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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.26

American Finance Association 2017 Annual Meeting (AFA2017) 参加報告

2017年5月
みずほ情報総研 金融技術開発部 中山 恒明

1. カンファレンス概要

大会名:American Finance Association 2017 Annual Meeting (AFA 2017)
開催地:アメリカ合衆国 イリノイ州 シカゴ
主催:American Finance Association
期間:2017年1月6日~2017年1月8日

五大湖の一つであるミシガン湖の南西部に位置するシカゴは全米有数の都市であり、産業と交通の要所となっている。米国で初めて商品先物の取引を開始した歴史を持ち、今日では世界最大のデリバティブ取引所を抱える国際的な金融センターとしても知られている。

AFA2017はシカゴのダウンタウンにあるSheraton Grand Chicagoを会場に、2017年1月6日から1月8日の間で開催された。開催期間中、ミシガン湖から吹き付ける風によって厳しい冷え込みがあったが、会場は大勢の参加者で賑わい熱気を帯びていた。3日間で72のセッションが開かれ、セッション毎に3, 4件の発表があった。テーマとしては、「行動ファイナンス」「シャープレシオ」といった伝統的な内容から、「流動性」「マーケットデザイン」「金融危機」など昨今の金融情勢を反映したものまで幅広いテーマを扱っていた。

2. 内容

以下では、聴講した発表の中からその一部を報告する。

【Market Structure and Market Design】

[Benos, E., Payne, R. and Vasios, M., “Centralized Trading, Transparency and Interest Rate Swap Market Liquidity: Evidence from the Implementation of the Dodd-Frank Act”.]

本研究は、金融規制によるスワップ執行ファシリティ(SEF)の導入がスワップ市場にどのような影響を及ぼしたのか実証分析したものである。

2013年に米国ではドッド・フランク法が施行され、特定の標準的な金利スワップはSEF上で取引することが義務付けられた。従来、金利スワップは取引の当事者同士により相対で取引する形態をとっているため透明性の低さが指摘されてきたが、SEFと呼ばれる電子的に取引を執行するプラットフォーム上では、複数の参加者が互いにプライスを見せ合うことで市場の透明性や流動性の向上および取引コストの低減などが期待される。

著者らは、SEFの導入がUSD金利スワップとEUR金利スワップの流動性や取引コストにどのような影響を及ぼしたのか、SEF取引開始前後(2013年1月~2014年9月)のパネルデータを用いた実証分析を行った。分析結果は、両スワップ市場の流動性を改善し、特にUSD金利スワップで顕著であることや、取引コストも大きく減少させる効果があることを示した。また、規制導入直後に米国のトレーディングデスクを欧州に移管させた規制回避的な行動が、規制対象者と非対象者の間で市場の分断を引き起こしていることも明らかにした。

【Liquidity and Trading in Bond and Derivatives Markets】

[Colliard, J.,-E., Foucault, T. and Hoffmann, P., “Trading Frictions in the Interbank Market, and the Central Bank”.]

本研究は、オーバーナイト・インターバンク市場の参加者行動をモデル化し、金融危機時の中央銀行による金融政策について論ずるものである。

オーバーナイト・インターバンク市場の参加者は大規模な金融機関(Core Banks)とそれ以外の金融機関(Periphery Banks)に大別され、金融危機時には一部のPeriphery BanksがCore Banksから分断され流動性が低下し、短期金利のボラティリティが増大する事象が発生した。それに対処すべく中央銀行は流動性を供給する金融政策を実施した。

著者らは、Poole(1968)が提唱した定常時における均衡モデルの枠組みを拡張し、金融危機時にCore Banksと取引が困難になるPeriphery Banksが多数存在するケースについて議論を展開している。金融危機時には、コリドーシステムと呼ばれる政策金利を操作する手段には限界があり、大量の流動性を供給した場合にはバランスシートが拡大する問題をはらむことで、両者がトレードオフの関係にあることを明らかにした。

【High Sharpe Ratios】

[Du, W., Tepper, A. and Verdelhan, A., “Deviations from Covered Interest Rate Parity”.]

本研究は、金融危機後にカバー付き金利平価(Covered Interest Parity, CIP)が恒常的に成立しない事象について実証分析したものである。

カバー付き金利平価とは、将来の為替レートが現時点においてどのように決定されるか、2国間の為替と金利の無裁定関係より説明するものである。金融危機後、無裁定が成立する均衡状態からの乖離(CIP deviations)が市場で観測され、理論的に裁定機会が存在している状態にある。通常、裁定機会は市場参加者の行動により速やかに解消されるが、依然としてCIP deviationsは継続している。

著者らは、この要因が信用リスクや取引コストによるものではなく、資本規制等に係る金融機関のバランスシート調整に要するコストの増加と世界的なドル調達・運用の不均衡からなる相互作用によるものとの仮説を立てて検証した。実証分析を行った結果、短期の取引においては金融当局へ報告するレバレッジ比率の計測時点である四半期末に乖離幅が増大すること、LIBORの代替金利としてドル調達によるバランスシート調整コストを織り込んだ金利(Interest Rate on Excess Reserve, IOER)を用いて計算した場合に乖離幅が縮小されること、流動性という観点で類似したLIBORテナースプレッドなどの資産クラスと同様な変動をすること、名目金利と高い相関を持つこと、といった特徴の存在を明らかにした。

3. 所見

本大会では幅広いテーマについて、学術関係者や金融当局関係者らが研究を発表しており、昨年対比、金融市場の流動性や市場の構造に関するセッションが増えているように見受けられる。これはリーマンショックや欧州危機を経て、様々な金融政策やバーゼルIIIに代表される国際的な金融規制が順次施行された過程の中で多くのデータが蓄積され、それらを用いた検証やレビューが可能な段階に来ていることの証左ではないだろうか。現在進行形で劇的な変遷を遂げつつある金融市場とそれを取り巻く金融機関に関して、最新の研究成果を知ることができたのは実務の面からも大変有意義であったと考える。


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