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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.24

The Quantitative Methods in Finance 2016 Conference(QMF 2016)参加報告

2017年3月
みずほ情報総研 金融技術開発部 小野里 光司

1. カンファレンス概要

大会名:The Quantitative Methods in Finance 2016 Conference
開催地:オーストラリア シドニー(Hilton Sydney Hotel)
主催:University of Technology Sydney
期間:2016年12月12日~2016年12月16日

本大会は数理的アプローチによるファイナンス研究の国際的な発表の場となっており、ワークショップを含め計5日間のカンファレンスがシドニー中心部のホテルにて開催された。参加者は現地での目算であるが150名弱、発表者は100名弱と概ね例年通りであった。参加者は世界各国から参加しており発表者の多くは大学関係者であった。

2. 内容

大会では午前は一箇所の大会議室で各人40分の発表が、午後は3つの会議室に分かれて各人20分の発表が実施された。トピックは、確率モデルやデリバティブ商品の評価、モデルリスク、信用リスク、金融規制など様々であった。以下では聴講した発表の中からいくつか紹介する。

【確率ボラティリティ・モデル】

[Robert Elliott, "Heston-Type Stochastic Volatility with a Markov Switching Regime".]

Hestonモデルのボラティリティの平均回帰水準に対してマルコフ連鎖によるレジーム・スイッチの仕組みを導入したモデルについて紹介していた。Hestonモデルは確率ボラティリティ・モデルの1つとして知られており、原資産価格Stとその分散vtは以下の確率微分方程式に従うとされる*1

式1

ただし、rは無リスク金利、κ,θ,σはそれぞれ分散の平均回帰係数、平均回帰水準、ボラティリティを表すパラメータである。2つのブラウン運動dWt1,dWt2には相関を持たせることができる。これらのパラメータにより様々なボラティリティ曲面*2の期間構造を表現することができる。

発表者の研究ではHestonモデルのボラティリティの平均回帰過程に対して、n個の平均回帰水準 θt∈{θ1,⋯,θn }を用意し、この時のコール・オプションの価格式をHeston(1993)と同様に特性関数を用いた手法により準解析的に導いていた。また、導出した価格式をもとにモデル・パラメータを所与としいくつかのボラティリティ曲面をシミュレーションしていた。パラメータの取り方により多彩な形状の曲面を再現できるモデルであると説明していた。

[Kun Huang, "Calibration of Hybrid Model and Arbitrage-Free Implied Volatility Surface".]

Hestonモデルの原資産価格が従う確率微分方程式の拡散項に対して、レバレッジ関数と呼ばれる局所ボラティリティと確率ボラティリティの比率を表す係数を乗じたモデルについて考察していた。これは先行研究であるY.Tian et al.(2012)と同様のモデルであるが、先行研究では為替市場を対象としていたのに対し、発表者は株式市場に応用していた。原資産が株式の場合でも市場価格と整合的なボラティリティ曲面を構築できデリバティブ商品の評価の精緻化に利用できるモデルであると報告していた。

【コモディティ】

[Katja Ignatieva, "Jump Activity Analysis for Affine Jump-Diffusion Models: Evidences from the Commodity Market".]

コモディティ市場におけるETF価格と対応するボラティリティ指数のジャンプについて、アフィン・ジャンプ拡散モデルを使用し考察していた。2008年から2015年の期間の原油と金(USO/OVX、GLD/GVZ)のデータを使用し、統計的な仮説検定やコピュラを用いた分析を行っていた。通常、株式市場ではS&P500指数とVIX指数などは逆相関すると言われるが、コモディティ市場においては有意な相関がみられないことを確認していた。

【自動微分】

[Alexandre Antonov, "Algorithmic Differentiation for Callable Exotics".]

自動微分*3を使用したデリバティブ商品の感応度計算の高速化方法について紹介していた。通常のモンテカルロ法による時価評価への自動微分の適用方法に加え、最小二乗モンテカルロ法*4のように回帰を使用する複雑なデリバティブ商品への適用方法についても紹介していた。また、高速化の効果を1ファクターのHull-Whiteモデルでバミューダン・スワップションの感応度計算で検証していた。差分法による場合と比較して自動微分では10~20倍程、感応度計算の高速化が可能であるとしていた。

3. 所見

本大会は著名な研究者から大学院の学生まで多数の研究者が参加しており、数理ファイナンス分野における多彩な研究成果や最近の研究動向に触れることができた。

発表内容は例年通り確率モデルを中心とした数理ファイナンス理論に関する発表が多いなか、実際の市場データを用いた実証研究に関する発表もあった。また、自動微分といった計算処理技法に関する発表もあった。

2007年~2008年の金融危機以降、デリバティブ商品の価格付けに対して様々な評価調整が行われるようになった。その中でもCVAはその変動リスクも管理することが金融機関の内部管理上も、金融規制面からも必要になってきている。CVA計測には通常モンテカルロ法が使用されるため、その微分に相当するCVA感応度の計算コストは高い。そのため自動微分を金融分野へ応用する研究が昨今行われており、こうした分野の発表があったことは金融危機以降の金融市場の変化や規制強化に伴った昨今の金融情勢が反映されていると言えるであろう。


  1. *1S.L.Heston,”A Closed-Form Solution for Options with Stochastic Volatility with Applications to Bond and Currency Options”,The Review of Financial Studies v6n2,1993.
  2. *2ボラティリティ曲面とは、オプションの権利行使価格と満期を軸としてインプライド・ボラティリティを描いた曲面のこと。インプライド・ボラティリティはヨーロピアン・タイプのバニラ・オプションの市場価格をもとにBlack-Scholes式から逆算して求める。
  3. *3関数を記述するプログラムの偏導関数の値を、チェイン・ルールを繰り返し利用することで求める技法。
  4. *4モンテカルロ法と最小二乗法を組み合わせた手法。アメリカン・タイプのオプションのように途中で権利行使できるデリバティブ商品の評価において、継続価値(権利行使せずにオプションを保有し続けた時の価値)を最小二乗法により推計し権利行使の判定に使用するもの。
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