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技術動向レポート

オフィス環境でのウェアラブル端末活用の試み(1/2)

経営・IT コンサルティング部 マネジャー 武井 康浩

ウェアラブル端末(1)の活用方法を検討するため、複数名の被験者の協力を得てウェアラブル端末を装着し最大約14時間/日の心拍数データを収集した。オフィスで働く人の行動や身体状態を「可視化」する本試行を通じて、ウェアラブル端末を用いて長時間に及ぶ人のデータが取得できること、データに基づき人の状態の分析や推測が可能であることが確かめられた。

1. 背景・目的

昨今、政府や民間企業おいて「働き方改革」が注目されている。オフィスでの業務効率化や従業員の健康維持・管理が従来にも増して重視され、オフィスで働く人の行動や身体状態の把握に関心が集まっている。そのため、行動や身体状態等を手間なしにデータとして蓄積でき、分析できるツールがあれば、オフィスでの働き方をこれまで以上に効率的かつ効果的に改善できると期待される。

こうした期待もあって、近年では人の行動や身体状態を把握できる新しい技術が登場している。2014年は「ウェアラブル端末元年」と言われたように、国内外を問わず多くのメーカー等でウェアラブル端末の開発・販売が始まった。その一例として、リストバンド型「NIKE+FUELBAND SE」、腕時計型「GALAXY Gear」、メガネ型「Google Glass」、耳に装着する「Bitbite」、指輪型「Oura ring」、ヘッドセッド型「Muse」など、様々な形態の端末が挙げられる(2)。2015年に至ってもこの傾向は変わらず、新たなウェアラブル端末の開発・発表が続いているが、その具体的な活用用途の検討は未だ不十分な状況にある。

そこで本稿では、上記のような背景を踏まえ、オフィスで働く人の行動や身体状態を可視化するツールとして、ウェアラブル端末が有効であるか(必要なデータが取得可能か、データに基づき人の行動や身体状態を大まかにでも分類できるか等)を確認するために、実際に長時間にわたり端末を装着し、行動や身体状態等を計測する実験を行った。

2. 実験の概要

オフィスでの人の行動や身体状態の把握に関する各種の先行的取組み(1,2,3,4,5)を参考にし、本実験では例えば疲労やストレス等の身体状態の把握・分析に関係の深い「心拍数」(3)に注目した。そのためのウェアラブル端末として、1秒に1回の頻度で継続的に心拍数を自動計測可能な「MIO ALPHA」(4)を使用した。実験は、2015年1月の5日間(以降、1月期と記載)、同年3月の11日間(以降、3月期と記載)、同年7 ~8月の10日間(以降、7月期と記載)(5)の午前7時~午後8時を計測期間とし、オフィス内外で働く人(被験者(6))の心拍数を取得・蓄積した。

なお、本実験に参加した被験者数は、1月期は8名、3月期は19名、7月期は14名である。期間中、被験者には、ウェアラブル端末を装着し、普段通りの業務に従事してもらった(図表1)。

図表1 実験で使用したウェアラブル端末とその装着の様子
図表1

3. データの可視化、人の状態の分析・推測

(1)被験者の心拍数の概要

ここでは、心拍数の計測期間が最も長い3月期のデータを用いて、各被験者の平均心拍数、最大心拍数、最小心拍数、心拍数の標準偏差(7)を集計して計測データを概観する(図表2)。なお、次節で述べるように、1月期、3月期、7月期の3つの計測期間を比較するため、これらの期間で比較・分析可能な6名の被験者A~Fを抽出して、取得データの可視化を行うこととした。

被験者A ~Fごとに3月期の取得データ全体を集計し、平均心拍数を見てみると、Aは77.3bpm、Bは83.5bpm、Cは91.4bpm、Dは80.9bpm、Eは88.6bpm、Fは93.8bpmであり、平均心拍数は70bpm台後半から90bpm台前半となった。

同様に、被験者A ~Fごとに最大心拍数、最小心拍数を集計すると、最大心拍数で最も大きな心拍数を記録したのはAであり204bpmである。最小心拍数で最も小さな心拍数を記録したのはEとFであり37bpmである。さらに、被験者A~Fごとの心拍数の標準偏差を集計すると、Aが16.6と最も大きく、Dが10.7と最も小さい。

このように、ウェアラブル端末を装着することで長時間に及ぶ人の心拍データの取得が可能であること、その取得データから心拍に関わる一般的な身体状態(平均心拍数、最大・最小心拍数等)が可視化できることも確認できる。

図表2 被験者A ~Fの平均心拍数、最大・最小心拍数、心拍数の標準偏差(3月期)
図表2

(2)心拍数の変動

実験の被験者は、調査研究及びコンサルティング業務の従事者であり、時期により業務量が大きく異なる。また被験者ごとに担当業務もまちまちである。そのため、業務管理の観点から、誰が、何時、業務負荷が高いかを容易に把握することが難しい業務である。

上記のような背景もあり、被験者の心拍データから、作業負荷の高い状態とそうでない状態が判別できれば、オフィスでの業務効率化や従業員の健康維持・管理等に係る施策立案に役立てられると期待される。

そこで上記に向けた第一歩として、取得データに基づき、被験者の状態の大まかな分類を試みる。心拍数は一般的に時々刻々と変化するが(8)、本実験で使用したウェアラブル端末でもこの変動を計測できる。本節ではこの心拍数の変動に着目し、データの可視化結果を紹介する。なお、ここでは前節の取得データに基づいて、被験者ごとに3つの計測期間の比較・分析を行う。

まず本実験では、ある時刻tiに計測した心拍数αiと、その1秒前(時刻ti-1= ti-1)に計測した心拍数αi-1との差分(ai-1-ai)を「心拍数の変動値」と定めた(図表3)。なお、ウェアラブル端末による心拍数の計測値aiは自然数で取得されることから、心拍数の変動値(ai-1-ai)は整数値となる。また、ある一定の期間Tにおける計測回数をN+1とした場合、N+1回の計測に対して、心拍数の変動値di(i=1,2,…N)が算出できる。ここで、心拍数の変動値が±n(n=0,1,2, … )となる計測の回数を集計し、Nに対する割合を求める。この割合のことを「変動nの割合」と呼ぶこととする。

以下では、この「心拍数の変動値」と「変動nの割合」に着目して、実験を通じて取得・蓄積した被験者の心拍数データを可視化する。

まず、被験者Aを例として取り上げ、1月期、3月期、7月期のそれぞれについて、各期間中の取得データ全体から変動nの割合を算出した結果を図表4に示す。なお、図中にはn=0, 1, 2,3以上、として変動nの割合を表示している。

被験者B~Fについても同様の可視化を行ったところ、どの被験者においても図表4のグラフで示されるのと同じ傾向を示した。つまり、割合の大きさは、変動0の割合が最も大きく、続いて変動1の割合、変動2の割合、変動3以上の割合の順となった。

ここで、上記の変動nの割合のうち「変動0の割合」と「変動1の割合」に着目する。具体的には、被験者別かつ実験期間別に、「変動0の割合」をx軸の値、「変動1の割合」をy軸の値として、データをプロットする(図表5)。例えば、被験者Aの1月期は、「変動0の割合」(x軸)は0.65、「変動1の割合」(y軸)は0.16となるため、図表5の右下のようなA1の点がプロットできる。なお、図中では、被験者Aの1月期のデータの場合はA1、被験者Aの3月期のデータの場合はA3のように表記している。

この結果を見ると、被験者A ~Fの1月期、3月期、7月期の心拍数の変化の様子は、2つの状態として分けて考えることができる。つまり、図中で「変動0の割合」(x軸)が0.6 ~0.7、「変動1の割合」(y軸)が0.15 ~ 0.22の領域にあるA1, B1, B3, D1, D3, E1, E3が1つ目の状態(以降、状態1と呼ぶ)である。また、「変動0の割合」(x軸)が0.5 ~ 0.58、「変動1の割合」(y軸)が0.32 ~ 0.37の領域にあるA3, A7, B7, C1, C3,C7, D7, E7, F1, F3, F7がもう1つの状態(以降、状態2と呼ぶ)である。

図中の状態1と状態2を比較すると、状態1は「変動0の割合」(x軸)が0.6 ~0.7となり状態2よりも大きく、逆に「変動1の割合」(y軸)は0.15~0.22となり状態2よりも小さい。このことから、状態1の被験者Aの1月期(A1)、被験者Bの1月期と3月期(B1, B3)、被験者Dの1月期と3月期(D1, D3)、被験者Eの1月期と3月期(E1,E3)は、他被験者また同じ被験者でも他期間と比べて、心拍数の変化が相対的に少ない状態であったと考えられる。

図表3 「心拍数の変動値」と「変動nの割合」の概要
図表3

図表4 被験者Aの「変動nの割合」(1月期、3月期、7月期)
図表4

図表5 被験者別・期間別の「変動0の割合」と「変動1の割合」の関係
図表5

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