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社会動向レポート

日本と諸外国の教科書の比較から

化学物質のリスクに関するリテラシーを育てる初等・中等教育の現状と課題(1/6)

環境エネルギー第1部 コンサルタント 生田 奈緒子

築地市場の豊洲への移転をめぐる議論など、化学物質のリスクが問題になる度に、リスクコミュニケーションやリテラシー向上の必要性が叫ばれる。社会が複雑さを増す中、化学物質のリスクを理解し対処するためのリテラシーが市民一般にも求められている。こうした言わば常識ともいえるリテラシーは、どのようにして身に付けることができるのだろうか。そうした機会の一つとして、義務教育課程に着目し、授業で使用される教科書について諸外国との比較を行い、日本の義務教育において化学物質に関するリテラシーを身につけられるようにするための課題とその解決策を考える。

はじめに

(1)化学物質に対する不安は「わからない」ことにある

「化学物質」と聞いて、みなさんはどんなイメージを持つだろうか。危ないもの、便利なもの、生活に欠かせないもの、自分にはよくわからないもの、人それぞれ色々とあるだろう。2012年の内閣府調査(1)によれば、化学物質という言葉の印象として、7割程度と多くの人が「危ないもの」と考えており(図表1)、同様に化学物質の安全性について、66.9%の人が「不安があるものが多い」と回答している(図表2)。

図表1 「化学物質」という言葉の印象
図表1
(資料)内閣府(2010)『身近にある化学物質に関する世論調査』

図表2 化学物質の安全性に対する意識
図表2
(資料)図表1に同じ

その一方で、私たちの生活は、化学物質なくして成り立たないのが現実である。おいしくて安全な食品が入手できるのは、農薬や殺虫剤、殺菌剤が適切に使用され生産されているからであるし、身の回りにある便利な電気・電子製品や日用雑貨は、化学物質を使って工場で作られたものである。また私たち自身、洗剤や殺菌剤、医薬品などの化学物質を日々生活の中で使用している。確かに、多くの人が「関心がある」と答えた化学物質(図表3)も、「農薬・殺虫剤・防虫剤」や,「飲み水・食品」をはじめとする身近な化学物質であり、その存在はしっかりと意識されている。

図表3 関心のある化学物質
図表3
(資料)図表1に同じ

こうした化学物質を利用して快適な生活を享受している一方で、化学物質を不安に思う理由として、同調査では多くの人が、化学物質がどのような有害性を持ち、どのように管理され利用されているのかが「わからない」ことを挙げている(図表4)。

図表4 化学物質の安全性に不安がある理由
図表4
(資料)図表1に同じ

(2)「わからない」は情報不足ではなくリテラシーの不足か

この「わからない」というのは、単に情報や知識の不足によるものと考えることもできる。しかし、今やインターネットを利用すれば様々な情報を得ることができる状況にあって、単に情報量を増やすことで解決できるとはいえないだろう。

そこでよく言われるのが、情報の量ではなく、リテラシーの不足である。リテラシーとは、狭義には読み書きの能力を意味するが、最近は、「○○リテラシー」(例えば、情報リテラシー等)というようにある分野の「情報や知識の活用能力」といった意味で用いられている。これを化学物質についていえば、化学物質の有害性や性質等を理解し、適切な使用量や使用方法で自ら活用する能力や、化学物質が適切に管理され安全が確保されているかどうか情報をもとに理解し確認できる能力といったものが、化学物質に関するリテラシーといえるだろう。生活する上で化学物質を利用しない人はいないということを考えれば、身の回りの化学物質について理解し、活用できるリテラシーは、いまの時代すべての人に求められるものともいえる。

(3)化学物質に関するリテラシーは義務教育課程で身に付けることができるか

こうした化学物質に関するリテラシーは、どのようにして身につけることができるのだろうか。日常生活の中で親などから教えられて学ぶこともあるだろうし、学校で学ぶことや、社会人になって職業教育として学ぶなど、実際には様々な機会が想定される。

そこで本稿では、日本で生活する多くの人が一般に身につけている「化学物質に関するリテラシー」の程度を理解するための方法として、日本に生活する人の多くが共通に受ける小学校・中学校の義務教育課程の内容に着目し、化学物質に関するリテラシーの育成につながる事項がどの程度盛り込まれているのか、また、その内容は諸外国と違う点があるのか分析を試みた。

分析の前提として、まず第1章では、諸外国と比べて科学的な学力のレベルは高いにも関わらず、知識を生活に生かすテラシーのレベルが低いという、日本の子供たちの状況について紹介する。第2章では、日本及び英国、米国、カナダの4カ国の学習指導要領と教科書について、それぞれの特徴を述べる。最後に第3章では、日本と諸外国とを比較し、日本の義務教育において化学物質に関するリテラシーを身につけられるようにするための課題とその解決策を提言したい。

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