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社会動向レポート

地域における水素エネルギー活用の動向と展望(1/3)

サイエンスソリューション部
次長 米田 雅一 コンサルタント 山本 晃平 コンサルタント 仮屋 夏樹

近年「地域における水素エネルギーの活用」に向けた動きが自治体をはじめ活発化している。本稿ではその背景と最近の動向を整理するとともに、今後地域での水素の活用可能性を考える上で鍵となる論点を述べる。

はじめに ―活発化する、地方自治体の水素エネルギー活用へ向けた取組み―

2014年12月のトヨタ自動車による水素を燃料とした燃料電池自動車「MIRAI」の市場投入、それに続く形での本年3月の本田技研による燃料電池自動車「CLARITY FUEL CELL」の市場投入に代表されるように、現在新たなエネルギーとしての「水素」の利用へ向けた取組みの機運が過去に例を見ないほど高まっている。

経済産業省により策定された「水素・燃料電池戦略ロードマップ」(2014年6月発表、2016年3月改訂)では、図表1に示すように水素社会実現へ向けた取組み項目が大きく三段階に分けて示されている。同ロードマップでは第一段階の「フェーズ1」において、燃料電池自動車(FCV)と定置用燃料電池の普及により水素エネルギーの利用を拡大、続く「フェーズ2」において海外で製造した水素を国内へ輸入、火力発電用燃料として利用する「水素発電」を導入することで大規模な水素利用を推進、そして最終段階である「フェーズ3」では、水素製造源を再生可能エネルギー等のクリーンエネルギーとすることで「CO2フリー水素」を製造、活用していくというシナリオが描かれている。

一方これと並行する形で近年非常に活発化しているのが、国内の地方自治体において、地域のエネルギー活用という枠組みの中で、水素を積極的に活用していこうとする取組みである。特に、再生可能エネルギーや未利用エネルギーなどの地域のエネルギー源から水素を“つくり”、需要地に向けて“はこび”、必要に応じて“ため”、最終的な利用地で“つかう”という、地域レベルでの水素サプライチェーンの構築に向けた取組みが盛んになっている。

本稿では、この「地域における水素エネルギーの活用」に関して、その背景と最近の動向を整理する。それを踏まえた上で、今後地域のエネルギー政策の中での水素の活用可能性を考える上で鍵となる論点と今後の展望を述べる。


図表1 水素社会実現に向けた3つのフェーズにおける取組みの方向性
図表1

1. 地域における水素エネルギー活用に向けた取組み動向

(1)「エネルギー貯蔵手段としての水素」への注目

[1] 背景 ―再生可能エネルギー導入量の増加と顕在化する余剰電力の問題―

2015年7月に経済産業省より発表された「長期エネルギー需給見通し」では、2030年の電源構成として再生可能エネルギーが22~24%を占めるものとされており(図表2)、震災前10年間の平均における割合である11%から大きく増加する見通しである(2)。これを受けて電源構成における再生可能エネルギーの導入は今後も一層進められると考えられる。

再生可能エネルギーの大量導入下では、特に太陽光発電や風力発電といった出力が不安定な電源の導入に伴う余剰電力への対処が重要である。自然条件や時刻に応じて出力が大きく変動する電源が大量に導入されると、供給が需要を上回り電力の余剰が発生するおそれがある。そのため、余剰電力を貯蔵し適切な形で利用するためのエネルギー貯蔵技術の重要性が高まっている。


図表2 2030年の電源構成と震災前10年間平均の電源構成の比較
図表2

[2] エネルギー貯蔵手段としての水素 ―Power to Gas―

電気エネルギーの貯蔵技術としては電池をはじめ複数のものが既に存在するが、近年水素をエネルギー貯蔵手段として活用する「Powerto Gas」が注目を集めている。

「Power to Gas」の基本概念は、再生可能エネルギー由来の余剰電力を用いて水の電気分解により水素を発生させ、水素の形態でエネルギーを貯蔵するものである。貯蔵した水素の利用方法としては、燃料電池での水素利用による発電や、ガスパイプラインへ水素を注入することで都市ガス同様に利用するといった方法などが考えられている。

エネルギー貯蔵手段としての水素には、他の手段と比べ特に長期間のエネルギー保存が可能なことや、大量の貯蔵に際して経済的であるというメリットがある。そのため、特に再生可能エネルギー大量導入への対策が喫緊の課題である欧州ではPower to Gasに関する実証プロジェクトが複数実施されており、運転中・計画中のものを合わせてその数は40か所を超える(3)

また水素利用の観点からは、再生可能エネルギーからの水素製造は、「CO2フリー水素」として非常に環境性に優れたエネルギーとなる点にも注目したい。水素エネルギーの大きな特長の一つは「使用時にCO2を排出しない」ことである。このため、水素製造源をCO2フリーなエネルギーに出来れば、サプライチェーン全体の大幅な低炭素化が期待できる。

[3] 最近の取組みの例

こうした背景から、国内でも再生可能エネルギー由来の余剰電力への対策手段として、水素利用に向けた取組みが開始されている。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構では「水素社会構築技術開発事業(水素エネルギーシステム技術開発)」のプロジェクトの1つとして、豊田通商ほか民間企業と室蘭工業大学と共に、北海道の風力発電由来の余剰電力を水素に変換して貯蔵・利用を行う技術の実証を進めている(4)

同プロジェクトでは、風況が良い北海道苫前町において風力発電で発生する余剰電力を用いて水の電気分解で水素を製造、その水素を需要地である道の駅へ輸送、燃料電池で利用という一連のサプライチェーンの実証を行っている。水素輸送の際には、製造した水素をトルエンに添加して生成したメチルシクロヘキサンを輸送キャリアとして利用する有機ハイドライド方式を採用している。

また、発電を行う事業者も水素によるエネルギー貯蔵への取組みを開始しており、東北電力は2016年4月より仙台の研究開発センターにて、太陽光発電設備や水素製造装置を設置し、太陽光発電由来の電力を用いて水素を製造、水素吸蔵合金式タンクに貯蔵して必要に応じて研究開発センターの燃料電池で水素を消費・発電することで出力変動による余剰電力を吸収するシステムの検証を行うとしている(5)

(2)未利用エネルギー活用による水素製造

[1] 背景 ―増加する未利用エネルギー活用への取組み―

地域のエネルギー政策の観点からは、未だ十分に利用されていないエネルギーを活用することは環境性の向上や、地産地消によるエネルギー面での自立化に寄与するという点で重要である。このため、未利用エネルギーの利用に向けた取組みが官民連携で積極的に進められている。

近年注目されている未利用エネルギーの一つに、下水処理場で発生する汚泥(以下「下水汚泥」という)がある。エネルギーとして下水汚泥を見ると、下水汚泥は人々の生活に伴い安定的に発生し、また通常、エネルギーの発生源に乏しい都市部においてもその供給が見込めるという特徴がある。一方でこの下水汚泥に関しては、約7割が未だ十分に活用されていない(6)

[2] 未利用エネルギー活用手段としての水素製造―下水汚泥を例として―

こうした背景の下、下水汚泥から水素を製造し、燃料電池等での利用を図ることで未利用エネルギーを活用するという取組みが国内で開始されている。この際に下水汚泥から発生したガスを改質・精製して水素を製造するが、この水素製造にあたっては新たなCO2は発生しておらず、水素はカーボンニュートラルとみなせることも環境性の観点から重要である。また水素の利用という観点からも、燃料電池自動車をはじめとして特に普及初期の水素需要は都市部を中心に発生すると予想されることから、都市部で発生している未利用エネルギーを原料として水素を製造することは、製造した水素を需要地へ輸送するコストの低減にもつながり、効率的な水素利用に寄与するものと期待される。

[3] 最近の取組みの例

国土交通省では2014年から水素リーダー都市プロジェクトとして、三菱化工機ほか民間企業、福岡市、九州大学と共に下水汚泥由来の水素製造実証事業を開始した。製造された水素は近隣の水素ステーションへの供給を想定している(7)

また、これらの下水汚泥由来水素製造は、横浜市、弘前市、長崎県、さいたま市などの複数の自治体において検討・フィージビリティスタディがなされている(8)

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