ページの先頭です

“鍵”となるのはマルチフィジックスシミュレーション

モデルベース開発の活用をもう一歩進めるために(1/2)

2018年3月
みずほ情報総研 サイエンスソリューション部 佐久間 優、茂木 春樹

近年、設計・開発現場でテーマが多様化する中で、開発コストの低減や開発リードタイムの短縮は喫緊の課題となっている。これらを課題する手段の1つとしてモデルベース開発(MBD)が推進されているが、これにはマルチフィジックスシミュレーションが”鍵”になるという。本稿では、これらの背景になる課題とその解決手段について紹介する。

開発テーマの多様化など、設計・開発現場における課題は山積

近年、製品の電動化、IoT、AI・自動運転など開発テーマが多様化しており、それに伴う開発コストの増加がメーカーを悩ませている。実際に、国内自動車メーカーではここ数年業績は伸びてはいるものの、それに比べて高い割合で開発投資を行っている。

開発コストの低減には、開発リードタイムの短縮が必須であることは共通認識となっている。構想段階から詳細設計、試作、検証といった一連のプロセスを可能な限り効率化することは工数削減をもたらし、結果的に開発コストの低減にも繋がる。フロントローディングはいまや誰もが知るフレーズとなっているが、これは開発プロセスの初期工程にリソースを投入することによって問題発生を未然に防ぎ、設計の手戻りをなくすという開発リードタイム短縮の一つの考え方である。このフロントローディングを実現するための手法の一つがMBDであり、多くのメーカーが今まさに適用を進めているところである。

MBDの活用と適用範囲の拡大

MBDとは、その名の通りモデルを基盤(仕様書)として開発を行うことを指す。従来の仕様書は「文字」と「図」で表現されており、メンバ間で誤解なく理解し、解釈することが必要であった。また、通常開発に必要な部品は組織ごとに分担して生産しているが、組織間で互いの要求を誤解無く正確に伝えることは難しく、意思疎通の齟齬が結果的に手戻り発生の一つの要因になっていた。

一方MBDでは、対象の機能を一意的に解釈できるように図示したモデルを仕様書としているため、これをコミュニケーションツールとすることによって開発メンバ間で誤解の無い精度の高い意思疎通ができる。また、MBDのツールの一つであるシミュレーション機能を用いることによって、実際の動作(機能)が画面上で確認できるため、仕様が明確かつ容易に理解できる。このシミュレーションを設計の上流工程で活用すれば、早期に問題を発見して対処することができ、下流工程からの手戻りによる工数増加を防ぐことが可能となる。最近では、自動車メーカーなどがこのMBDを個々のシステムだけではなく、車両全体に適用するといったような事例も増えつつある。

このように設計・開発プロセスにMBDは定着しつつあるが、これまでは動力機構とその制御システムを対象にMBDを適用していることが多かった。しかしながら、近年製品に対する品質の要求水準が高まる中、単純な物理法則では説明ができない、非線形な入出力挙動を示す部品に対してもMBDを適用する動きが出てきている。この非線形な挙動を示す部品とは、例えば自動車を構成する部品で例を挙げると、燃焼工程を含むエンジンや、触媒上での反応を含む燃料電池や排ガス後処理装置などが挙げられる。これらに共通して言えることは、流動、化学反応、物質輸送や発熱・伝熱など複数の物理現象が異なるスケール間で密接に関連した、マルチフィジックス・マルチスケール現象だということである。このような複雑な現象を含む部品は設計項目が多く、各項目間でトレードオフの関係があることから、設計⇒試作⇒検証⇒設計…といった従来の設計プロセスではトライ&エラーが非常に多くなってしまう。したがって、各部品の複雑な現象を再現し、品質要求を満たすかどうかを設計初期に机上で検討することが可能となるシミュレーション(MBD)は、非常に有効な手法である。

しかしながら、そもそも複数の現象が影響し合うマルチフィジックスシミュレーションを設計に活かすためには様々な困難が待ち構えている。

図1
図1 従来のV字プロセスとMBDによるV字プロセス

マルチフィジックスシミュレーションに立ちはだかる壁

マルチフィジックスシミュレーションを活用するにあたっては、以下に示す3つの壁が存在すると考えている。

  1. モデリングの壁
  2. 数値計算技術の壁
  3. 運用ノウハウの壁

まず1のモデリングの壁は、複数の物理現象を要求水準と計算コストを両立して適切にモデル化(対象を方程式化)する必要があることを指している。

次に2は、実際にマルチフィジックス計算を実施するとなった場合、この計算で解を得る(収束させる)ことは一般的に非常に大変であるため、これを克服するには高度な数値計算技術が必要であることを示している。

1と2の技術を両立し、マルチフィジックスシミュレーションで解を得られたとしても、最後に残る課題が3の運用ノウハウである。マルチフィジックスシミュレーションは、解析対象が複雑であるがゆえ、単にシミュレーションを実行するだけでは計算結果と現実(実測)の相関が取れないことが多いという課題がある。これは、設計項目、つまりは入出力のパラメータが非常に多いことに加え、そもそも決定が困難なパラメータが存在することが要因となっている。この課題を解決するには、シミュレーションに必要なパラメータを決定するにあたって、実測データを活用するなどの方法が必要となる。この場合、どの実測値を、どのような方法で取得し、どのように適用するかといったことに熟知している必要がある。解析だけではなく実測の知見を必要とすることも、マルチフィジックスシミュレーションを難しくする一因である。

みずほ情報総研では、「運用ノウハウの壁」を解決するために、実測に関する知見の蓄積だけでなく、実測とシミュレーションの連携に必要な技術開発も進めている。

その1つとして、決定が困難なパラメータを実測データから推定するための画像処理技術が挙げられる。たとえば、化学反応が関与する装置の多くは、反応面積を稼ぐために材料を微細化しており、シミュレーション上ではこのミクロな構造に起因するパラメータが存在する。当社では、筑波大学との共同研究で開発した高度な画像処理技術を保有しており、近年では機械学習と組み合わせた処理の自動化や任意性の排除を実現している。図2では、電子顕微鏡画像の処理事例を示した。最上段の元画像では、画像左側の領域では焦点が合っているため粒子の輪郭が明確であるが、右側の領域では焦点が合っていないため輪郭が曖昧になっている。この画像から粒子数を自動的にカウントしたい場合、粒子の輪郭抽出が必要となるが、従来手法では中段に示すように画像右側領域の粒子輪郭を捉えることができない。これに対し、当社が開発した改善手法では画像の全領域に渡って精度良く粒子輪郭を抽出することができている。

図2
図2 画像処理技術の一例

これら画像処理結果から、シミュレーションに必要なパラメータを決定することも可能であり、既に適用事例も存在している。現在さらに技術開発を進めて、画像処理からパラメータ決定までを自動化し、かつ機械学習と組み合わせることで任意性を排除するための技術開発を進めている。

当社ではこうした独自技術の適用を含め、お客さま毎にシミュレーションに必要なパラメータを決定するプロトコルの提供を行っている。

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

関連情報

この執筆者(佐久間 優)はこちらも執筆しています

この執筆者(茂木 春樹)はこちらも執筆しています

ページの先頭へ