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社会動向レポート
個人情報は、「守る」時代から「使う」時代へ

医療・介護・ヘルスケア分野におけるICT化と情報利活用(1/2)

社会政策コンサルティング部 医療政策チーム 医療産業課 チーフコンサルタント 日諸 恵利

現在、政府では、代理機関や情報銀行といった、個人情報の利活用を促進する仕組みや、その周辺環境の整備について各種議論が進められている。本レポートでは、中でも医療・介護・ヘルスケアに関連する議論の動向について整理するとともに、今後の方向性について考察を行った。

1. 背景

(1)個人情報管理の現状

個人は資産・購買情報、移動情報、健康情報、医療情報といった各種情報の発生源であるが、その情報を活用可能な形式に「データ化」するのはサービスを提供する企業等であることが多く、個人情報は企業等が収集・保管しているのが現状である。例えば、身近な例では、個人の特定の店舗における購買情報はポイントカードを提供するサービス事業者が保有し、マーケティングに活用している。また、医療情報では、個人がかかりつけている内科、眼科、整形外科、歯科といった診療科ごとに診療データが分散管理され、さらには、同じ疾患でも重症化により専門医のいる中核病院等に通院先を変更した場合、その時点からデータが分散されるといった状況になっている。

このような背景の中、現在、個人情報を一元管理し、より高度な活用を可能にするための動きが加速している。例えば医療分野において、政策的には、医療費の適正化やデータヘルス促進による健康寿命延伸等が掲げられ、産業面では、創薬・医療機器の研究開発の効率化、予防・健康増進に資する各種サービス創出等に繋げようという動きが加速している。

(2)医療分野における活用方策の具体例

以下では、医療分野における情報活用の具体例として、近年注目が集まっている「診療支援システム」を取り上げる。診療支援システムとは、AI技術等を活用し、対象となる患者データや学術論文等の情報をもとに、システムが治療方針について医師に何らかの提案をしたり、その根拠となる過去症例や、関連する診療データを示すものである。

この「診療支援システム」を活用することで、将来的には、医師が最短プロセスで確定診断を行ったり、より効果的な治療方針を検討するためのサポートを受けることができる。その結果、医療現場における診療の高度化・効率化のみならず、医療費の適正化にもつながることが期待されている。また、診療支援システムにより医師の判断をサポートすることができれば、人材が不足している医療過疎地域や、特に専門医が減っている診療分野について、医療サービス提供体制の強化につながると考えられる。

以下では、「診療支援システム」の研究開発動向について簡単にご紹介する。医療現場における確定診断に至るまでの一般的なプロセスとしては、問診、画像診断、臨床検査が挙げられるが、現在は各プロセスの一部に対応する診療支援システムが登場している状況である。今後、さらに研究開発が進むことで、各プロセスにおけるシステムが一連のものとしてつながり、総合的な分析や提案が可能になることが期待される。

具体的な民間の動きとして、IBMでは、現在、問診に対する支援のほか、「Analytics ofMedical Images(医療画像分析)」というX線CT装置やMRIで撮影した医療画像の解析に基づく診断を支援するシステムの開発が進められている(1)。さらに、「Watson Genomic Advisor(ゲノム解析アドバイザー)」という、患者の遺伝子解析結果と、疾病や適切な治療薬、他の遺伝子との関係をレポートしてまとめる取組みも進められており、個別の患者に合わせたオーダーメイドな治療を提供する個別化医療への道を拓いている(2)

また、東京自治医科大学では、「ホワイト・ジャック」という、人工知能と臨床医の双方向対話型での診療支援システムの開発が進められているところである。

2. データの一元化及び情報活用に関する法規制動向

以下では、データの一元化と情報活用に関する法規制動向について紹介する。

(1)改正個人情報保護法

関連法規制としては、まず、平成27年9月に成立し、平成29年5月30日に全面施行される改正個人情報保護法が挙げられる。改正点の中でも、特に留意すべき点として、以下を挙げる。

1点目は、要配慮個人情報である。病歴は要配慮個人情報にあたり、本人同意を得て取得することが原則義務化され、本人同意を得ない第三者提供の特例(オプトアウト)を原則禁止した。一方、2点目としては、匿名加工情報に関する規定が整備される。具体的には、匿名化し、個人が特定されない状態にしたデータについては、要配慮情報であっても、より緩やかな規律の下、流通及び活用が可能になる予定である(3)。医療情報の匿名化及び第三者提供に係る政府の議論としては、「代理機関」が挙げられる(詳細は後述)。

(2)官民データ活用推進基本法

データ活用の促進にあたり各種の基盤整備が進められる中、平成28年12月14日に公布・施行された本法12条には、「多様な主体が個人に関する官民データを個人の関与の下で適正に活用することができるようにするための基盤整備」という文言が盛り込まれており、データ活用に向けた機運の高まりに対応している(4)

(3)EU データ保護規則

諸外国における法規制の動向としては、2018年から施行されるEUデータ保護規則(GeneralData Protection Regulation: GDPR)が挙げられる。具体的には、個人による自己データの利用機会を拡大することで、データ利活用の促進とその保護を両立する「データポータビリティ権(20条)」が定められており、[1] データ管理者から本人が自らのデータを扱いやすい電子的な形式で取り戻し、それを他のデータ管理者に移転する権利と、[2] あるデータ管理者から、別のデータ管理者に直接移転する権利を有する(5)

仮に、わが国においても、「データポータビリティ権」が取り入れられた場合、従来の情報の囲い込みによるビジネスモデルは成立しなくなり、データ活用戦略と高度な解析技術で勝負することになるであろう。

3.「情報銀行」と「代理機関」

こういったデータの一元化や活用促進に関する整備が進められる中、「情報銀行」や「代理機関」といったキーワードが、政府において積極的に議論されているところである。

まず、「情報銀行」の前提となる考え方として、個人情報を一元化し、セキュアに、かつ構造化して保管・管理・活用するという「PersonalData Store(PDS)」という仕組みが想定されている。上述の「データポータビリティ権」のような規則が国内でも施行された場合、個人による自らの情報の一元管理は進むであろう。しかし、情報の活用にあたって、個人が常に管理や判断を行うことは難しいという状況が発生することが予想される。そこで、「情報銀行」という信頼できる主体に個人情報を信託し、適切に管理・運用の上、それによって生じた利益が還元されるというサービスのあり方が議論されている。

次に、「代理機関」の前提となる考え方としては、医療機関から医療情報の提供を受け、その情報を「代理機関」にて匿名加工を行った上で、政策立案や研究開発等への利用を希望する各種主体に提供するというものである。

上記2つの違いは、「情報銀行」は、個人に対する同意を得て第三者への情報提供を行うのに対し、「代理機関」は、本人同意なしに医療機関から情報を取得し、代わりに個人情報が特定されない形に加工して提供するという点である。

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