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社会動向レポート

国内外における税制グリーン化の最新動向と日本への示唆(1/4)

環境エネルギー第1部 地球環境チーム
チーフコンサルタント 元木 悠子 コンサルタント 内藤 彩

昨年度に引き続き、国際的に注目を集める税制グリーン化の最新動向について、対象国を日本、欧州、北米、豪州の計16カ国に拡大し、政府関係者など各国の税制の専門家に対するヒアリング調査をもとに整理した。また、各国の取組みを比較し、そこから示唆される日本の税制グリーン化の課題や今後の方向性について論じた。

はじめに

2015年12月に、地球温暖化防止を目指す新たな国際協力の枠組み「パリ協定」がCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で採択された。米国や中国を含むすべての国が、温室効果ガス削減の自主目標を提出し、着実に実施していくことが規定された。さらに産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える目標を明記した上で、1.5度に抑えるよう努力する意思も示した(1)。加えて2015年9月には持続可能な開発目標が国連で採択され、従来の貧困撲滅に焦点を当てた目標から、すべての国を対象に環境対策に注力した開発目標が合意され、各国が「持続可能な成長」の実現に向け舵を切った(2)

日本は経済大国として、低炭素化の率先した取組みが求められる立場にあるが、2030年の温室効果ガスの削減目標(2013年度比26%削減、1990年比18%削減)は、欧州連合(EU)の目標(1990年比40%削減)と比べると見劣りする。また昨今の国内における火力推進の動きに対しては、英国や米国における火力発電に対する規制強化や、「ダイベストメント」と呼ばれる化石燃料に関わる企業からの投資撤退等の世界的な潮流に逆行しているとの指摘もあり(3)、日本の取組みに対する世界の目はますます厳しくなりつつある。

日本は今後、規制や経済的手法などあらゆる政策ツールを総動員して、世界に遅れることなく、再生可能エネルギーと省エネの一層の拡大に力を注ぐべきであるが、環境税はそのための重要なツールである。経済協力開発機構(OECD)によれば、環境税(あるいは環境関連税)には、エネルギー製品に対する「エネルギー課税」、自動車やその他の輸送手段に対する「車体課税」、および廃棄物や天然資源等に対する「その他の課税」があり、いずれも価格シグナルを通じて、汚染者である企業や消費者が環境汚染の費用を確実に考慮に入れることで、消費における排出削減や生産技術の向上等を促すことができる点に特徴がある(4)。加えて、環境税には政府に歳入をもたらすなどのメリットもある。

環境税を用いて税制を環境負荷に応じたものに変えていこうとする「税制グリーン化」(5)の動きは、特に欧州諸国で過去20年余り、「環境税制改革(Environmental Tax Reform)」や「環境財政改革(Environmental Fiscal Reform)」として実践され、その動きは年々広がりを見せている。筆者らは、国内外における税制グリーン化の取組みについてこれまで2年間、調査を行ってきた。昨年、欧州主要国の状況について取りまとめたところであるが(6)、本稿では対象を16カ国(日本、ドイツ、英国、フランス、イタリア、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、スイス、アイルランド、ポルトガル、オランダ、ベルギー、米国、カナダ、豪州)に拡張し、政府関係者など各国の税制専門家に対するヒアリング調査を行った。本稿ではその成果を踏まえ、各国の税制グリーン化の最新動向を整理するともに、各国の比較を通じて、今後日本が取組むべき課題や方向性などについて、筆者らの意見を述べたい。

1. 国内外における税制グリーン化の取組み

図表1に、日本および諸外国の環境税の税額と構成、そして環境税の税収がGDP全体に占める割合を示した。これを見ると、日本のGDP比率は1.5%程度(約7.4兆円)であり、米国(0.7%)やカナダ(1.1%)を上回るが、豪州(2%)、欧州(1.8~3.9%)より小さく、最も大きなデンマークとは2.5倍の開きがある。税収構成は国により違いがある。今回調査した16カ国のうち、オランダを除くすべての国で、「エネルギー課税」と「車体課税」が環境税収全体の9割以上を占めている。残る「その他の課税」には廃棄物やリサイクル、公害関連、天然資源や生態系保全などを目的とする様々な税があり、中には、オランダ、デンマーク、フランスのように環境税全体の10%割前後とかなりの割合を占める国もある。

以下では、日本、欧州、北米、豪州、それぞれの地域で、どのような「税制グリーン化」の取組みが行われているかを具体的に見ていきたい。各地域の主な環境税の導入状況については図表2を参照されたい。

図表1 環境関連税からの税収とGDP に占める割合(2013年)
図表1


図表2 各国における主な環境税の導入状況
図表2

(1)日本

エネルギー課税には、化石燃料の輸入・採取段階で課税される石油石炭税と、石油製品の流通段階で燃料ごとに課税される揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、軽油引取税、航空機燃料税、販売電力に対して課税される電源開発促進税の7つがある。また、石油石炭税に上乗せして徴税される地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)が、2012年10月に導入され、すべての化石燃料に対してCO2排出量に応じた税率が等しく課税されている。税率は3年半かけて3分の1ずつ引き上げられ、2016年4月の最後の引上げを経て、最終的に289円/tCO2となる。地球温暖化対策税の税収は、エネルギー対策特別会計に繰り入れられ、エネルギー起源CO2の排出削減を目的とする事業に充当されている。その他のエネルギー課税はすべて国や地方自治体の一般財源に入る。

車体課税には、自動車の取得に対して課税される自動車取得税と、保有に対して課税される自動車重量税、自動車税、軽自動車税があり、エコカー減税やグリーン化特例と呼ばれる燃費に応じた軽減措置が設けられている。税収は基本的に一般財源に入るが、自動車重量税の一部は、公害健康被害補償財源として活用されている。なお、2017年4月の消費税率10%時点で自動車取得税を廃止し、自動車税と軽自動車税の取得時の新たな課税として環境性能割(仮称)を設置することが決まっている(7)

その他の環境関連税はいずれも地方税で、税収すべてを足し合わせても環境税収全体の1%に満たない。汚染関連では、2016年1月時点で、三重県など28団体で導入されている産業廃棄物税と福井県など14団体で導入されている原子力関連税がある。資源分野では、法定税である狩猟税と、住民税に上乗せして徴収される森林環境税が高知県など36団体で導入されている。このほか、特定の自治体で、遊漁税(山梨県富士河口湖町)、砂利採取税(京都府城陽市等2団体)等が導入され、地域の自然環境保全などに税収が使われている。

(2)欧州

欧州における税制グリーン化の取組みは、フィンランドの炭素税、スウェーデンやデンマークのCO2税など、1990年代初頭の北欧諸国における取組みに端を発する。これらの国は、既存のエネルギー課税に環境対策の観点をいち早く取り入れただけでなく、今日に至るまで課税を強化し続けている環境先進国である。その後、エネルギー課税については、オランダやベルギー、英国、ドイツが北欧諸国に続く形で、鉱油税や燃料税の新設や税率の引上げを行った。2000年代に入ると、EUが2003年に定めた「エネルギー税制指令」(8)が駆動力となり、オランダやドイツにおける環境財政改革など多くの国で改革が進展した。さらに、EUの「エネルギー税制指令」改正(CO2排出量に応じた課税(炭素税)の新設と最低税率の引上げ)の議論(9)を受け、フィンランドやデンマークで、課税方式の変更や課税対象の拡大、炭素税率の引上げが行われた。またこの間、スイス、アイルランド、フランス、ポルトガルで炭素税が創設された。炭素税を含むエネルギー課税の税収は一般財源として、多くの場合、税収中立の観点から、法人税や所得税等の減税や、社会保障費の削減による雇用創出喚起等に活用されている。

車体課税に関しては、2000年代以降、それまでの排気量や重量から、環境に直結するCO2排出量や排出ガスへの課税標準の転換が多くの国で行われた。取得税では、英国の社有車税やフランスのボーナス・ペナルティ制度(Bonus-Malus)、アイルランドの自動車登録税などであり、保有税ではスウェーデン、フランス、アイルランドの自動車税、フランスの年間ペナルティ制度(Annual Malus)、ポルトガルの自動車流通税などである。さらに2009年に、EUが「CO2排出規則」と呼ばれる世界で最も厳しい新車乗用車の2015年排出目標(130gCO2/km)を制定したことを受け(10)、フィンランドやオランダで取得税の課税標準の見直しが行われ、また、ドイツ、フランスでは保有税の見直しが行われた。すでに自動車税の課税標準をCO2としていた英国では、2年度目以降の税率と比べ、CO2排出量に応じた重課・軽課をより強化した初年度特例課税(First-Year-Rate)を新たに導入した。この制度は日本が2017年4月に新たに導入する環境性能割(仮称)の検討において参考とされた制度である。

その他の環境関連税に関しても、オランダ、フランス、デンマーク、ベルギー、イタリアなどを中心に、日本で未導入のリサイクル関連(容器包装税等)や公害関連(SO2税、NOx税、騒音税等)、水資源保全(取水税等)を含む、様々な税が導入されている。

このように、エネルギー課税、車体課税、その他の環境関連税いずれにおいても、欧州は、北米や日本を上回る先進的な取組みを数多く実施している。EUにおける「税負担を労働や所得から消費や環境にシフトすべき」との方向性も後押しとなり(11)、欧州は今後も世界のトップランナーとして、税制グリーン化を牽引する役割が期待される。

(3)北米

米国、カナダともに、連邦レベルのエネルギー課税として燃料物品税があり、主にこれらの税収は基金化され、特定の目的に使われている。米国では、ガソリンや軽油からの税収の大半は道路整備等(幹線道路信託基金)に、残りの1%程度は石油の流出事故対策等(地下貯留槽石油漏出信託基金・石油流出信託基金)に充てられている。また、石炭からの税収は炭鉱労働者の塵肺対策(塵肺信託基金)に、内陸水路航行船の燃料消費からの税収は内陸水路の整備(内陸水路信託基金)に充てられている。一方、カナダでは、燃料物品税からの税収の6割程度は一般会計に入るが、残りは、ガス税基金に積み立てられ、各州の道路整備等に充当されている。

米国、カナダともに、税率は非常に低い水準である。米国では、1993年以降、ガソリンは約6円/L、軽油は約8円/Lで固定されている。カナダでも、ガソリン(約9円)は1995年以降、軽油(約4円)は1988年以降、引上げが行われていない。そのため特に米国では、税収縮小に伴うインフラ整備資金の不足等が課題となっている。一方で、環境に配慮した取組み(再生可能エネルギー設備導入、バイオディーゼル精製、次世代自動車購入等)に対する所得税控除等を行うことで、こうした低い税率の下でも、企業や消費者の経済的インセンティブを担保し、一定の環境効果を見込むための工夫がなされている。

車体課税について見ると、米国では、連邦レベルで燃費に着目した取得時の課税があるが、22.5mpg(243gCO2/km相当(12))を基準値とする燃料多消費車税(Gas Guzzler Tax)のみである。保有税は基本的に州に権限が付与されており、例えばニューヨーク州では、重量に応じた課税が導入されている。一方、カナダでは、連邦レベルでグリーンレビー(Green Levy)と呼ばれる燃費に応じた課税が導入されているが、基準値が13L/100km(302gCO2/km相当(13))と欧州の2015年排出目標と比較すると低い水準である。

なお、米国では、2016年2月に、オバマ大統領が、任期最後となる予算教書において、石油に対する新たな課税(fee on oil)の導入を提案した。5年間で1バレル当たり10.25ドル(約8円/L)まで段階的に税率を引き上げ、税収は低炭素型の交通インフラ整備等に充てられる(14)。また、カナダでは、2015年10月に発足したトルドー(Justin Trudeau)政権が「環境・気候変動省」を設立するなど、両国ともに連邦レベルでの取組みの進展が期待される。

以上の連邦レベルの取組みに加え、北米では州レベルで独自の取組みが進められている。カナダのブリティッシュ・コロンビア州(BC州)は、2008年に炭素税を北米で初めて導入し、欧州の仕組みと同様に、税収を企業や市民に還流し、CO2削減と経済成長の顕著な実績(デカップリング)を残している。BC州はこのほかにも鉱物採取税やバッテリー税などの州独自の環境税を導入している。また、2013年にキャップアンドトレード(C&T)制度を開始したカナダのケベック州は、米国カリフォルニア州との市場統合を行った上(2014年)、輸送燃料を対象範囲に加えるなど(2015年)、制度を拡張している。こうした環境先進地域(カリフォルニア州、ケベック州、BC州)の間で定期的な議論が行われ、国を超え、州政府間で知見の共有が図られているのが特徴である。今後もカナダでは、アルバータ州が2017年の炭素税導入を表明したほか(15)、オンタリオ州もC&T制度の導入を進めている(16)など、州レベルでの先進的な取組みに注目が集まっている。

(4)豪州

豪州では、エネルギー課税、車体課税に加え、オゾン層保護税や廃棄物税等も導入されている。車体課税の保有税など各州の裁量による部分もあるが、基本的に環境税は、連邦政府が管轄している。国全体の傾向としては、図表1にある通り、環境関連税収がGDPの2%に相当するなど、日本を上回る取組みの実施が伺える。灯油、重油、LPG、天然ガスの税率が日本や北米と比べ圧倒的に高く、また軽油に対してガソリンと同程度の課税を行っていることも、先進的な取組みと言える。

近年の豪州の大きな動きに、2010年に導入され、2014年に廃止された炭素価格付け制度(Carbon Pricing Mechanism)がある。当初は、産業界への影響を軽減するため、導入から5年をかけて税率を段階的に25.4AUD/tCO2(約2,200円)まで引き上げ、2015年に欧州排出量取引制度(EU-ETS)と接続すること(変動価格への移行)が予定されていた。しかし、EUETS価格の暴落と国内電力価格の高騰を受け、労働党から保守党に政権交代した2014年7月、炭素価格付け制度は廃止された。但し、2015年9月に元環境大臣のターンブル(MalcolmTurnbull)氏が新たに首相に就任し、2016年内に総選挙が予定されているなど、豪州の炭素税を巡る情勢は流動的である。

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