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社会動向レポート

人口変動が入院医療需要に与える影響(3/4)

社会政策コンサルティング部 研究主幹 仁科 幸一

4.入院医療需要の将来予測

(1)入院医療需要予測の考え方

本節では、前節での問題提起を踏まえ、2025年以降の入院医療需要と、入院患者に占める後期高齢者の割合を予測する。

[1] 予測の方法と留意点

予測は下記の表の方法で行った。

予測結果については下記の点に留意願いたい。

本推計のねらいは、人口変動が入院医療需要にどのような影響を与えるかを予測することにある。推計にあたっては、2014年の患者調査が実施された時点の受療率が将来にわたって変化しないという前提を置いている。

しかし現実には、医療計画上の病床過剰地域では増床は抑制されており、人口変動に伴って増床されることはなく、逆に病床不足地域で基準病床まで増床されるということもない。その点では、特に病床過剰地域の予測値は過大傾向、逆の場合は過小傾向になる。

さらに、[1]代替性の高い施設(特別養護老人ホーム等の介護施設やサービス付き高齢者住宅)の増加や医療療養病床の介護医療院への転換の影響は勘案されていない。[2] 診療報酬の変化が与える影響は勘案されていない。[3] 診療技術の変化による在院日数の変化は勘案されていない。[4] 疾病動向の変化や寿命の延伸は勘案されていない。[5]単身高齢者の増加による需要増は勘案されていない。

このような点はあるものの、人口変動が入院医療需要(需要であって入院者数ではない)に与える影響のトレンドを本推計から読み取ることは可能と考える。

なお、本稿の入院医療需要の予測は、原則として、地域医療構想の対象とされる一般病床と医療療養病床を対象に行っている(24)

図表1

(2)全国の入院医療需要(一般病床+医療療養病床)の予測

総人口は一貫して減少し、2065年には31ポイント減少する。

入院医療需要は、2020年代前半に9ポイント増加した後、変動幅が数ポイント程度の高止まり傾向を続け、団塊ジュニア世代が80歳代に入る2050年代後半から減少傾向に入り、2065年にほぼ2015年の水準となる。

入院患者に占める後期高齢者の割合は、2025年までの10年間に14ポイント上昇、その後は2050年代後半までゆるやかに上昇し、以降は高止まり傾向になる。

なお、図表2に一般病床のみの需要予測を示したが、トレンドに大きな差は見られなかった。

以上から、次のことが指摘できる。

第1は、入院医療需要が急減する局面はないことである。今後50年、医療施設は、人口減少下でも需要が減退しない、希有な安定業種といっても過言ではない。ただし、生産年齢人口の減少による財政逼迫から逃れられない中では、事態を楽観視することはできない。負担のあり方について、引き続き国民的な議論と覚悟、医療資源の効率的な運用に向けた検討が必要である。

第2は、団塊の世代が後期高齢期突入する2025年以降の変化は比較的緩慢であるということである。このことから、2025年に向けて構築した地域の医療体制が、その後も引き続き有効に機能する可能性が高いとみられる。すなわち、2020年代に形成された病床機能のポジショニングを変更することが難しいということを示唆している。

図表1 入院医療需要の予測(全国)(一般病床+医療療養病床)
図表1
(資料)「日本の将来人口推計(2017年推計)(中位推計)(国立社会保障人口問題研究所)及び「2014年患者調査」(厚労省統計 情報部)より作成

図表2 入院医療需要の予測(全国)(一般病床のみ)
図表2
(資料)「日本の将来人口推計(2017年推計)(中位推計)(国立社会保障人口問題研究所)及び「2014年患者調査」(厚労省統計 情報部)より作成

(3)都道府県別の入院医療需要(一般病床+医療療養病床)の予測

人口変動は地域によって異なり、その影響も地域によって異なる。

図表3は、2015年を100とする2040年の総人口と、2040年の後期高齢者割合である。わが国全体では15.6ポイントの減少となり全ての都道府県で人口は減少する。

都道府県間の差は小さくはない。最も人口減少が顕著な秋田県を筆頭に20ポイント超が20県、減少が10ポイント未満は5都県。後期高齢者の割合が25%を超えるのは6道県、20%未満はわずか7都府県にとどまる。

次に、都道府県別の入院医療需要(一般病床+医療療養病床)を、[1]2015年と2040年の比較、[2]ピークを迎える時期、[3]ピーク年から2040年に向けての減少率、[4]入院患者に占める後期高齢者の割合に注目してみてみよう。

図表3 2040年の総人口と後期高齢者人口割合の変化
図表3
(資料)「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」(国立社会保障人口問題研究所)より作成

[1] 2015年と2040年の入院医療需要の比較(図表4)

入院医療需要が減少するのはわずか9県に過ぎず、幅はあるが38道府県では2015年と比べて需要が増加している。仮に±5ポイントの増減を経営効率化やベットコントロールで吸収可能であると考えて「概ね均衡」(2015年と同水準)と解釈すると、5~20ポイント未満の20道府県では部分的な病床不足が、20ポイント以上の8都県では広範な病床不足が強く懸念される。

図表4 2015年と2040年の入院医療需要の比較(一般病床+医療療養病床)
図表4
(資料)「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」(国立社会保障人口問題研究所)及び「2014年患者調査」(厚労省統計 情報部)より作成

[2] 入院医療需要がピークを迎える時期(図表5)

2015年以降、入院医療需要が減少の一途をたどるのは秋田県のみであり、7割弱にあたる32道府県では2030年前後が入院医療需要のピークとなる。一方、5都県では2040年に至るまで需要が減退しない。

図表5 入院医療需要がピークを迎える時期(一般病床+医療療養病床)
図表5
(資料)「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」(国立社会保障人口問題研究所)及び「2014年患者調査」(厚労省統計 情報部)より作成

[3] ピーク年から2040年に向けての減少率は1%に満たない(図表6)

ピーク年以降、2040年までの入院医療需要の減少を年率でみると、最も高い徳島県でも▲0.8%にとどまる。医療施設経営者からすれば、長期にわたるマイナス成長が病院経営に与える影響は決して小さいものではないが(25)、急激に需要の底が抜けて多くの医療機関経営が立ちゆかなくなるというレベルの変化ではない。

需要動向を適切に予測し、生き残りに向けた対応策を打つことができる時間的余裕は幸い残されているとも言えるが、前年度比僅かな需要減少を経営の肌感覚で認識することができず、結果として中長期的にジリ貧となる懸念も否定できない。その点で、入院医療需要のピークアウト後は、適正な経営管理が必須のものとなろう。

図表6 ピーク年から2040年に向けての減少率(一般病床+医療療養病床)
図表6
(資料)「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」(国立社会保障人口問題研究所)及び「2014年患者調査」(厚労省統計 情報部)より作成

[4] 入院患者に占める後期高齢者の割合の増加(図表7・8)

(一般病床+医療療養病床)
14ポイント増の千葉県から8.3ポイント増の東京都までかなりの幅がみられる。増加のテンポは総じて緩慢である。

(一般病床)
高齢者を対象とする医療療養病床を除いた一般病床の入院患者に占める後期高齢者の割合も推計した。順位の変化はあるが、総じて一般病床のみの推計値の方が、後期高齢者の割合が高い。増加のテンポは緩慢であるが、中・長期的に一般病床における診療が後期高齢者の増加に対応していかざるを得ないことが読み取れる。

図表7 入院患者に占める後期高齢者の割合の変化(一般病床+療養病床)
図表7
(資料)「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」(国立社会保障人口問題研究所)及び「2014年患者調査」(厚労省統計 情報部)より作成


図表8 入院患者に占める後期高齢者の割合の変化(一般病床)
図表8
(資料)「日本の地域別将来推計人口(2013年3月推計)」(国立社会保障人口問題研究所)及び「2014年患者調査」(厚労省統計 情報部)より作成

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