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社会動向レポート

日本および欧州における税制グリーン化の最新動向(1/4)

環境エネルギー第1部 地球環境チーム コンサルタント 元木 悠子 コンサルタント 内藤 彩

国際的に注目を集める税制グリーン化について、日本および欧州の最新動向を、各国政府へのヒアリング調査等に基づき整理した。また、日本と欧州の取組みを比較し、そこから示唆される日本の税制グリーン化の方向性について論じた。

はじめに

東日本大震災以降の原発停止に伴う化石燃料消費量の増加により、日本の2013年度のエネルギー起源CO2排出量は12.24億トンと過去最高を記録した(1)。また、2014年10月に気候変動政府間パネル(IPCC)が公表した「第5次評価報告書」では、人間活動により地球温暖化が引き起こされた可能性をより強く明示するとともに、大幅な排出削減の行動を早急に講じるよう各国に改めて警鐘を鳴らした(2)

政府は今後、「原発依存度を可能な限り低減」(3)しつつCO2排出量を大幅に削減していくために、あらゆる施策を総動員する必要があり、税制はそのための有効なツールのひとつである。わが国においては、地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)や車体課税のグリーン化など環境の視点を組み込んだ施策が講じられてきたところであるが、第四次環境基本計画(2012年閣議決定)に「税制全体のグリーン化を推進する」(4)ことが盛り込まれたことを受け、環境省も、税制、財政、環境経済学などの有識者からなる「税制全体のグリーン化推進検討会」(5)を2012年度より開催し、持続可能な社会の構築を推進する観点から、環境面から望ましい税制のあり方等について検討を進めている。

世界に目を向けると、炭素税や排出量取引などの経済的手法を用いて社会を低炭素化することが、経済成長やイノベーションにつながるとする報告書が数多く出されている(6)。特に、野心的なCO2排出削減目標を掲げ、世界の気候変動交渉を主導する欧州連合(EU)では、毎年の経済成長の優先課題を示した「年次成長概観」(7)などにおいて、グリーン成長や財政規律の観点から、税負担を労働や所得から消費や環境にシフトすべきとの方向性が明確に打ち出されており、日本が学ぶべき点は少なくない。

そこで筆者らは、欧州の最新動向を把握するため、EUおよび先進的な取組みを実施しているフィンランド、デンマーク、英国、ドイツを訪問し、行政担当者など当該分野の専門家に対して、炭素税の導入背景、環境関連税制の最新情報(税率、税収・使途、軽減措置等)、手法間の政策調整(ポリシーミックス)などに関するヒアリング調査を実施した。本稿では、この調査結果に基づき、日本および欧州における税制グリーン化の動向について整理するとともに、日本と欧州の比較を行い、日本の税制グリーン化の今後の方向性について筆者らの意見を述べたい。

1. 税制グリーン化とは

はじめに、「税制グリーン化」とは何を意味しているのかについて確認しておきたい。「税制グリーン化」とは、持続可能な社会を構築するという観点から、環境負荷の抑制に向けた経済的インセンティブを働かせるため、税制を環境負荷に応じたものとすることである(8)。このように環境分野に関連すると考えられる行為やモノに対して課税することで、環境の観点から望ましい社会を実現する(社会をグリーン化する)試みといえる。

経済協力開発機構(OECD)によると、環境関連税は、ガソリンや電気などのエネルギー物品に対する「エネルギー課税」、自動車やその他の輸送手段に対する「車体課税」、および廃棄物や天然資源などに対する「その他の課税」に区別されている(9)

環境関連税からの税収がGDPに占める割合はどの程度であろうか。図表1にOECD加盟国の2012年値を示した。これを見ると、日本は1.6%程度で米国やカナダを上回っているが、欧州諸国よりは小さい。デンマークに至っては4%程度と日本の2.5倍である。また、国によって税収構成に違いがあることも分かる。日本のように、「エネルギー課税」と「車体課税」がほぼ全てを占めている国もあれば、水道税や包装税など日本で導入されていない税を有するデンマークやオランダのように、「その他の課税」が一定の割合を占めている国もある。

以降では、日本や欧州で実際にどのような税制グリーン化の取組みが行われているのか、具体的に見ていきたい。


図表1 GDP に占める環境関連税の税収の割合(2012年)
図表1

2. 日本における税制グリーン化の最新動向

それではまず、日本の動向について見てみよう。図表2のように、2014年(当初予算)の環境関連税収のうち、エネルギー課税と車体課税をあわせた税収は約7.3兆円で、税収全体の8%程度を占めている。エネルギー課税や車体課税以外にも、森林環境税、産業廃棄物税、狩猟税などの環境関連税が主に地方自治体で導入されているが、これらの税収は環境関連税収全体の1%に満たないため(10)、以降ではエネルギー課税と車体課税に焦点を当て、説明を加える。


図表2 税収全体(国税・地方税)に占める環境関連税収の割合
図表2

(1)エネルギー課税

化石燃料の輸入・採取段階で課税される石油石炭税と、石油製品の流通段階で燃料ごとに課税される揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、軽油引取税、航空機燃料税、および販売電力に対して課税される電源開発促進税の合計7つの税が存在し、これらを合わせた税収は2014年に約4.8兆円で、日本の税収全体の5%程度を占めている。

エネルギー課税は当初、道路や空港整備に要する費用の財源と位置づけられていたが、2009年に道路特定財源が廃止され、一般財源化された。また、2005年に石油税を石油石炭税に改組した際は、熱量当たりのCO2排出量が大きい石炭への課税を新たに開始するとともに、税収の一部を一般会計から特別会計に繰り入れ、CO2排出抑制のための施策等に充てることとした。また2010年には、環境面への影響や厳しい財政事情を考慮し、揮発油税の暫定税率を期限を定めず当分の間、維持することとした。このように、環境の側面に配慮した税制の取組みも実施され始めている。

さらに2012年10月、およそ20年にわたる議論の末、地球温暖化対策税が石油石炭税の税率を上乗せする形で導入された。地球温暖化対策税は、図表3に示したように、全ての化石燃料に対してCO2排出量に応じた税率を等しく課税する、いわゆる炭素税(Carbon Tax)である。税率は3年半をかけて段階的にCO2排出量1トン当たり289円(原油・石油製品の場合1キロリットル当たり760円、LPG・液化天然ガスの場合1t当たり780円、石炭の場合1t当たり670円)まで段階的に引き上げられ、税率の引き上げが完了した2016年度以降の税収は2,600億円程度と見込まれている。税収は全てエネルギー対策特別会計に繰り入れられ、省エネ対策や再エネ普及策などのエネルギー起源CO2の排出削減を目的とする事業に充当され、現状より2%程度のCO2排出削減効果が見込まれている(11)

地球温暖化対策税に対しては、「課税の廃止も含め、抜本的に見直すべき」などの産業界から根強い反発の声もあるが(12)、政府の進める成長戦略にも貢献し得るとの期待も大きく(13)、環境省の「税制全体のグリーン化推進検討会」においても、地球温暖化対策税によるCO2排出削減効果を最大限発揮させるための方策の検討など、エネルギー課税の分野におけるさらなる取組みについて検討することが必要との提言がなされている(14)


図表3 地球温暖化対策税の概要
図表3

(2)車体課税

自動車の取得に対して課税される自動車取得税と、保有に対して課税される自動車重量税、自動車税、軽自動車税の合計4つの税が存在し、これらを合わせた税収は2014年に約2.5兆円で、日本の税収全体の3%程度を占めている。また、2009年の道路特定財源の廃止に伴い税収は一般財源化されているが、重量税の一部は「公害健康被害補償法」(1973年制定)に基づき、公害健康被害補償財源として活用されている。現行制度では、課税標準はそれぞれ、取得価額(自動車取得税)、重量(自動車重量税)排気量(自動車税)、定額(軽自動車税)であり、燃費やCO2排出量などの環境性能は採用されていない。但し、2001年の自動車税のグリーン化特例を皮切りに、自動車取得税や自動車重量税のエコカー減税、自動車重量税の複数税率の設定など、燃費に着目した特例措置が導入されている。

車体課税については、「平成26年度与党税制改正大綱」(15)において、消費税率10%段階で自動車税の取得時の課税として環境性能課税(環境性能割)を新たに実施することや、2015年度からの軽自動車税の税率引き上げなどが明記されたこともあり、グリーン化をより重視した課税への変更が行われる見込みである。

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