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社会動向レポート

インドに見るデータ利活用の未来像(1/2)

経営・ITコンサルティング部 コンサルタント 黒川 祥悟

近年、データ流通を促進する環境整備が各国、地域で活性している。本稿では、わが国の取り組みに向けた示唆を得ることを目的に、インドのデータ利活用基盤India Stackとその官民へのインパクトについて考察する。

1. データ利活用についての最近の動向

(1)データ利活用への期待

「データは21世紀の石油である」(1)と言われるほど、データの利活用は企業の競争力強化において、重要な地位を占めるようになった。消費者の膨大な購買履歴やウェブページの閲覧履歴等のデータを分析し、商品・サービスのレコメンドを行うことは、企業にとってもはや当たり前のアプローチとなっている。AI等の分析技術の発展とあわせて、データは、企業のマーケティング活動の高度化やイノベーション創出の源泉となっており、この流れは今後ますます強まることは間違いないと考えられる。

これまでのデータ分析は、あくまでも1企業が自社の保有するデータを分析することが前提とされてきた。このため、企業は自らの手で消費者のデータを収集する必要があり、海外のプラットフォーム企業のような、データを大量に保有する企業が競争力を増す一方で、消費者との接点の少ない企業は十分なデータを収集することができないという課題があった。

このような課題を解決すべく、近年「データ流通」もしくは「データ共有」といったキーワードが注目されている。これは、企業間や企業と政府間等、組織を超えてデータを流通させる概念である。組織間でデータを流通させることで、組織にとってのデータ収集コストを削減し、社会全体としてイノベーションを促進する効果が期待されている。

(2)データ流通基盤となるプラットフォームサービス

データ流通を実現する手段として、データの提供・収集を行うためのプラットフォームに注目が集まっている。プラットフォームは、データの源泉である消費者、データ提供者となる企業、データ利用者となる企業等が互いの利害を調整し、データの送受信を行うことを可能とする。欧米諸国では、このようなデータ利活用基盤が、民間企業により、既に実用的なサービスとして提供されており、わが国でも、直近の1年間で複数のサービスが登場し始めている。図表1(2)では、現在注目されている国内外の主要なサービス例を記載した。

図表1 国内外のデータ利活用基盤
図表1
(資料)総務省「平成29年版情報通信白書」および各社ウェブサイトより筆者作成

2. インドのデータ利活用基盤IndiaStackのインパクト

(1)調査実施にあたり

先述の通り、欧米諸国や日本では、民間企業によりデータ利活用基盤が提供されているが、これらの国々とは異なり、インドでは、政府が主導して国家プロジェクトとして官民のデータ利活用基盤IndiaStack(3)を整備している。インドでは、水道、電気、ガスのようなインフラと同様に、データ利活用基盤を重要なデジタルインフラと位置づけているのである。インド政府はIndiaStackの推進により、行政サービスの改善や企業のイノベーション促進等の成果を上げている。

今回、こうしたインドにおけるデータ利活用基盤の実態を明らかにし、そのインパクトを調査するため、筆者は「インドのシリコンバレー」と呼ばれるバンガロールにおいて、実地調査を行った。実地調査では、インド政府が構築したデータ利活用基盤IndiaStackのチーフアーキテクチャーとして尽力したPramod varma氏(4)と、ベンチャーキャピタルとして、データ利活用基盤を活用したスタートアップ企業を支援しているUnitus seed fund(5)へのヒアリング調査を実施した。以下では、今回のヒアリング結果をもとに、インドのデータ利活用基盤IndiaStackについて考察する。

(2)IndiaStack の概要

インド政府が構築したデータ利活用基盤IndiaStackは、インド版のマイナンバー制度であり、国民識別番号を付与するAadhaar(アダール)、Aadhaar番号をもとに本人確認を行うeKYC、電子署名機能であるeSign、個人情報等のデータを保存するDigital Locker、銀行口座間での送金を行うUPIの5つの機能により構成される。それぞれの果たす機能とその概要は、図表2の通りである。

IndiaStackは個人情報の利活用を指向して構築されたが、eSign、Digital Locker、UPIは法人でも利用可能な機能であり、インド企業の日常業務の中でも既に利用されている。

IndiaStackの機能はあくまでもデータ利活用のためのデジタルインフラとして提供されるものであり、アプリケーションとしてサービス化されているわけではない点には留意する必要がある。インド政府の役割は、インフラとしてのデータ利活用基盤を整備することであり、基盤を活用した個別のサービスは企業により提供されるべきであるという考えにもとづいている。

インドでは、民族、言語、文化等が地域によって大きく異なっているため、政府が1つのサービスをトップダウンで全ての国民に適用させることは難しいと考えられている。このため、政府は企業の競争原理を利用し、地域住民にとって使いやすいサービスを企業が提供する環境を目指している。このような狙いから、IndiaStackは、様々な企業等が自由にその機能を利用できるオープンAPIとして公開されており、民間企業やスタートアップ企業が、IndiaStackから必要な機能を選択し、自社のアプリケーションに自由に組み込むことを可能としている。図表3は、このようなIndiaStack、サービス提供者、国民との関係を図示したものである。

図表2 IndiaStackを構成する5つの機能
図表2
(資料)Pramod varma氏およびUnitus seed fundへのヒアリング結果より筆者作成


図表3 IndiaStack、サービス提供者、国民の関係性
図表3
(資料)Pramod varma氏およびUnitus seed fundへのヒアリング結果より筆者作成

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