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技術動向レポート

医療への活用が進む3Dプリンティング技術(1/3)

経営・ITコンサルティング部 コンサルタント 鶴岡 茉佑子

3Dプリンタの医療応用に向けた取組みが世界中で進められている。既に一部の領域では実用化もされており、再生医療や個別化医療といった未来の医療に大きく貢献し得る技術として期待が集まっている。

はじめに

近年、3Dプリンタが世界的に大きな注目を浴びている。この3Dプリンタ熱を紐解くにあたって、重要なキーワードとして挙げられるのが「カスタマイズ」だ。3Dプリンタは従来の加工技術では難しかった複雑な立体構造が造れるほか、3Dデータを直接出力するため設計の変更が容易であり、個々のユーザの要望に合わせて造形物をカスタマイズすることに非常に適している。製品のコモディティ化が進む市場において、3Dプリンタは大量生産による価格競争ではなく、カスタマイズによる高付加価値化での競争を可能にするツールとして期待されている。

上記の性質上、3Dプリンタは単価が高くロット数が小さく、カスタマイズおよびオーダーメイドへのニーズが大きい分野との相性が良い。中でも近年特に活用が進んでいるのが、医療分野である。人間を対象とする医療分野では、患者に合わせたカスタマイズ度合いが治療のアウトカムに直結することから、3Dプリンタ黎明期から積極的に導入が進められている。本稿では医療分野における3Dプリンタのアプリケーションについて、造形物の性質によって「1. 体外で使うデバイスの造形」「2. 体内埋め込みデバイスの造形」「3. 生体組織の造形」の3つに大分し、主に国内の先進的な取組みを事例として紹介する。更に「4. 実用化に向けて」では、医療分野を対象とした3Dプリンタの実用化および普及に向けて、現在明らかになっている課題と今後の見通しを述べる。

1. 体外で使うデバイスの造形
― 非生体適合性~生体適合性材料―

医療におけるものづくりは安全性の検証が開発の律速要因となることが多いが、体外での使用に留まる造形物であれば、比較的容易に実用化を進めることができる。これに該当する3Dプリンタの応用例としては、歯科矯正用マウスピース(1)、外科手術用サージカルガイド(2)(3)など多種多様な製品への活用が進んでおり、ここでは現在実用化に近づきつつある高精細な臓器モデルとカスタム義肢を紹介する。

体外用デバイスはコストや扱いやすさ等の理由から、多くは非生体適合性の樹脂を用いている。3Dプリンタ用の樹脂材料は各メーカーが色調・透明度・質感・耐熱性など様々なものを提供しており、そのため造形物のバリエーションも豊富である。また体外用デバイスであっても、人体との接触度合いによっては生体適合性ポリマーが用いられることもある。

(1)高精細な臓器モデル

人体は様々な臓器から成る複雑な立体構造をしており、また血管の位置などは個人差も大きいことから、構造を外から観察するためにMRIやCT等の医療イメージング技術が開発されてきた。現在ではこれらの技術で取得した二次元画像を統合して三次元化することも可能であり、医師は事前に患者体内の構造を詳細にイメージした上で手術に臨むことができるようになってきた。とはいえ、画像を元にイメージしていた立体構造と実物が合致せず、手術を開始してから計画を変更せざるを得ないケースも未だ少なくないのが実情であり、手術時間の延長や再切開など患者にとってのデメリットが生じることも多い。

このような場面で活用が期待されているのが、3Dプリンタによる臓器モデルの造形である。診断画像を元に作成した三次元臓器データを出力し、実際に手にとって触れるモデルを作成することで、より正確な手術計画を立てられるようになり、手術チーム内での情報共有もしやすくなる。また患者本人や家族への説明に用いることでインフォームドコンセント(治療方針への同意)を得やすくなる等のメリットもある。術後に患者が記念として持ち帰ることもあるという。

株式会社ファソテックのメディカルエンジニアリングセンターでは「Bio-Texture Modeling(生体質感造形)」として、形状だけでなく質感や機能(内部構造)を再現した臓器モデルを製作している(4)。患者の生体を忠実に再現したモデルを用いて事前に手術をシミュレートすることで、事前に手術手技を最適化でき、複雑な症例の場合でも医師の不安を軽減することができる。また教育目的での活用も可能であり、既に一部の国内病院で手術トレーニングに用いられている。

(2)カスタム義肢

義肢は義肢装具士および製作技術者が一人一人のユーザに合わせて製作をしており、採型・採寸、組立て、適合といった製作工程に加えて、成長や生活習慣などに合わせて随時調整をすることもある。これはユーザの義肢装着部の形状がそれぞれ異なる上、ユーザが心身ともに義肢に適合するためには細やかな調整が必要であり、大量生産による画一的な製造ができないためである。このようにオーダーメイド性の強い分野である義肢について、3Dプリンタを使ったアプローチが進められている。

株式会社SHCデザインでは3種のプラスチックを組み合わせた義足の開発・製造を行っており、2016年からはJSR株式会社および全日本空輸株式会社(ANA)との共同開発を開始した(5)。プラスチック製の義足は製造原価が安く販売価格が大幅に抑えられることから、主に義足を必要としていながら購入できずにいる切断者が多い発展途上国での事業展開が期待されている。類似の取組みとして、米国のNPO団体Limbitless Solutionsでは、本人の希望に合わせてデザインからオーダーメイドした小児向けの義肢を低コストで作成し、寄付する活動を行っている(6)

より高機能な義肢における取組として、東京大学生産技術研究所が主導するMIAMIプロジェクトでは、ハイエンドな陸上競技用義肢「Rami」の開発を行っている(図表1)。「Rami」の開発では装着部位の3Dスキャンによってユーザに合わせた形状で製作するだけでなく、コンピュータシミュレーションを用いた構造最適化によって強度を落とさない軽量化も行われており、デザインの美しさと合理性・機能性を両立する義肢の実現に向けて研究が進められている。また同プロジェクトでは、義肢職人の持つノウハウのデジタル化によって短時間で人体に合わせた設計変更を可能にするCADシステムや、高強度高耐熱なプラスチックの加工技術など、高機能でありながら早く・安く製作できる医療用カスタマイズ製品の実現に向けた開発も行われている。

図表1 3Dプリンタ技術を用いた陸上競技用義肢の製作
図表1
(資料)東京大学MIAMIプロジェクトウェブサイトより引用(7)

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