ページの先頭です

社会動向レポート

オープンデータのビジネス活用の現状と課題について(1/2)

経営・ITコンサルティング部 コンサルタント 豊田 健志

オープンデータは、政府の成長戦略「日本再興戦略」やIT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」にも盛り込まれ、我が国経済の活性化に貢献することが期待されている。オープンデータの利活用による経済活性化を実現するためには、経済成長の源泉たる企業によるオープンデータの整備・利活用の積極的推進が不可欠である。本稿では、民間企業によるビジネス適用の視点からオープンデータの現状と課題を考察する。企業活動等においてオープンデータ利活用を検討する際の一助となれば幸いである。

はじめに

2013年に英国ロック・アーンで開催されたG8サミットにおいて「G8オープンデータ憲章」が合意されるなど、世界中でオープンデータおよびその利活用に注目が集まっている。我が国においても、2012年7月に「電子行政オープンデータ戦略」がIT総合戦略本部により公表され、以降はオープンデータの推進が重要な政策課題とされている。

この「電子行政オープンデータ戦略」は、我が国の方針を初めて定めたものであり、現在のオープンデータ政策の基礎にもなっている。同戦略では、オープンデータを推進する意義・目的として

  1. [1](政府機関・行政機関の)透明性・信頼性向上
  2. [2]国民参加・官民協働推進
  3. [3]経済活性化・行政効率化

の3つが掲げられた。[1]は行政の透明性や国民等からの信頼性向上を目的としており、例えば政府の予算計画/支出実績を公開する施策などが該当する。は産民学官の対話促進を目的としており、オープンデータを利活用したアイデアソン等が盛んに実施されている。[3]はオープンデータを利活用することで、新ビジネスの創出や企業活動の効率化、行政業務の効率化・高度化を実現することを目指すものである。

我が国におけるこれまでの政策は、オープンデータ自体の整備が中心となっており、[1]やの目的達成に向けた検討が進められてきた一方で、[3]の経済活性化・行政効率化は相対的に遅れている。今後の政策課題は、専ら経済活性化を中心とした利活用であり、その鍵を握るのは企業によるオープンデータの積極的な利活用であろう。一方で、オープンデータ推進に最も積極的な地方公共団体の一つである横浜市が2014年12月に市内の1,000事業所を対象に行った認知度調査では、有効回答(516事業所)のうち72.7%(1)もの企業がオープンデータを十分認知していないという結果であった。

今後、オープンデータの利活用を更に進めていくためには企業側の認知向上が不可欠であり、それには企業が興味・関心を有するための事業価値を明らかにする必要がある。そこで、本稿ではオープンデータ先進国と言われ、かつ、その事業活用が進む英国の取り組みを踏まえて、日本におけるビジネス利活用の現状と課題を考察する。

1. オープンデータとは

本論に入る前に、オープンデータの定義を示したい。オープンデータとは、「オープンさ(Openness)」を備えたデータのことを指す。英Open Knowledge Foundationの定義によると、データのオープンさとは、ライセンス、アクセス性、フォーマットによる制限がない、つまり、目的を問わず、誰でもどこででも自由に利用し、共有できる性質を表している。

また、オープンデータの範囲について、政府や独立行政法人等の公的機関の保有する、いわゆる公共データを指すことも多いが、オープンな性質を有する公共データはオープンガバメントデータ(Open Government Data)と呼ばれ、公共データだけでなく商業用データ(Open BusinessData)、個人やNPO等の団体が有するデータ(Open Citizen Data)も包含する概念である。

また、英国のオープンデータ推進機関であるOpen Data Institute(ODI)によると、[1]User(オープンデータを利活用してサービスを創出する)、Publisher(他者が利用できるようにデータを公開する)、[3]Enabler(他者のオープンデータ利活用を支援する)という3つの役割があり、これらを担う企業をオープンデータ企業と称している。このように、オープンデータと企業の関わりは、単に公開されたデータを利活用するだけに留まらず、データの公開や利活用の支援など幅広い。

図表1 オープンデータの類型
図表1

2. オープンデータ企業の現状

(1)英国におけるオープンデータ企業の現状

英国は政府等のデータの公開や企業のオープンデータ利活用に対して積極的に支援・投資を行っており、世界的に見てもオープンデータの整備が進む先進国である。World Wide WebFoundation(WWW Foundation)による進捗度評価(Open Data Barometer)によると、英国の進捗度は世界第一位である。

ODIは、英国内のオープンデータ企業の動向を取りまとめたレポートを公開しており、本節では、その内容をもとに、オープンデータ企業の現状を概観する。

オープンデータは2008年頃から注目されたことから、英国におけるオープンデータ企業は比較的設立が新しい企業が多くを占める傾向にある一方で、15年以上前に設立されたオープンデータ企業も約25%存在する。また、約70%の企業が従業員数10人以下である等、特にスタートアップを中心に利活用が進んでいる。これは、資金体力の乏しいスタートアップ企業が、無償で情報資源(オープンデータ)を利用でき、かつ、それを利活用する基盤が安価に提供されていることが要因と想定される。また、業種別に見ると、情報通信業が約58%と過半数を占めるものの、それ以外の幅広い分野での利活用が広がっていることが見て取れる。

英国ではオープンガバメントデータだけでなく、民間等によるオープンデータの整備が進んでおり、登記情報などの法人データの公開をグローバルに進めている世界最大の法人データベースサービスOpen Corporates等の多様な非政府系のデータを利活用することができる環境にある。また、最近は、経済インパクトや社会インパクトの創出を目的として、分野別のビジネスデータの公開について検討が進められている。例えば、金融機関(特に銀行)の有するデータをオープンにアクセスできるようにすることで、ベンチャーやIT企業による金融機関向けの新規サービス・市場の創出や消費者向けの新サービスを創出しようとするプロジェクト「Open Bank Project」が稼働している。

ODIが調査したオープンデータ企業のうち、非政府系のデータを約50%の企業が利用していることからも、非政府系のデータが価値創出を先導する重要な要因となり得ることが示唆される。

図表2 オープンデータ企業の役割とエコシステム
図表2

(2)日本におけるオープンデータ企業の現状

日本のオープンデータは、図表3に示すとおり十分に進んでいるとは言えない。WWW Foundationによる進捗度を要素分解して比較すると、政策的・技術的な整備は進みつつあるものの、利活用によるインパクトの創出が遅れている。

日本においてもオープンデータを利活用したビジネスを発掘し、経済活性化につなげようとする試みが行われている。様々な地域・主体がオープンデータを用いたアイデアソンやハッカソンを行い、また全国規模でのビジネスコンテストも開催されている。他にも、政府が中心となり、オープンデータを利活用したビジネス事例を収集し、周知することでオープンデータの利活用を促進している。

このように、民間企業等による利活用の機運が高まる一方で、民間企業が保有するデータの公開は発展途上である。現在、電力・ガス、交通機関等の一部の公益企業が自社の保有するデータの公開を進めているがそれ以外の企業等における公開の検討は殆ど進んでいない。また、これらの公益企業のオープンデータには十分なオープン性を有していないもの(2)が含まれる。利用用途や利用者が限定されるものであり、この状態のデータはシェアードデータ(3)と呼ばれる。

図表3 オープンデータの進捗度
図表3

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
ページの先頭へ