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ライフサイクルを考慮した水素の温室効果ガス排出量に関する評価報告書

2016年12月
みずほ情報総研株式会社

要旨

  • 燃料電池自動車(FCV)の市販が開始され、ガソリン車、ハイブリッド車とともに動力源の選択肢が増える一方で、燃料の多様化も進みつつある。FCVの燃料として利用される水素に関しては、利用時に温室効果ガス(GHG)を排出しないという利点がある一方、製造時においてGHGが排出される。本評価は、異なる水素製造パスのGHG排出量を定量的に把握するとともに、将来の排出削減の可能性を考察することを目的に実施された。なお、評価対象は水素1Nm3をFCVの燃料タンクに充填することとした。
  • 評価の結果、水素製造パスのライフサイクル全体におけるGHG排出量は式となった。化石燃料由来の水素製造パスのGHG排出量が高い傾向にあり、次に副生水素由来の水素製造パスが大きく、最もGHG排出量が少ないのは再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電)由来の水素製造パスという傾向がみられた。
  • GHG排出量の内訳を見ると、化石燃料由来の水素製造パスでは「製造段階におけるエネルギー消費量及び原料からの直接排出量」が、副生水素由来の水素製造パスでは「輸送・貯蔵及び充填段階におけるエネルギー消費量」が、再生可能エネルギー由来の水素製造パスでは「充填段階におけるエネルギー消費量」が、それぞれパス全体のGHG排出量に大きなインパクトを持つことが認められた。また、すべてのパスにおいて「ライフサイクル全体における電力消費量」による影響も大きく、特に再生可能エネルギー由来の水素製造パス等においてその傾向は顕著であった。これらの結果を踏まえると、各プロセスにおける機器の効率化等を通じたエネルギー消費量の低減やCO2回収貯留(CCS)の実施による原料由来排出量の低減(化石燃料由来のパスの場合)、系統電力のGHG排出原単位の低減が、水素製造パス全体のGHG排出量低減において重要であることが示唆された。
  • なお、今回は水素製造パスを構成する機器類のライフサイクルを構成するプロセスを評価対象外としたが、この判断が結果に及ぼす影響について感度分析を行った。その結果、原料生産プロセスの設備構築に起因するGHG排出量は、化石燃料由来の水素製造パスでは極めて小さく、パス全体の排出量にはほとんど寄与しないことが示された。一方、再生可能エネルギーを利用する水素製造パスでは、発電設備の構築に起因するGHG排出量がパス全体の排出量を約13~110%も押し上げる効果があることが示された。なお、今回の評価では水素の製造、輸送・貯蔵、充填プロセスに関する設備構築時の排出量データは入手できなかったため評価対象外としており、今後の検討課題である。
  • 副生水素を利用する水素製造パスについて、本評価では現在有効利用されていない余剰の副生水素を利用することを想定し、原則は配分を行わないこととした。しかし将来的に、現在有効利用されている副生水素がFCVの燃料として利用されるケースもあり得ることを考慮し、配分手順に関する感度分析を実施した。その結果、代替燃料を考慮した場合GHG排出量は2~3倍に増加した。また、質量基準での配分を行った場合は1.2倍程度、経済価値基準で配分を行った場合は1.3~3.7倍程度に排出量が増加した。このように、排出量増加の程度は選択した配分手順によって幅がみられたが、いずれのケースにおいても、配分を行うことでGHG排出量が増加することが示された。この結果から、将来既に利用されている副生水素をFCVの燃料として利用する場合には、副生水素のGHG排出量が増加する可能性があることに留意すべきと考えられた。
  • 本評価において使用した国内系統電力のGHG排出原単位に関する不確実性分析を行ったところ、将来、排出原単位が低減された場合には、海外で水素を製造するパスに比べて国内における水素製造パスの方がより大きなGHG排出量低減効果を得られる可能性があることが示された。
  • 本評価の結果は、今後、水素の製造・供給・利用に関わる事業者やFCVの利用者が、環境負荷低減を目指した技術開発やより環境負荷の小さな水素の選択を行う上で参考となる資料の1つになるであろう。しかしながら、本評価の結果は気候変動という環境側面のみに対して、ある前提条件下で評価した結果であり、すべての環境側面やあらゆる前提条件下において、特定の水素製造パスが優位であることを示したわけではないことに注意する必要がある。
  • 今後は、今回の調査において対象外とした環境側面や前提条件についても可能な限り調査を行うとともに、本評価の精度を向上し、水素の製造・供給・利用に関わる事業者やFCVの利用者に対してより的確な情報を提供できるようにしていく必要があると考えられる。

目次

  1. 調査の目的
  2. 調査の範囲
  3. ライフサイクルインベントリ分析(LCI)
  4. ライフサイクル影響評価(LCIA)
  5. ライフサイクル解釈
  6. まとめ
  7. 参考文献

評価報告書



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