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社会動向レポート

コンビニエンスストアを事例として

顧客ロイヤルティの先行要因と結果行動(1/4)

経営・ITコンサルティング部 シニア・マネジャー 剣持 真

低成長かつ過当競争の市場においては顧客ロイヤルティを高めることが重要であると言われている。ではどのようにすれば顧客ロイヤルティは高まり、ロイヤルティが高まった顧客はどのような行動をとるのであろうか。本稿は、コンビニエンスストアを事例とした実証研究を通じて、顧客ロイヤルティを取り巻く先行要因・結果行動の構造を明らかにする。

はじめに

小売業を取り巻く経営環境は激変している。日本の人口もいよいよ減少局面を迎え(1)、国内市場のみを対象としている小売業にとっては、新規顧客の獲得が今後ますます難しくなっていく。高橋(2004)は、小売マーケティングの方向性として「低成長かつ過当競争の市場においてはロイヤルティを高めることが重要である」と主張している。また、竹内(2014)は「売り手である企業は、買い手である消費者のニーズが読めなくなってきており、かつ、買い手も自分自身のニーズが実はわからないという状況下では、継続的な関係を結んでともに考える方が得策である」と主張しており、小売業はこれまで以上に消費者の声に耳を傾け、顧客ロイヤルティを高めるために、顧客との間に良好な関係を構築することが重要になっている。

本稿はこのような背景の下、小売業の中でもコンビニエンスストアを取り上げ、コンビニエンスストアに対する顧客ロイヤルティがどのように形成され、顧客ロイヤルティが形成されると、顧客がどのような行動をとるのかを明らかにすることを目的とする。

ここでコンビニエンスストアを調査対象として選んだ理由について述べる。経済産業省の商業動態統計・時系列データ(2)より1998年の販売額を100として小売業全体とコンビニエンスストアとを比較した結果(図表1)を見ると、小売業全体の販売額は92 ~99の範囲内でほぼ横ばいに推移しているのに対し、コンビニエンスストア全体の販売額は常に前年を上回っており、2016年は1998年に比べ約90%増と、急成長していることがわかる。

コンビニエンスストアの成長要因に関する研究としては、矢作(1994, 2011, 2014)、石井(2009)、小川(2009)が詳しい。矢作(2011,2014)では、コンビニエンスストアにおいて、顧客ロイヤルティを高めるためのロイヤルティ・プログラムが、顧客をロックイン(封じ込め)するための手段として重要であると論じている。コンビニエンスストア各社は早い段階からポイントカードの仕組みを導入しており、SNSでのマーケティングやネット上でブランド・コミュニティを立ち上げるといったロイヤルティを向上させるためのデジタル・マーケティングにも積極的である。以上のように業態自体が活性化し、かつ、成長のために様々なマーケティング戦略を展開しているコンビニエンスストアであればこそ、有意義な示唆が得られるものと考え、本稿の調査対象にすることとした。

図表1 1998年を100とした小売業全体およびコンビニエンスストア全体の販売額推移
図表1
(資料)経済産業省データをもとに筆者作成

1. 先行研究の概要と本稿の仮説

1.1.本稿の仮説概要

本稿では先行研究などを基に検討した結果、コンビニエンスストアにおける顧客ロイヤルティの先行要因・結果行動は以下のモデル(図表2)で説明できると考える。以下に、それぞれの項目について詳しく述べる。

図表2 顧客ロイヤルティの先行要因・結果行動の概念図
図表2
(資料)筆者作成

1.2.顧客ロイヤルティについて

顧客ロイヤルティ研究の歴史は古い(3)が、一方で、これまでそれぞれの研究で多様な解釈をもとに顧客ロイヤルティが定義されてきたため、一貫した定義というものが存在しない状況にある(Ball et al. 2004)。本稿ではOliver(1997)を参考に、顧客ロイヤルティを大きくは態度的ロイヤルティ、行動的ロイヤルティの二つに分類し、態度的ロイヤルティについてはそれを構成する細分類として認知的ロイヤルティ、感情的ロイヤルティ、意欲的ロイヤルティの三つのロイヤルティに分類して図表3のように考える。

図表3 本稿における顧客ロイヤルティの定義
図表3
(資料)筆者作成

(1)認知的ロイヤルティ

本稿では認知的ロイヤルティを「消費者が対象に対して自らの利益になると論理的に判断した顧客ロイヤルティ状態」と定義づける。コンビニエンスストアを例にすると、「ポイントがたまるお得な店」、「会社のすぐそばにある便利な店」などとなる。認知的ロイヤルティは顧客ロイヤルティの強さとしては弱い状態にある。これは例えば競合店から「もっとポイントがたまるシステム」を提案されたり「もっと会社に近い店」を出店されたりしたらそちらに移ってしまうからである。認知的ロイヤルティは態度的ロイヤルティの中でも初期の段階として位置付けられる。

(2)感情的ロイヤルティ

本稿では感情的ロイヤルティを「消費者が対象に対してきわめて好意的な感情を持っている顧客ロイヤルティ状態」と定義づける。コンビニエンスストアについて考えてみると、「コンビニエンスストア○○が好きだ」、「コンビニエンスストア○○のことを考えると楽しい気持ちになる」といった状態に当たる。多くの場合、そのコンビニエンスストアを好きになる理由があるため、認知的ロイヤルティを経て、感情的ロイヤルティが形成されることが多い。よって、感情的ロイヤルティは認知的ロイヤルティよりも顧客ロイヤルティが強い状態にあると解釈できる。これは、先に示した認知的ロイヤルティは、競合からより魅力的な提案を受けると乗り換えられてしまうのに対し、「好き」という感情は競合からの提案によって「嫌い」にならないことからもわかる。その反面、顧客ロイヤルティの対象となっているコンビニエンスストアが顧客の期待や信頼を裏切るような行動を起こすと、顧客ロイヤルティが低下する可能性がある。

(3)意欲的ロイヤルティ

本稿では意欲的ロイヤルティを「消費者が対象に対して優先的に訪問・購買・利用していこうと強く意識している顧客ロイヤルティ状態」と定義づける。本稿では、「コミットメント」をこの意欲的ロイヤルティと同義であると捉えている。意欲的ロイヤルティについて、コンビニエンスストアで考えると、「たとえ近くに別のコンビニエンスストアがあったとしても、コンビニエンスストア○○に行く」という状態が該当する。その店に行くことを強く意識しているので、態度的ロイヤルティの中で最も高い顧客ロイヤルティの状態に位置づけられる。この状態になると競合店からのどのような提案も受け入れず、顧客ロイヤルティ対象のコンビニエンスストアの多少のサービスの低下は許容するようになる。

(4)行動的ロイヤルティ

本稿では行動的ロイヤルティを「消費者が対象に対して直近の一定期間に行った訪問・購買・利用状況を示した顧客ロイヤルティ状態」と定義づける。上記の態度的ロイヤルティと異なり、実際に行った行動であるため、コンビニエンスストアを例にすると、「昨年コンビニエンスストア○○に300回訪問した」、「先月コンビニエンスストア○○で月合計10,000円の買い物をした」といった顧客ロイヤルティの状態となる。コンビニエンスストア企業にとっては売上高に直結する非常に重要な指標となる。

なお、態度的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの関係についてもここで述べておく。Dick and Basu(1994)は相対的態度(本稿における態度的ロイヤルティ)と反復購買(本稿における行動的ロイヤルティ)とで、顧客ロイヤルティが四つの象限に分かれる考え方を提示した(図表4)。この分類において、小売業にとっては態度的ロイヤルティが高くても低くても、自社の売上(行動的ロイヤルティ)が高ければどちらでも構わないように捉えがちである。しかしながら、「真のロイヤルティ」は状況の変化に強く、「見せかけのロイヤルティ」は状況の変化に弱い点で違いがある。前述の通り、態度的ロイヤルティが低い状態にある時、たとえ現時点で行動的ロイヤルティが高くても、競合店から「もっとポイントがたまるシステム」を提案されたり「もっと会社に近い店」を出店されたりすることで、競合店に乗り換えられ、一気に「ロイヤルティなし」状態になってしまうのである。「真のロイヤルティ」状態にあれば、多少の状況の変化は顧客が吸収してくれるため、周囲の状況変化に関係なく顧客ロイヤルティが維持されるのである。このような観点から、態度的ロイヤルティを高い水準に保つことの重要性がわかる。

図表4 Dick and Basu(1994)の顧客ロイヤルティ分類
図表4
(資料)筆者作成

1.3.顧客ロイヤルティ先行要因

顧客ロイヤルティの先行要因として、態度的ロイヤルティに影響を与える先行要因と行動的ロイヤルティに影響を与える先行要因とに分けて、その先行要因の特徴について述べるとともに、仮説の設定を行っていく。

(1)態度的ロイヤルティ先行要因

先行研究レビューをもとに態度的ロイヤルティの先行要因になりうる要素の中から、コンビニエンスストアの特殊性を踏まえて、顧客満足、自己・ブランド連結性、顕現性の三つの先行要因を抽出(4)し、以下の仮説を設定する(図表5参照)。

図表5 態度的ロイヤルティの先行要因の定義・例・仮説
図表5
(資料)筆者作成

(2)行動的ロイヤルティ先行要因

先行研究レビューをもとに行動的ロイヤルティの先行要因になりうる要素の中から、コンビニエンスストアの特殊性を加味して、顧客満足、バラエティ・シーキング、習慣的行動、立地利便性はいずれも先行要因になると考え(5)、以下の仮説を設定する(図表6参照)。

図表6 行動的ロイヤルティの先行要因の定義・例・仮説
図表6
(資料)筆者作成

1.4.顧客ロイヤルティ結果行動

本稿では、顧客ロイヤルティの結果行動を[1] 将来的再訪行動、[2] 口コミ行動、[3] 顧客間支援行動、[4] 競合忌避行動、[5] 共創行動の五つに分類して考える(剣持2015, 2016a)。これらの五つの顧客ロイヤルティの結果行動の内、将来的再訪行動については各種先行研究より(守口 2003; Buckinx and van den Poel 2005;阿部 2004,2011,2014; 寺本 2009)、態度的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの影響を受けることが仮説として設定できる。他の四つの結果行動については、いくつかの先行研究が存在し、顧客ロイヤルティの結果行動として生起することが示されているものの、理論研究や考察として言及されているケースが多く実証研究は行われていない。また、四つの結果行動がどのような段階を経て生起するのかについても明らかにされていない。そこで本稿では、予備分析と本分析の二段階に分けて分析を行う。はじめに予備分析として、四つの結果行動が顧客ロイヤルティからどのような影響を受けているのかを明らかにし、本分析として顧客ロイヤルティの先行要因を含めた仮説モデルを設定して、検証を行う。なお、予備分析では説明変数はより細分化された指標を活用することが望ましいため、認知的ロイヤルティ、感情的ロイヤルティ、意欲的ロイヤルティの三つの顧客ロイヤルティと行動的ロイヤルティの計四つの顧客ロイヤルティで分析する。本分析では、前述の通りモデルが複雑になるのを避けるため、態度的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの二つのロイヤルティで顧客ロイヤルティを取り巻く構造を把握する。

(1)将来的再訪行動

将来的再訪行動とは、顧客ロイヤルティが高まった結果として対象となった店舗に対して再度訪問する可能性を示した項目である。将来的再訪行動は意欲的ロイヤルティや行動的ロイヤルティと混同して考えられやすい。意欲的ロイヤルティが将来に向けて強くその店舗に行こうとする態度を示すのに対し、将来的再訪行動は態度の強さに関わらず将来的にその店舗に行く確率を示す点で異なる。また、行動的ロイヤルティが直近の訪問状況を示すのに対し、将来的再訪行動は将来の訪問確率を示す点で異なる。

将来的再訪行動は購買確率を数理モデルにより推計する研究としてこれまでいくつか行われている(守口 2003; Buckinx and van den Poel2005; 阿部 2004,2011,2014; 寺本 2009)。コンビニエンスストアにおいても、これまで通っていたコンビニエンスストアに今後も通い続けることはごく自然に考えられるため、以下の仮説を設定する。

H3-1:行動的ロイヤルティが高くなると、将来的再訪行動が高くなる

購買確率の推計モデルにおいて、行動的ロイヤルティだけでなく、態度的ロイヤルティも購買確立に影響を与える要素として加味している研究もある(寺本 2009)。コンビニエンスストアにおいても、現在良好な態度を形成しているコンビニエンスストアに、今後も訪問することは容易に仮定できるため、以下の仮説を設定する。

H3-2:態度的ロイヤルティが高くなると、将来的再訪行動が高くなる

(2)四つの結果行動

顧客ロイヤルティが形成されると、その結果として、[1]口コミ行動、[2]顧客間支援行動、[3] 競合忌避行動、[4] 共創行動の四つの結果行動が引き起こされると考えられる。四つの結果行動がどのような段階を経て生起するのかを確認するために、以下の仮説を設定する(図表7参照)。

図表7 行動的ロイヤルティの先行要因の定義・例・仮説
図表7
(資料)筆者作成

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