主流になっている。これに伴って知的財産の「使い方」、「調達の仕方」も多様化している。

わが国が官民挙げて知的財産戦略を重視し始めてから10年以上が経った(1)。近年、出願件数、ライセンス件数などの知的財産活動については様々な研究が行われる一方、知的財産戦略そのものの質的な変化、今後の課題について捉えた研究はそれほど多くない。

本稿の目的は、企業の知的財産戦略がどのように変化し、現在は何が課題として残っているのかを、独自のアンケート調査結果を通じて明らかにすることである(2)

2. 知的財産戦略の変化とその背景
―新興国の需要拡大や技術の質の変化を背景に重要領域への選択と集中が進展―

まず、日本企業の知的財産戦略がどのような環境変化の影響を受けたのかをみたうえで、知的財産戦略そのものの変化を捉えよう。企業を取り巻く外部環境は大きく変化しており、知的財産戦略はその影響を少なからず受けていると思われる。

10年前(2003年頃)から現在までの間で知的財産戦略に影響を与えた環境変化の上位に挙がったのは、「新興国市場の需要拡大」(40.3%)、「新興国(中国、韓国、台湾等)の競合他社の台頭」(38.5%)であった(図表2)。新興国では企業の事業戦略や知的財産制度の運用などが先進国とは大きく異なることから、これまでの欧米等の先進国や日本国内への対応を中心とした知的財産戦略が変化したことが考えられる。

また、「情報技術の進歩(インターネット、オープンソース、クラウド等)」(25.3%)、「製品ライフサイクルの短期化」(24.8%)、「研究開発における協業(オープン・イノベーション)の進展」(23.9%)、「設計のモジュール化、技術のコモディティ化」(19.1%)などの技術に関連した変化も挙がっている。情報技術の進歩、製品ライフサイクルの短期化など技術そのものの性質が変化する中で、企業は他社との協業も視野に入れながら次々と新しい研究開発を効率的に行うと同時に、こうした環境変化に知的財産戦略を整合させる必要に迫られていると考えられる。

従来、企業の知的財産戦略は、知的財産訴訟や模倣品の発生という知的財産に直接関係した環境変化を受けて高度化してきた。しかし近年はそれだけではなく、グローバル市場の変化や技術の性質の変化といった新しいトリガーが知財戦略に大きな影響を及ぼすようになったといえる。

過去10年間の知的財産戦略に対する意識や取組み内容の変化としては、「知的財産活動の費用対効果を意識するようになった」を挙げる企業が約5割(50.3%)と最も多かった(図表3)。費用負担の大きいグローバルな権利形成や、製品ライフサイクルの短期化、技術のコモディティ化等の技術の質の変化を背景に、企業の知的財産戦略は効率性を追求するようになってきていると考えられる。

次いで、「研究開発投資や知的財産権の確保を重要な領域に集中化するようになった」(32.1%)、「特許権だけでなく意匠権、商標権を効果的に組み合わせて権利形成を行うようになった」(30.5%)、「国外への出願を行う際に、市場だけでなく多様な観点(制度、競合他社)を考慮するようになった」(29.1%)を挙げる企業が多かった。企業は権利形成を行う知的財産の選択と集中を進めており、さらに特許出願による保護だけでなく、意匠権、商標権、国外への出願も選択しつつ、重要領域を絞り込んで収益・シェアを確保しようとしていることがうかがえる。

一方で、「ライセンス許諾や国際標準における知財の活用等、オープンな知財の活用も重視するようになった」(11.5%)、「事業に必要な知的財産権を外部から調達することを検討するようになった」(12.6%)を挙げる企業は1割程度に留まった。現状では他社と協調したオープンな知的財産の活用の優先度はそれほど高くないことがうかがえる。

近年、海外企業のグローバル経営戦略をみると、知的財産により技術をクローズドに囲い込むことだけでなく、知的財産を戦略的に公開し、自社技術をオープンに普及させていくことを組み合わせて実施する「オープン&クローズ戦略」が主流になっている(3)。今後、オープンな知財活用に強みを持つ海外企業との競争が激しくなる中で、日本企業は知的財産戦略の自前主義をいかに克服するかが課題と考えられる。


図表2 10年前から現在までの間で知的財産戦略に影響を与えた環境変化(複数回答)
図表2



図表3 10年前と比べた知的財産戦略に対する意識や取組み内容の変化(複数回答)
図表3

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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