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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.29

American Finance Association 2018 Annual Meeting (AFA 2018) 参加報告

2018年4月
みずほ情報総研 マーケッツデジタルテクノロジー部 谷 栄佑

1. はじめに

昨年までに引き続き本年もAmerican Finance Association 2018 Annual Meeting、通称AFAへ当部より参加した。本大会はAllied Social Sciences Associationsという社会科学の連合学会において、とりわけ経済・ファイナンスに焦点を当てたAmerican Economic AssociationやAmerican Finance Associationなどの学会による共同開催という位置付けであるためセッション会場もそれぞれ複数に設けられている。中でも筆者はAFAのセッションを聴講したため、その参加記録を本レポートに記す。

2. 大会概要

大会名: American Finance Association 2018 Annual Meeting
主催団体: American Finance Association
開催地: アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア
開催日程: 2018年1月5日~ 2018年1月7日

第87回開催である本ミーティングはフィラデルフィアのLoews Philadelphia Hotelを会場とし3日間で述べ73のセッション、ポスター発表を含めると計246の論文が投稿され盛況のうちに幕を閉じた。発表者及び討論者の大半は大学関係者で実務家による発表は限定的であったが、気鋭の米系ヘッジファンドであるTwo Sigma Investmentsに籍を置く研究者からの発表もあり、実務家視点でも十分に価値ある発表が多くなっていた。他にも昨年ノーベル経済学賞を受賞したRichard H. Thalerによる講演やRisk Awards受賞経験者であるJean-Philippe Bouchaudらの研究発表もあり業界ビッグネームの参画が確認できた。

3. セッション概要

ここでは聴講したセッションの中で筆者の関心を引いたものについて紹介する。以下では発表者の 名前に*を付して識別してある。

3.1 1日目: 2018年1月5日の発表

What Drives Anomaly Returns?,

Lars Lochstoery*, Paul Tetlock

アノマリーリターンの源泉は何かを問う研究で、このリターンが企業のキャッシュフロー変動とディスカウントレート変動のいずれに起因するかを実証している。ここでは株式市場においてよく知られた以下5つのアノマリー、

  • value
  • size
  • profitability
  • investment
  • issuance

を取り上げ、これら全てがキャッシュフロー変動により説明できることが示された。またディスカウントレートの変動も全く無関係というものではなく企業キャッシュフローの動きを補完する役割を有すると説かれ、これらの結果は企業キャッシュフローに関するポジティブないしネガティブなニュースに対するアノマリーリターンの効果と整合的となっている旨、報告された。

3.2 2日目: 2018年1月6日の発表

Sticky Expectations and the Profitability Anomaly,

Jean-Philippe Bouchaud, Philipp Krueger, Augustin Landiery*, David Thesmar

2017年にRisk誌のQuant of the Yearを受賞し2018年にも同誌のBuy-side Quant of the Yearを続けて受賞したJean-Philippe Bouchaudらによる研究発表。本研究では株式市場で重要視されているアノマリーの1つであるprofitabilityに着目し、このアノマリーの可予測性と妥当性及びこれらと投資家予想の連関について検証を行う。具体的にはアナリストによる収益見通しが外部情報を取り入れて弾力的に修正される様をモデル化し米国株式市場のデータに対するフィッティングを考察するものであった。本モデルではアナリストによる収益見通しが市場参加者のそれを反映したものだと仮定し、

  • アナリスト予想がより硬直的となる時
  • 企業が持続的な収益獲得に向けた行動を取る時

の局面でアノマリーによるリターンの説明力が増す特徴を有していた。

Gravity in FX R2: Understanding the Factor Structure in Exchange Rates,

Robert Richmondy*, Hanno Lustig

為替レートが持つ特性、とりわけgravity effectに関する研究。gravity effectもしくはgravity modelとは物理学における万有引力の法則を援用し社会科学の問題に適用するモデルで、例えば2国間貿易量の定式化で一定の説明力が知られている。この定式化には通常、2国間の物理的距離が用いられるが本研究では他にも言語や資源の共通性、国境の共有など文化的な距離をも説明変数として取り入れ為替レートの対USD感応度を検証している。この帰結として物理的・文化的距離の小さい国はそれ以外の国に比して対USDファクターローディングと決定係数が高くなることが主張された。

3.3 3日目: 2018年1月7日の発表

Credit-Implied Volatility,

Gerardo Manzoy*, Bryan Kelly, Diogo Palhares

発表者のGerardo ManzoはChicago大学とTwo Sigma Investmentsに籍を置いているが、秘密主義で知られる同社からの発表は珍しい。内容としてはCDSスプレッド分析のためにMerton Modelから逆算されるインプライド・ボラティリティをクレジット・インプライド・ボラティリティ(CIV)と定義し、このサーフェスからクレジット市場に関する次のstylized factを導くもの。

  • CIVが急傾斜のskewを描く。
  • CDSスプレッドがCIVを特徴づける少数のファクターから記述される。
  • 複数のCDSリスク・プレミアム相互依存関係がCIVサーフェスの挙動から説明される。

また、彼らのフレームワークでは社債やソブリンCDSに対する応用可能性も示唆されており、分析手段の多様化が期待される。

Does the Ross Recovery TheoremWork Empirically?,

Jens Jackwerth, Marco Menner*

状態価格から物理確率を複製するRecovery Theoremが現実市場で機能するかを考察する研究。彼らの検証では米国株式市場でこの関係が成立しないとされ、その理由の1つとしてRossの提案した手法は最小限の計算仮定のみで立証されており、現実市場に適用した場合に数値解法上の不安定性があることが挙げられていた。ただし、上記仮定に加えて経済合理性のある制約を課しても多少の改善が見られるのみで所望のpricing kernelが得られなかった旨が報告された。

4. 所見

大会前日は記録的な寒波により飛行機や電車の欠航が相次ぎ、開催地への到着が困難な状況にあったが、大半のセッションは滞りなく進行された。研究発表の多くは狭義の金融工学というよりは経済学・財政学および投資科学に近く、内容も実証研究が大宗を占め、古典的な分野の研究者による発表が目立った形だ。ただし発表分野は非常にバラエティに富んでおり金融規制や政治経済、ベンチャーキャピタル論など内容は多岐に渡っていた。またRichard H. Thalerが講演に来ていた影響かは不明だが行動経済学に関するセッションも複数設けられておりこの分野の注目度の高さが伺える。氏も主張していたが行動経済学は応用範囲が非常に広く他分野での活用が一層期待出来るため注目すべき分野と考えて良いだろう。

実務家による発表が少ないことは残念であったが、その反面アカデミックな内容や学際分野の発表を広く聴講することで期待以上の収穫があった。今後の調査・研究に応用可能なアイデアが少なからずあったため今後のフィージビリティを検討したい。


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