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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.19

「Quantitative Methods in Finance 2015 (QMF2015) 」参加報告

2016年1月
みずほ情報総研 金融技術開発部 堤 太一

1. カンファレンス概要

大会名:The Quantitative Methods in Finance 2015
主催者:University of Technology, Sydney
開催地:Sydney, Australia
日時:2015年12月14日~ 2015年12月18日

本大会は数理的なアプローチによるファイナンス研究の国際的な発表の場となっており、今回はプレワークショップを含め 5日間のカンファレンスがシドニー中心部のホテルにて開催され、参加者は200名弱、発表者は約 110名で、概ね例年通りであった。発表者は世界各国(20か国以上)から参加しており、国籍別ではオーストラリア、欧州、アジアからの参加者が多かった。日本からの発表者は8人で、ほとんどの参加者が大学関係者であった。

2. 内容

以下では、聴講した発表の中から興味を持ったものをいくつか紹介する。

【CVA】

[O. Kettani, “A sensitivity-based approach for CVA computation”]

デリバティブの取引相手であるカウンターパーティのデフォルト発生による価格変動リスクを価格付けしたCVA(Credit Value Adjustment)の解析的な計測手法に関する研究。CVAを計測する従来の手法としてモンテカルロ・シミュレーション(MC法)が用いられているが、計算負荷がかかっていた。本研究ではCVA計測において、原資産の感応度に着目した解析的な近似モデル式を導出し、この式を使用することで計算負荷をかけず且つ精度の高い数値が得られることをMC法による数値結果との比較検証を通じて示している。加えて、CVAが抱えている誤方向リスク(Wrong Way Risk)を含めた解析的な計測手法の導入も試みている。誤方向リスクとはデリバティブ取引の持つ期待エクスポージャーと取引相手方の倒産リスクが正の相関を持つリスクを表す。本研究で提案したモデル式に、デフォルト確率とデリバティブ価格変動における確率を変量とした2変量ガウシアン・コピュラ*1を組み入れた比較的軽微な改修によって計測できることを、エクイティ・リターン・スワップとそのコール・オプションを組みわせた株式ポートフォリオを事例に、MC法による数値結果との比較検証を通じて示していた。

【モデルリスク】

[Dirk Tasche, “Model Risk with Estimates of Probabilities of Default”]

評価年における格付け毎の発行体数に関する情報及びその1年前のデフォルト確率に関する情報を所与とした、評価年におけるデフォルト確率の予測手法に関する研究。本研究ではデータセット・シフト*2への対応として、発表者が一般的に用いられていると述べていた共変量シフトモデルと今回提案したシフトモデルを用いて、実際のデフォルト確率に対する精度の高さ(モデルリスクの大きさ)について比較検証していた。比較した結果、特に近年においては前者の共変量シフトモデルによる予測値が実測値よりも小さく評価されており、精度が低い(モデルリスクが大きい)ということを主張していた。加えて提案したモデルでは、共変量シフトモデルと比較して精度が高く、モデルリスクを低く抑えることができているという事を主張していた。

【デリバティブ時価評価】

[Marek Musiela, “Multivariate Fractional Brownian Motion and Fractional SABR Model”]

発表者はQMF2013でもSABR(Stochastic Alpha, Beta, Rho)モデルについて発表しており、その時は主にSABRモデルの歴史的背景や特徴及びSABRモデル近似公式の使用における注意点について述べていた。本大会でSABRモデルの拡張性という観点で、フラクショナルブラウン運動(ハースト指数Hをパラメータとした自己相似性をもつブラウン運動)をとりいれたFractional SABRモデルについて解説し、当該モデルによって自己相似性を持つとされる金融市場の価格変動についても評価できることを述べていた。また当該モデルにおける1変量から多変量への拡張性について、各価格変動が正規性、自己相似性、定常増分性を満たすことを前提に実現可能であることを述べていた。

【コーポレートアクション】

[Yiling Zhang, “Merger Means of Payment and Analyst Recommendation Change”]

M&Aのアナウンスメントを行った時に与えるアナリスト投資判断及び株価への影響に関する研究。まずアナリスト投資判断については買い手の買収対価が株式ベースよりも現金ベースである方が、投資判断がアップグレードされやすいことについてプロビット回帰モデル*3を用いて実証していた。次に株価については、こちらも現金ベースによる買収の方が短期間において正の高いリターンが出やすいことについて2SLS(Tow Stage Least Square, 2段階に分けて最小二乗法を行うもの)を用いて実証していた。なお、M&Aに関するデータについてはSDC(Securities Data Corporation)、アナリスト投資判断に関するデータにI/B/E/S、株式情報に関するデータにCRSP(Center for Research in Security Prices)を用いていた。

3. 所見

本カンファレンスの発表内容としては、例年通り確率モデルを中心とした数理的なファイナンス理論が多い中、”Approximation” や ”Closed Formula” といった用語が含まれた発表が多く見られ、理論式から解析的近似式の導出を試みるような実務への応用研究が多い印象を受けた。また、今年はCVAが新たなテーマとして加わっており、本テーマの発表について聴衆として参加した研究者・実務家が数多く見られたことからCVAにおける関心の高さを伺えた。次回のQMF2016は新たなテーマとしてHigh Frequency Trading(高頻度取引)が加わっており、引き続き金融技術の動向をモニタリングしていく所存である。


  1. *1累積2変量正規分布を各周辺正規分布で表現した、変数間の相互依存関係を表す関数。
  2. *2教師あり学習において入力値と出力値の同時確率分布が訓練時と評価時で通常同じであると仮定するが、現実においてこれらの同時確率分布は互いに異なっているという問題。
  3. *3正規分布累積関数の逆関数変換した値を回帰するもの。

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