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社会動向レポート

人口変動が入院医療需要に与える影響(2/4)

社会政策コンサルティング部 研究主幹 仁科 幸一

3.病床機能再編に向けて

(1)都道府県地域医療構想の策定

引き続き進む人口減少と高齢化の中で、増加し続ける国民の社会保障ニーズと財政負担の最適化は国策の重要課題であるという認識が、2000年代以降、広く共有された。こうした背景の下、2008年に設置された「社会保障国民会議」以降、社会保障のあり方に関する議論が積み重ねられた。こうした過程をふまえ、医療制度の改革を実現すべく、2014年に成立したのが、「医療介護総合推進法(17)」である。この法改正によってスタートしたのが、病床機能報告制度と地域医療構想である。

病床機能報告制度は、病院・有床診療所が、現在及び将来の病床(一般及び療養)機能を都道府県に報告する制度(18)であり、その結果は個別の医療施設単位で公表される。2014年以降、毎年実施されている。これまで、各医療施設の病床機能は自らの判断以外で開示されることがなく、地域の医療関係者にも「ブラックボックス」であったことからすれば、極めて画期的な取り組みである。

地域医療構想は、団塊の世代が75歳に到達することで医療需要が急増する2025年を見据え、構想区域(19)(二次医療圏)ごとの医療需要(必要病床(20))と将来の医療提供体制像を実現する方策を明らかにすることを目的に、都道府県医療計画の一部として策定されるビジョンである。2016年度末までに全都道府県で策定され、今後の病床機能の再編は、地域医療構想を軸に進められることになる。

(2)地域医療構想調整会議

病床機能の分化と連携を具体的に検討する場が、地域医療構想調整会議(以下「調整会議」)である。その目的は、機能別必要病床数の実現や連携強化など地域医療構想の達成を推進するための方策を協議することにあり、構想区域ごとに設置される。構成メンバーは、地域の医療団体関係者、保険者、学識経験者などの関係者である。厚労省は地域医療構想策定ガイドラインで、取り扱う議題として、[1]地域の病院・有床診療所が担うべき病床機能に関する協議、[2]病床機能報告制度による情報等の共有、[3]都道府県計画に盛り込む事業に関する協議などを示している。

調整会議の画期性は、見える化された現状と予測データをベースに、病床数や病床機能という個々の医療施設の経営の根幹に関わる事項を、場合によっては競争相手となりうる他の医療施設と共有しながら調整を図るという点にある。情報公開によって、地域の医療施設に合理的な意思決定をうながす仕組みととらえることもできる。いずれにしても、従来の医療政策と比べてソフィスティケートされた手法といっていいだろう(21)

なお、都道府県の取り組みに対する財政支援策として、地域医療介護総合確保基金が設置されている。対象は、[1] 病床の機能分化・連携、[2]在宅医療、[3]介護施設等整備、[4]医療・介護従事者確保などの事業で、財源は、国が2/3、都道府県が1/3を負担する。

(3)今後の方向性と課題

[1] 今後の方向性

1970年代以降の医療政策は、老人医療費無料化によってもたらされた医療費増嵩の解決に腐心してきた歴史といっても過言ではない。また、今後も進む高齢化と人口減少の下で、財源確保は引き続きの解決しがたい課題であることはいうまでもない。

しかし、病床機能再編の目的を医療費の抑制だけで説明するのは適当ではない。仮に医療費の抑制だけを目的とするならば、療養病床を介護施設に転換させ、診療報酬を引き下げれば事足りるといえなくもない。

にもかかわらず、各医療施設の経営判断を基本とする方法をとる背景には、人口減少と高齢化が進む中、医療資源を効率的に活かし、地域医療を支える医療施設との共通理解を得ながら、病床機能の量と質を最適化する必要があるためと考えられる。これは、時代の要請であるといってもいいだろう。

[2] 今後の課題

地域医療構想調整会議を舞台とした病床再編に向けた調整が、あるいはこれを踏まえた都道府県医療計画の検討が、全て順調に進んでいるわけではない。

例えば、地域医療構想の必要病床で示された病床機能区分別の病床数が大きく乖離している(22)。国は、病床機能報告における機能区分が医療施設に十分に理解されていなかったためとみており、調査方法の改善等に取り組む予定である。

また、国は構想区域(二次医療圏)の設定についての見解(23)を示しているが、構想区域(二次医療圏)の見直しを図った都道府県は限定的であり、現時点、半数近い構想区域が人口20万人未満となっている。病床再編・連携体制の基礎となる構想区域の設定がおざなりにされているのならば、これは問題といわざるを得ない。

しかし、こういった実務的な課題は、順次解決されるものと考えられる。

ここで指摘しておきたい課題は、さらに長期の医療需要予測が必要なことである。医療施設経営の視点で考えると、最も大きな投資は施設の建てかえであり、次いで医療機器や電子カルテシステム等のIT投資がこれに続く。医療機器やITの投資は概ね5~10年程度の周期で発生するので、2025年をターゲットとする必要病床数をもとに事業計画が立案できる。これに対して建物の建てかえの元利償還期間は15~20年程度が標準的なので、2020年に償還が始まる医療施設の場合、2035~40年までキャッシュフローへの負荷が続く。現下のようなデフレ基調と診療報酬の抑制傾向が続いた場合、この間に患者減による大幅な減収が生じれば、経営危機を招来しかねない。2025年以降の医療需要予測が必要な所以はここにある。

こうした問題意識から、次章では、より長期の入院医療需要の試算を行うこととする。

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