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社会動向レポート

オリンピック・パラリンピック競技大会におけるカーボンフットプリント算定の意義と展望(1/2)

環境エネルギー第2部 コンサルタント 中村 悠一郎  シニアコンサルタント 内田 裕之

本稿では、製品・サービスのライフサイクル全体における温室効果ガス排出量を「見える化」するカーボンフットプリント (CFP) について概説し、国際的なイベントであるオリンピック・パラリンピック競技大会においてCFPを算定する意義と展望について述べる。

1. カーボンフットプリントとは

(1)製品のライフサイクル全体の評価ツール

カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprintof Products)とは、製品・サービスのライフサイクル全体における温室効果ガス(GHG)排出量を算定し、「見える化」する手法である。製品・サービスのライフサイクルとは、例えば[1] 原材料の調達、[2] 生産、[3] 流通といった供給者側の段階に加え、[4] 使用・維持管理、[5] 廃棄・リサイクルといった需要者・利用者側の段階も含む、まさに製品の生涯全体のことである。下図にCFPの考え方のイメージを示す(図表1)。

[1] 原材料調達段階においては、例えば原材料を掘削する重機を稼動させるための燃料の消費に伴うGHG排出量が、[2] 生産段階においては、例えば生産機械を稼働させるための電力や燃料の消費に伴うGHG排出量が、それぞれ算定される。各段階においてGHG排出量を算定し、積み上げることで、最終的に製品のライフサイクル全体のGHG排出量=CFPが明らかになる。

このように、製品・サービスのライフサイクルの各段階におけるGHG排出量を定量的に把握することができるため、当該製品・サービスの生産から廃棄・リサイクルまでに排出されるGHGに対して、効率的な削減対策を考えることが可能となる。図表1で例えれば、相対的にGHG排出量の大きい使用・維持管理段階における削減対策が重要であることが分かる。

図表1 カーボンフットプリントの考え方のイメージ
図表1

(2)わが国におけるカーボンフットプリントの取組み

わが国では、2009年度から3年間、経済産業省主導の下、「カーボンフットプリント制度試行事業」が実施された。この事業は製品・サービスのCFPを算定し、マークを使用して表示する仕組みであり、図表2のように、その製品のCFPを消費者に分かりやすく提示するものである。

この試行事業が実施された目的は次の2つである。

  1. [1]製品のサプライチェーンを構成する事業者が協力し、GHG排出量の削減に向けて努力することを促すこと。
  2. [2]製品ごとのCFPを開示することで、消費者がその情報に基づいて自らの消費生活を低炭素化することを促すこと。

[1]の目的については、先述の通り、段階ごとのGHG排出量が明らかになるため、サプライチェーンのどの段階の削減が重要であるかが分かる。従って、どのような事業者間連携が必要か把握することが可能となる。[2]の目的については、消費者が製品を選択する際の価格、量といった指標に、新たにGHG排出量という環境指標を加えようとするものである。従来は製品ごとのGHG排出量を知る手段が限られていたため、環境意識の高い消費者であっても、環境負荷の小さい低炭素な製品を選択することは困難であった。カーボンフットプリントマークを導入することで、消費者自身による低炭素な製品の選択を可能にし、消費者自身の選好・行動によって、国民のライフスタイルが自然と低炭素化することを目指す、これが[2]の目的である。

このように、CFPとして製品のGHG排出量の「見える化」が普及することは、生産者や販売者といった供給側の努力、消費者等の需要側の製品選択という両面の効果により、社会の低炭素化の促進に資する可能性がある。

図表2 カーボンフットプリントマークの例
図表2

2. 国際イベントにおけるCFP算定の意義

(1)国際イベントにおけるCO2排出量算定の状況

1章では製品・サービスにおけるCFP算定の意義について整理したが、本章では、製品・サービスではなく、国際イベントにおけるCFP算定の意義について整理したい。初めに、2000年代に実施された国際イベントにおける開催期間中のCO2排出量(≠CFP)の算定事例を概観し、続いてイベントにおけるCFP算定の意義を考える。

国際イベントにおける開催期間中のCO2 排出量の算定事例としては、例えば、2006年に開催されたサッカーW杯ドイツ大会や、同年の冬季オリンピックトリノ大会、2008年のG8北海道洞爺湖サミットがあげられる。これらの国際イベントにおいては、イベント期間中の会場におけるエネルギーの消費や、関係者の国際移動に伴う開催期間中のCO2排出量が算定された(図表3)。 減するための対策を実行することも可能となる。

しかしながら、図表3のこれらはイベントにおけるライフサイクルのGHG排出量のうち、一部を評価したに過ぎない。イベントの開催に伴うGHG排出は図表3の項目だけではなく、例えば会場の建設・設営や会場内で提供・販売された物品の生産・消費からも排出される。イベントを1つの製品・サービスと考えたとき、図表3に示す算定範囲だけではライフサイクル全体を網羅したことにならず、イベント開催による地球温暖化への影響の全体像を把握しているとはいえないと考えられる。

図表3 国際イベントにおけるCO2排出量と算定範囲
図表3

(2)イベントのライフサイクル全体における影響

上記の評価とは異なり、イベントの開催に伴って発生するGHGをより広く、ライフサイクル全体で把握した例として、2011年度のエコプロダクツ展が挙げられる(図表4)。この事例では、イベントのライフサイクルを[1] 会場、[2] 来場者、[3] 主催者、[4] 出展者とステークホルダー別に考える。

図表4では詳細な内訳を示していないが、イベントから排出されるGHGにおいては、準備段階ともいえる出展者による展示物作成等に係る排出量が非常に大きく、次いで、来場者の移動等による排出量が大きい。他方で、開催期間中の排出量である会場のエネルギー消費からの排出は、ごくわずかな割合であることが分かる。つまり、開催期間が短いイベントにおいては、開催期間中のエネルギー消費に伴うGHG排出が必ずしも大きくなく、むしろ、準備期間における各種資材等の製造に伴うGHG排出の方が大きな割合を占める場合もある。従って、図表3のように開催期間中のCO2排出量を算定するだけでは、イベント全体の地球温暖化への影響を把握していないことになり、イベントにおいてもライフサイクル全体のGHG排出量=CFPによって評価することが重要であるといえる。

加えて、このように評価することで、そのイベントにおけるGHG排出量の削減ポテンシャルを推計することが可能となる。図表4の例であれば、GHG排出量の大きな項目は出展者と来場者によるものの2種類であるが、このうち、イベントの主催者がGHG排出量の削減対策を行うとき、来場者に対してその対策を施すことは難しいと考えられる。全国各地から来場する多くの人々に対し、主催者として移動や宿泊等の低炭素化を要求することは現段階では限界がある。そのため、事実上、実行可能な削減対策はイベントを開催する主催者と出展者におけるものに限られるだろう。つまり、来場者に由来する約1,600トンの削減余地は大きくなく、削減ポテンシャルの多くは主催者と出展者に由来する約2,700トンに残されていることが示唆される。

次章では、ここまでの整理を踏まえ、大規模な国際イベントであるオリンピック・パラリンピック競技大会(以下、オリンピック)におけるCFP算定について整理する。

図表4 エコプロダクツ2011におけるCFP の内訳
図表4

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