ページの先頭です

社会動向レポート
株式会社南武の事例を中心として

資源制約下における中小企業のオープン&クローズ戦略の実現(1/2)

経営・ITコンサルティング部 チーフコンサルタント 小具 龍史
コンサルタント 竹岡 紫陽
サイエンス・ソリューション部 コンサルタント 山本 晃平

オープン&クローズ戦略は従来、豊富に資源(1)を有するグローバル企業(大企業)だけが優位に実現できる戦略コンセプトとして提唱されてきた。しかしながら昨今、国内外で高いシェアを持つニッチトップな中小企業においても、この戦略を採用し競争力を高めている企業が存在することが明らかになりつつある。そこで本稿では、主に油圧シリンダー等の分野でニッチトップを実現する株式会社南武の事例から、なぜ資源に制約のある中小企業が、オープン&クローズ戦略を実現できるのか、そのメカニズムや実現のための要件について考察する。

1. オープン&クローズ戦略というコンセプト

近年、企業の経営戦略に関する新しいコンセプトとして注目されているのが、オープン&クローズ戦略というコンセプトである。経済産業省(2013)によれば、オープン&クローズ戦略とは「知的財産のうち、どの部分を秘匿または特許などによる独占的排他権を実施(クローズ化)し、どの部分を他社に公開またはライセンスするか(オープン化)を、自社利益拡大のために検討・選択することである」と定義されている(2)。このオープン化する領域とクローズ化する領域とを上手く連動させる(結び付ける)ことにより、自社の技術を普及させて市場を拡大するのと同時に、自社の利益を確保していくという戦略である。(図表1)

例えば、世界第1位の半導体メーカーであるインテルでは、CPU(Central Proccessing Unit:中央演算処理装置)をクローズ領域として、CPUとマザーボードのインターフェイス部分(3)をオープン領域に設定している。さらにマザーボードの設計・開発方法をオープンにすることにより、新興国のメーカーが、積極的にインテルのCPUに合致するようなマザーボードを設計・開発させるように仕向けている。これにより、インテルのCPUが採用されるPCが市場で圧倒的な地位を占め、利益を独占している。またインターネット関連サービスと製品を提供する米国企業Googleは、スマートフォンOSであるAndroidをオープン領域として、アプリケーションプラットフォームであるGooglePlayのユーザー層を増やすことで、市場を拡大しつつ、利益を高めることに成功している。

現在国内では、主に企業における事業戦略と知財戦略との関係性を研究する研究グループを中心として、特に上記のようなグローバル企業(大企業)を対象とした研究が蓄積されつつある。一方で、中小企業を対象とした当該分野の研究は、未だ十分に蓄積されていない状況にある。これまでに弊社では、主に経済産業省や特許庁の委託調査研究事業を通して、上記のコンセプトを実践する国内中小企業の事例収集やオープン&クローズ戦略パターンの分析、類型化等を実施してきた。一連の調査研究を進める過程において、大きな資源制約がある中小企業では、複数の技術セットを有し、グローバルに事業展開を進める企業と同様に、オープン&クローズ戦略が採られているという事実が明らかになってきている。


図表1 オープン&クローズ戦略
図表1

2. オープン&クローズ戦略のパターン

一般的にオープン&クローズの戦略的な企業行動のパターンとは、「知的財産と標準との関係性」として、経済産業省(2012)が整理している以下A、B、Cの3つのパターンが代表的なパターンであるとされている。(図表2)

パターンAは自社のコア技術を埋め込むパターンである。小川(2014)によれば、ある商品に自社のコア技術を埋め込み、標準化やコンソーシアム等で規格化し、グローバルスタンダードを獲得するパターンであり、通称「毒まんじゅうモデル」と言われている。表皮の薄皮が標準、中身の餡がコア技術の知的財産であり、自社の知財を埋め込んだ標準規格を業界他社に食べさせて、コア技術領域から“伸び行く手”で影響力を行使し、完全に市場を操る方法である。この代表的な「自社技術埋め込み」パターンの戦略を取る企業には、米国で世界の移動体通信に関する通信技術や半導体の設計開発を主導するクアルコムがある。

パターンBは周辺技術オープン化パターンであり、自社のコア技術を知的財産や秘匿により守りつつ、コア技術と抱き合わせにされた周辺技術をオープン化することによりデファクトスタンダードとなり、自社のコア技術と周辺技術を同時に普及させる方法である。この「周辺技術オープン化」パターンの戦略を取る代表的な企業には、後述するインテルがある。

パターンCは、品質・機能差の明確化を行うパターンである。評価基準や標準尺度の策定に積極的に関与し、自社しかその基準がクリアできないないしは選ばれないように品質差を明示して、特色あるコア技術を持って自社のブランディングを行なうことにより、業界標準(デファクト・スタンダード)を得るモデルである。自社の技術が評価基準や標準尺度となりオープン化することにより、広く技術が普及し市場が拡大するのと同時に、クローズ化している自社の技術のみが採用されることになるために、独占的な利益の確保を可能とする。この「品質差の明確化」パターンの戦略を取っている事例としては、日本水晶デバイス工業会などがある。

各戦略を採る代表的な企業として、いずれも大企業や企業集団が名を連ねる。特にAの「自社技術埋め込み」パターンの戦略などは、標準化等の規格策定を主導する必要があることから、資源を豊富に投入できる大企業(グローバル企業)にしか実現できないパターンであると考えられる。またBについても、標準規格の策定等がポイントとなるため、中小企業には採りえないパターンであると考えられてきた。また中小企業は、資源制約に加えて、大企業が参入しないニッチでカスタマイズを要する市場に多品種少量生産事業を展開することが多いため、自社技術を埋め込み汎用化した製品・サービスを展開し、規模の大きな市場の獲得を目指すオープン&クローズ戦略の手法を採ることには適していないとも考えられてきた。しかしながら昨今の一連の調査により、中小企業であってもオープン&クローズ戦略を実現している事例があることが明らかになってきた。次項では、この具体的な企業事例として、株式会社南武の事例を紹介する。


図表2 知的財産と標準との関係に基づくオープン&クローズ戦略の3つのパターン
図表2

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
ページの先頭へ