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社会動向レポート

日本の約束草案:2030年目標の概要と課題(1/4)

環境エネルギー第2部 リサーチアナリスト 中村 悠一郎

2015年7月17日、日本は2030年までの温室効果ガス排出削減目標とその対策・施策を定めた約束草案を国連に提出した。本稿では約束草案の概要と課題を整理し、その達成に向けた幅広い温暖化対策を進めていくうえで、温暖化防止に向けた国民の意識向上や行動実践が重要であることを述べる。

はじめに

京都議定書の定める第一約束期間(2008年~2012年)の終了から3年が経過し、世界は地球温暖化対策に向けて次なるステージへと歩みを進めようとしている。2050年に世界全体で温室効果ガス排出量を40%から70%削減するというIPCC(1)の目標に向け、2020年以降の取組みと将来の削減目標について、各国が約束草案を提出した。日本においても2015年7月17日に約束草案を提出し、地球温暖化に対する日本の姿勢を世界に示した(2)

東北地方太平洋沖地震とそれに伴う福島第一原子力発電所における事故を経験し、世界でも特異な状況に置かれている日本において、今、2030年に向けた約束草案は特に世界から注目されるものである。本稿では約束草案の概要と課題を整理し、その達成に向けた幅広い温暖化対策を進めていくうえで、温暖化防止に向けた国民の意識向上や行動実践が重要であることを述べる。

1.2030年目標概説

(1)2030年目標: 日本と主要国の比較

日本の約束草案において、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比-26%(2005年度比-25.4%)とすることが明記された。これは技術的制約、コスト面の課題などを十分に考慮しつつ、セクターごとの対策・施策や技術を積み上げた“実現可能”かつ、透明性、具体性の高い目標であるとしている。

2012年に閣議決定された第四次環境基本計画における、2050年に温室効果ガス排出量を80%削減するという目標に対し、この2030年目標の水準を当てはめてみると図表1のように示すことができる。2013年度時点で日本の温室効果ガス排出量は年間約14億t-CO2であるが、それを2030年には約10億t-CO2にまで、2050年には約3億t-CO2にまで削減するという目標である。2030年以降の削減速度の加速が顕著であるが、約束草案ではこの経路から外れない目標を定めているとしている。なお、第四次環境基本計画では削減の基準年が示されていないが、図表1では2005年を基準年として描いている。

図表2は日本、アメリカ、EU、中国、ロシア、カナダそれぞれの約束草案における温室効果ガス排出量の削減率について、基準年ごとに示したものである。各年の排出量の違いに連動して削減率も変化するが、各国とも基本的には削減率の大きな年を基準年としていることがわかる(表中下線部)。そのため、図表2のように各国の削減率を単純比較することは難しい。

そこで、図表3、4では各国の実質GDPあたり温室効果ガス排出量(kg-CO2/2005年基準US$)と人口1人あたり温室効果ガス排出量(t-CO2/人)のそれぞれについて、目標の水準を比較して示す。どちらの指標からも、日本が他国と比して決して遜色ない目標を定めていることがわかる。

ここまでで日本の約束草案の概観を確認した。次節では目標の内訳と具体的な取組みについて確認する。


図表1 温室効果ガス総排出量の実績と2030年目標、2050年目標
図表1


図表2 各国における基準年ごとの温室効果ガス排出量削減率の比較
図表2


図表3 実質GDP(将来推計値)あたり温室効果ガス排出量の目標
図表3


図表4 人口(将来推計値)1人あたり温室効果ガス排出量の目標
図表4

(2)目標内訳と具体的な取組み

図表5に日本国内の各部門におけるエネルギー起源CO2排出量の現状と目標、そして現状に対する目標の削減率を示す。本稿では、日本の温室効果ガス排出量の9割を占めるエネルギー起源CO2排出量の削減対策に着目する(11)

約束草案においては部門ごとに果たす役割が大きく異なることがわかる。これまでの省エネへの取組み状況を反映して、産業部門における削減目標は必ずしも大きくなく、一方で業務その他部門、家庭部門といった民生部門における削減努力が特に要求される。このような厳しい目標が定められた主な理由は、民生部門において長期的にエネルギー消費量が増加傾向にあり(12)、それに伴いCO2 排出量が増大しているからである。

図表6に、図表5の目標を達成するために各部門に求められる対策・施策を示す。ここに示される対策・施策は2030年時点での実現が予測されているものであり、これらすべての積み上げにより電力、都市ガス、ガソリン等のエネルギー需要を2013年度比約9.7%削減できると試算された。これは、対策を行わなかったシナリオと比して約13%の削減に相当する(13)

図表6に示される産業部門から運輸部門までの対策・施策を踏まえると、重要なキーワードとして、ICT(情報通信技術)によるエネルギー管理システム、建築物の省エネ化、次世代交通システム、国民運動を挙げることができる。

図表6に示される各種の対策・施策のうち、以下の章ではエネルギー転換部門における取組みに関係する原子力発電の利用と電力自由化、民生部門における取組みである国民運動の推進に着目し、それぞれの観点から2030年目標の論点を整理する。


図表5 部門別エネルギー起源CO2排出量の現状と目標、現状に対する削減率
図表5


図表6 目標達成のために各部門に求められる対策・施策 ( 抜粋)
図表6

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