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社会動向レポート

地域企業・地域経済を成長に導くプロフェッショナル人材の活用(1/3)

社会政策コンサルティング部
シニアコンサルタント 田中 文隆  チーフコンサルタント 森安 亮介

東京一極集中の是正がわが国喫緊の課題となる中、地方に仕事をつくり、地方への新しい人の流れをつくるために何が必要だろうか。内閣府地方創生推進室や各道府県から当社が事務局を委託された「プロフェショナル人材事業」から得た示唆を基に考察する。

はじめに

(1)地域に魅力的な事業・プロジェクトを創る、「地域しごと問題」への挑戦

わが国では、若年層を中心に、地方圏から1都3県への転入者が転出者を22年連続で上回るなど地方から大都市圏への人口流出が続いている(1)。これは、地方における単なる人口減少問題だけでなく、地域経済を牽引する地域企業の成長のための担い手不足という面でも問題となる。地方圏では多くの中小企業が地域経済を支えているが、300人未満の企業の大卒求人倍率をみると4倍を超えており、人材不足が顕著となっている(2)。他方、企業規模はさらに小さくなるが30人未満の事業所では、せっかく就職しても大卒者が2年以内に4割程度離職している現状がある(3)。地域企業にとっての人手不足は、若者からみれば、地方に魅力的な職場や仕事が不足しているという評価ともいえるだろう。

こうしたなか平成28年6月2日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2016」(4)では、「地方への新しいひとの流れをつくる」ことが基本方針として盛り込まれており、『地方移住の潜在的希望者の地方への移住・定着に結びつけ、地方への新しい「ひと」の流れづくりに取り組み、「しごと」と「ひと」との好循環を確立することが急務』だと掲げられている。

このような、若者からみて魅力的なしごとが地方に乏しく、結果都心部への人口流出が止まらない「地域しごと問題」の解決には、いかに魅力的なしごとを地方に生み出すかがカギとなる。この点、実は地域の中堅・中小企業経営者においては、「将来を見据えた新たな事業の柱をつくりたい」「独自技術を活かして、商品開発や海外市場獲得に乗り出したい」「組織拡大のため、人事制度整備や風土改革など組織基盤づくりを行いたい」など、構想はあるものの、それを具現化できていないケースも多い。また、自社の成長ポテンシャルに十分気づけていないことも珍しくない。こうした構想や成長可能性を明確化することで、事業分野拡張・販路拡大・生産性向上・経営管理強化など、いわば「攻めの経営」を実行することが求められる。

(2)データでみる人材還流の特徴

それでは、都市部からの地方部への労働移動はどのような状況だろうか。わが国の公的統計では、都市部から地方への転居を伴う労働移動に関して、その要因分析はおろか概要も把握しきれていないのが実情である。例えば人口移動については住民基本台帳人口移動報告や国勢調査などから移動数等は確認できるものの、就労との結びつきは把握できない。

そうした中、当社では平成27年度経済産業省委託調査事業「労働移動に関する実態調査」(5)を実施し、地域をまたぐ転職について調査を行った。興味深いのは転居を伴う転職者の「転居先の地域との関係性」である。転居を伴う転職者のうち、およそ3割は「縁もゆかりもない」地域へ転職していることが明らかとなった。「東京圏(一都三県)から地方圏(一都三県以外)」への転職層に限ってみても「35-44歳」(30.8%)と「45-60歳」(32.6%)では3割が「縁もゆかりもない」地域へ転居している。地方への人材還流というと、一般的にはUターンを想起しがちである。しかし、地域起点ではなく転職先の仕事・ミッション・意義等に強い関心を示して動いている層が一定数存在することは、国や自治体が人材還流に関する施策を検討する際にも注目すべき傾向である。

図表1 転居を伴う転職者の転居先地域との関係
図表1
(資料)平成27年度経済産業省委託調査事業「労働移動に関する実態調査」(みずほ情報総研受託)

1. 国が主導して地域企業の成長に資する人材採用支援を開始

(1)「プロフェッショナル人材事業」のスキームの狙いと仕組み

内閣府では、前述の「地域しごと問題」を解消しつつ、地域経済を牽引する地域企業の成長を後押しするため、平成27年度より「プロフェッショナル人材事業」(以下、当該事業とする)をスタートさせた。当該事業では潜在成長力のある地域企業に対し、プロフェッショナル人材(以下、プロ人材とする)の採用支援活動を行う「プロフェッショナル人材戦略拠点」を東京都以外の全国46道府県に設置している。この拠点には、知事からの委嘱を受けたマネージャー1名と、他数名のサブマネジャー等が在籍している。各拠点は、地域企業の経営者を対象に、各企業に個別に接触し、経営者に「攻めの経営」を促すことを第1のミッションとし、平成28年1月頃から拠点活動を本格的に開始した。

上述したような「攻めの経営」を具現化するために必要なプロフェッショナルな人材に対するニーズが出た際には、拠点はそのニーズを人材市場に発信する。発信されたニーズは、拠点に登録されている人材紹介事業者を通じてマッチングされる。尚、拠点は、各地域の有望企業の発掘やアプローチに際し、地域金融機関や各種支援機関等とも積極的に連携をとっている。

また、こうした人材紹介事業者経由の人材ルートに加え、平成28年秋からは大企業等と連携した人材交流(出向・研修)もルートとして整備・運用している。平成29年12月時点ですでに25社とパートナーシップを結んでおり、役職定年前後の人材や中堅の経験蓄積、親の介護支援などの多様な活用促進を図っている。

図表2 プロフェッショナル人材事業のスキーム
図表2
(資料)プロフェッショナル人材戦略ポータルサイト(平成29年12月末現在)

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