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社会動向レポート
ICTを活用した効果的で効率的な医療の輸出

わが国医療産業の海外展開のあり方に関する考察(1/4)

社会政策コンサルティング部 コンサルタント 日諸 恵利

新興国の経済成長に伴い、医療機器の世界市場が進展している中、欧米トップメーカーの海外展開戦略が高度化している。そこで、みずほ情報総研株式会社では、2015年度に、医療機器メーカー、ICT事業者、医療現場の有識者を招聘し、ICTを活用したわが国の新しい海外展開戦略のあり方について検討した。また、検討結果については、輸出対象国となる新興国(ベトナム)の有識者と意見交換を行い、有効性の検証を行った。

本稿は、それらの一連の取組みから得られた気づきをとりまとめたものである。

はじめに

成長戦略において、医療産業の海外輸出が重要政策として掲げられているところであるが、「医療産業」は大きく分けて医薬品、医療機器、サービスに分けられると考える。このうち、サービスについては、わが国では、近年本格的に輸出産業としての取組みが始まったばかりである。一方、医薬品市場は既に成熟期にあり、世界市場規模が約100兆円、医薬品売上高世界トップ20に国内製薬企業が3社、トップ50までに10社がランクインしている状況である。次に、医療機器市場は現在急速に成長している市場であり、世界市場は約33兆円、市場成長率は5.3%(2010 ~2014年)となっているものの、医療機器売上高世界トップ20には、最下位に1社がランクインするのみとなっている。

ここで、ものづくりに強みを持ち、高度な微細加工技術や豊富な素材という強みを有する日本が、医療機器市場で欧米諸国のプレイヤーに劣後するのはなぜかという疑問が浮かぶ。その答えは、「戦略」の差にある。中でも欧米企業が強みを有する戦略のキーワードは「インフラ」と「人材育成」である。

そこで、2014年度に、みずほ情報総研株式会社は、特にこの医療機器産業分野を中心として、欧米諸国の有力プレイヤーとも対等に戦えるような、わが国医療産業の海外展開のあり方を検討すべく、みずほ銀行産業調査部との共同事業として、医療機器メーカー、医療現場、医療ICT事業者といった関連する様々な主体から有識者を招聘し、検討会を実施した。また、検討会におけるとりまとめ結果は、輸出対象国候補のひとつであるベトナムにおいて、有識者にアイディアの有効性に関する意見交換を行った。

本稿は、それらの一連の取組みから得られた気づきをとりまとめたものである。

1. 新興国の現状

(1)経済成長とともに進展する医療水準

医療水準は、経済成長とともに進展する。具体的には、一人あたりGDPが高い国ほど、GDPにおける医療費支出割合は高くなる傾向がある。ちなみに、下図において、低所得国のGDPにおける医療費支出割合は高くなっているが、こればODA支援等によるものであると考えられる。また、高所得国のうち、OECD加盟国以外の国としては中東産油国などが挙げられる。

今後、さらなる経済成長が期待される新興国は、医療機器市場の拡大が見込まれる。

図表1 対GDP比の医療費割合
図表1

(2)医療機器市場の急速な拡大

2013年現在、地域別の医療機器市場規模は、アメリカ州が最も多く約16兆円となっており、次いで西ヨーロッパ約9.3兆円、アジア太平洋州約7.5兆円となっている。しかし、今後の医療機器市場の成長エンジンは新興国に移行していくことが予想されており、当社の試算では、2030年までに、中東・アフリカで現在の市場規模の約9.4倍の約8.3兆円、アジア太平洋州で現在の市場規模の約3.7倍の約27.2兆円に達する見込みである。

今後、わが国医療機器メーカーの世界市場獲得にあたっては、既に先進国市場の勢力図が固定化している中で、上記のような新興国市場獲得に対する戦略が求められている。

(3)社会保障に対する選択肢

社会保障モデルには、一般的に「高福祉・低福祉」と「高負担・低負担」という軸があり、北欧を代表とした高福祉・高負担モデル、アメリカを代表とした低福祉・低負担モデルの国に分けられる。日本は、中福祉・低負担モデルと言われている。

高福祉・高負担モデルは、高齢化の進展にともない、政府の財政負担の増加という深刻な課題に直面している。一方、低福祉・低負担モデルは、所得格差が即医療格差につながり、かつ診療報酬制度のような価格統制の仕組みがないため、医療サービスの価格が青天上的に高騰するリクスをはらんでいる。

上記のように、先進国の間でも絶対的な正解を見出せずにいる中で、新興国は、経済成長にともない今後、どのような社会保障モデルを採用するのか悩ましいところである。ちなみに、インドネシアやベトナムといったASEAN諸国では、国民皆保険を目指し、高福祉国への道を目指す動きが見られているところである。

2. わが国の医療の特色と課題

(1)日本の医療の強み

わが国の医療の強みとしては「コストパフォーマンスの高さ」が挙げられると考える。具体的には、わが国の健康水準は世界的に見ても突出して高い一方、医療費(対GDP比)は、アメリカやドイツ、フランスといった先進諸国よりも低い水準に抑えられている。これは、国民皆保険制度を前提とした医療へのアクセシビリティの高さ、医師を筆頭とする医療従事者の質の高さ、健診を含む生活習慣改善支援の仕組みといった背景があると考える。

(2)日本の医療の課題

日本の医療の課題としては、急速な高齢化に伴う医療需要の急増が挙げられる。それにより、医療財政の逼迫、インフラの不足(地方格差、療養や救急といった特定の病院機能の不足、特定診療科の人材不足等)といった問題が発生しており、これらの問題を解決するためには、医療の効率化が不可避となっている。

医療の効率化としては、「医療の機能分化」「経営管理の合理化」「政策決定の合理化」が挙げられると考える。

「医療の機能分化」については、現在、政府でも医療と介護の分離、病床機能報告制度や地域医療計画の策定、在宅医療の推進といった取組みが実施され、各地域で偏りなく必要な医療が受けられ、かつ病院ごとに機能分化の上、連携することで医療インフラの効率性を高める試みがなされている。

「経営管理の合理化」としては、従来、他業種と比較して圧倒的にICT化が進んでおらず、かつ戦略的なIT投資もなされてこなかった医療現場において、医療情報の電子化による情報蓄積・利活用、現場オペレーションの効率化といった工夫が求められている。

「政策決定の合理化」としては、現在、政府の動きとして、限りある財源の中、医療経済的な観点から、医療保険の保障範囲の選択に費用対効果の考え方を導入するといった動きが見られている。

また、医療の効率化に関する大きな政府動向としては「次世代医療ICT基盤協議会」が挙げられる。「次世代医療ICT基盤協議会」は、「次世代医療ICTタクスフォース」を前身とし、平成27年4月に健康・医療戦略推進本部に設置された協議体である。当該協議会では、ICTという切り口から、臨床現場の徹底的かつ戦略的なデジタル化及び生成デジタルデータの戦略的利活用を行うことで、より高度で効率的な次世代医療を実現することを目的とし、各種テーマ別WGに分かれて議論がなされている。具体的なテーマとしては、健康・医療分野におけるICT化に係る基盤整備(次世代医療機器や病院システムの研究開発・実用化を推進を含む)、電子処方箋の実現、医療情報連携ネットワークの普及促進、地域包括ケアに関わる多様な主体の情報共有・連携の推進等、革新的医薬品開発に資するシミュレーション技術の更なる高度化等が挙げられている。

図表2 各国の医療費と健康水準
図表2

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
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