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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.28

The Quantitative Methods in Finance 2017 Conference(QMF 2017)参加報告

2018年3月
みずほ情報総研 金融技術開発部 加藤 大輔

1. カンファレンス概要

大会名: The Quantitative Methods in Finance 2017 Conference
開催地: オーストラリア シドニー(Hilton Sydney Hotel)
主催: University of Technology Sydney
期間: 2017年12月11日~2017年12月15日

本大会は数理的アプローチによるファイナンス研究の国際的な発表の場となっており、ワークショップを含め計5日間のカンファレンスがシドニー中心部のホテルにて開催された。参加者は約140名、発表者は約100名と概ね例年通りであった。参加者は世界20カ国以上から参加しており発表者の多くは大学関係者であった。

2. 内容

大会では午前は一箇所の大会議室で各人40分の発表が、午後は4つの会議室に分かれて各人20分の発表が実施された。トピックは、確率モデルやデリバティブ商品の評価、モデルリスク、信用リスク、金融規制など様々であった。以下では聴講した発表の中からいくつか紹介する。

【ファイアーセールのストレステスト】

[Rama Cont (Imperial College London, UK), “Endogenous Risk, Indirect Contagion and Systemic Stress Testing”.]

従来の金融機関単体で行うストレステストでは、ある金融機関の資産売却に伴って起きる資産価格の下落(ファイアーセール)の影響を評価することは困難である。Cont & Schanning (2017)は、金融機関のネットワークにおけるファイアーセールを定量的に評価するモデルのフレームワークを示した。このモデルでは、金融機関iにおける初期レバレッジλi0は以下の式で表わされる。

式1

この時、分子1項目のΠは国債、社債、株等の流動性資産(μ=1~M)、2 項目のΘは住宅ローン、商業不動産、中小企業向けローン等の非流動性資産(κ=1~K)の合計、C は自己資本である。各非流動性資産Θi,κがεκの割合で目減りするとλiは大きくなる。λiが規制官庁等の定める基準λmax(*1)を超える場合、金融機関iは流動性資産を売却してλiを基準に収まるよう調整する(デレバレッジ)。売却する流動性資産の割合をΓiと書くと、λiは次の式で表わされる。

式2

各金融機関が流動性資産の売却によるデレバレッジを行うと、資産価格の下落によるファイアーセール・ロスFLossが発生する。このとき、金融機関iのFLossは以下の式で表わされる。

式3

ここでαは流動性コストに係るパラメータで、0から1までの間のある値をとる。また、Ωijは著者が“liquidity-weighted overlap”と呼ぶパラメータで、金融機関i, j間で共通の資産を多く持ち、その資産のmarket depth が小さいほど大きくなる。

ヨーロッパの金融システムにおけるファイアーセールの影響を定量的に評価するために、このモデルをEBA (European Bank Authority)が2016 年に実施したストレステストにおいて使用された、51のヨーロッパの銀行が保有する資産データに対して適用した結果、以下のことが分かった。

  • ファイアーセール・ロスは最初のショックの大きさ(非流動性資産の下落幅ε)に対して不連続であり、あるεを境にロスが発生し、さらに大きなあるεを境にロスが急激に大きくなる。
  • 最初のショックとなる非流動性資産を全く保持しない金融機関でもファイアーセール・ロスが発生する。例えば、南欧州の非流動資産価格が下落するシナリオでは、これらの資産を全く保持していないイギリスの金融機関でも、ファイアーセールによって大きな損失が発生した。

  1. (*1)Basel IIIの定める値λmax=33。なお、論文中の分析では各金融機関は5%のバッファを持たせたλb=0.95 λmax=31.3を上限としてレバレッジ調整を行うと仮定している。

【高頻度取引(HFT)】

高頻度取引(High Frequency Trading; HFT)については、昨年のQMF2016と同様に、今年のQMF2017でも複数の発表があった。主な発表を以下に紹介する。

[Rama Cont (Imperial College London, UK), “Flash Crash: Algorithmic Trade Execution and Intraday Market Dynamics”.]

近年の株式や金融商品の市場において、“flash crash”と呼ばれる急激で激しく、一時的な株価の暴落がしばしば発生しており、HFT を用いたアルゴリズム取引がその原因としてあげられている。この発表では“flash crash”を引き起こすアルゴリズムについて考察し、個々の取引の“market impact”を最小化するアルゴリズムが全体としては逆に価格変動を増幅してしまう可能性を示した。

[Davide Tedeschini (Swiss Finance Institute, Switzerland & visiting Univ. of Maryland,USA), “Almost Arbitrage Trades”.]

Eurex市場のナノ秒単位の高頻度データを分析した結果、個別株のヨーロピアン・オプションとアメリカン・オプションを同時に交換することで、利用可能な裁定取引の機会が発生するという強い証拠を見つけた。これらのケースでは、早期行使プレミアムが負になっていた。取引コストを支払う必要のあるブローカーやディーラーにはインセンティブが発生せず、この裁定取引で利益を得られるのはマーケットメーカーだけである。

[Marcello Rambaldi (École Polytechnique, France), “Analysis of Order Book Flows using a Nonparametric Estimation of the Branching Ratio Matrix”.]

Hawkes過程はHawkes(1971)が提唱した自己・相互励起性を表現する過程で、大地震発生後に地震発生回数が増加する過程を表現する時などに用いられる。時点sで発生したイベントjが時点tにおいてイベントiに与える影響の強さλitが以下の式で表わされる。

式4

ここでμiは外生強度、ΦはHawkesカーネル行列であり、Φの各要素Φijはイベントjが起きた時のイベントi 発生確率の高まりやすさを示す。この分析によって、各イベントの自己励起性(j=i)やイベント間の相互励起性(j≠i)を評価できる。Hawkes過程を用いてEUREX取引市場の高頻度注文ブックフローのノンパラメトリック分析を行い、各取引間の自己・相互励起性の度合いを調べた結果を報告した。

3. 所見

本大会は著名な研究者から大学院の学生まで多数の研究者が参加しており、数理ファイナンス分野における多彩な研究成果や最近の研究動向に触れることができた。発表内容は確率モデルを中心とした数理ファイナンス理論に関する発表が多いのは例年通りであるが、実際の市場データを用いた実証研究に関する発表もあった。

特に、今回報告したファイアーセールのストレステストに関する発表は、金融機関単体でのストレステストでは評価できないシステミック・リスクを評価するモデルの提案であり、金融危機以降に進む規制強化の流れの中で、適切なリスク管理の土台となるモデルを構築するうえで、新たな視点から一石を投じるものである。また、近年急速に発展しつつある高頻度取引についても多くの発表がなされており、学術的な研究を通して高頻度取引の特徴やリスクに関する理解が今まさに進みつつあると言える。


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