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技術動向レポート

放射線治療の技術と展望(1/2)

情報通信研究部 コンサルタント 佐野 碧

近年、がんの治療方法として放射線治療を選択する患者数が増加している。放射線治療は、治療効果とQOL(Quality Of Life)を両立できる治療方法として注目されている。最新の放射線治療技術について紹介し、今後の技術発展について展望する。

はじめに

がんは1981年より日本人の死因の第一位である。2013年の年間死亡者数約127万人のうち、がんで死亡した人は約36万人であり、日本人の3割近くががんで亡くなっている。

がん罹患率と死亡率の年次推移(図表1)をみると、年齢調整罹患率(1)は1985年以降増加傾向にある。これは、検査技術の向上や検診の受診率の向上によって、がんが早期に発見されるようになったためであると考えられる。一方で、年齢調整死亡率(1)は1995年以降減少傾向であり、がん治療技術の進歩がうかがえる。

がんの治療法には大きく分けて、手術療法、化学療法、放射線治療の3つがある。手術療法は、進行しているがんでも切除可能であれば根治が見込める一方、臓器や体の機能が失われる可能性がある。化学療法は、転移したがんにも適用可能であるが、全身に副作用が起こる可能性があり、治療期間が長期にわたる場合もある。放射線治療は外科治療と比べて体への負担が少なく、臓器の機能や形態を温存することが可能であるため、体力的な理由などにより手術を受けることが困難な患者であっても適用可能である。また、治療時間が短いため通院で治療を受けることも可能であり、がんの種類によっては外科治療と同程度の実績をあげている。それぞれ適応可能な臓器や進行度が異なるため、患者に応じた組みあわせで治療を行うのが一般的である。

近年、放射線治療への注目と期待が高まっている。高齢がん患者の増加により手術が困難な症例が増えたことに加え、生存率だけでなく治療後のQOL(Quality Of Life)が重視されるようになってきたためである。政府が策定するがん対策推進基本計画によれば、重点的に取り組むべき課題として「放射線治療、化学療法、手術療法の更なる充実とこれらを専門的に行う医療従事者の育成」が挙げられており、複数の治療方法の組み合わせによる「集学的治療の質の向上」を図るとされている。従来の外科偏重とも言われた我が国の治療体制が見直され、放射線治療の重要度が高まっている。

図表1 年齢調整罹患率と死亡率の推移(全年齢)
図表1

1. 放射線治療の現状

放射線治療には、大きく分けて外部照射と小線源治療の2種類がある。外部照射とは、患者の体外から放射線を照射する治療方法であり、X線、陽子線、重粒子線などを用いる。小線源治療とは、体内から放射線を照射することによって治療を行う方法であり、カプセルに入った放射性物質をがん組織に直接埋め込む方法が一般的である。これらの治療のうち、X線を用いた外部照射が最も多く行われており、放射線治療を行っているほとんどの施設で実施されている。

図表2に示すように放射線治療を実施する施設数は全国で約780あり、人口に対する割合は放射線治療が最も普及していると言われる米国と同等の水準である。その中でも、粒子線治療の実施施設は全国に13あり、世界の粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療などの総称)施設の2割以上を占めている。しかし、図表3に示すように放射線治療を受けた患者の割合は低く、欧米では約50~60%であるのに対して、日本では30%に満たない。この原因として、放射線治療に関わる専門医や、医学物理士と呼ばれる放射線物理の専門家の不足が指摘されており1、更なる普及への課題となっている。

図表2 人口に対する放射線治療施設数の日米比較
図表1


図表3 がん患者のうち放射線治療を受けた患者の割合
図表3

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