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社会動向レポート

気候変動関連の情報開示と気候変動適応ビジネスの支援制度

民間企業による気候変動への適応(1/3)

環境エネルギー第1部 コンサルタント 西郡 智子

本稿では、企業による気候変動への適応に係る取組に焦点を当て、気候変動関連の情報開示と途上国における気候変動適応ビジネスの支援制度を紹介するとともに、その課題と今後の展望について述べる。

1.はじめに

パリ協定では産業革命以前と比較して気温上昇を2℃未満に抑えることが世界共通の長期目標とされた。本長期目標の達成の土台となる国別貢献(NDC(1))において、各国は2025~2030年の温室効果ガスの排出目標を掲げているが、その目標を合計しても、長期的に気温上昇を2℃未満に抑えるために期待される2030年の排出量420億トン以下に対して、110~135億トン上回ってしまう状況にある(2)

既に2017年において世界の平均気温は産業革命以前と比較して1.1℃程度上昇しており(3)、世界中において気候変動が原因ではないかと考えられる現象が報告されている。例え世界中が温室効果ガスの削減に向けた対策(「緩和策」と呼ぶ)を加速させ、気温上昇を2℃未満に抑えることができたとしても、現状よりも気温が上昇し、気候変動の影響に伴う被害が頻発することは避けられない状況にある。そのため、気候変動の影響に対処し、被害を回避・軽減する「適応策」の重要性が世界中で高まっている。経済活動のグローバル化が進展した現状においては、サプライチェーンを通じた間接的な影響まで考慮すると気候変動の影響を受けない企業はなく、民間企業においても「適応策」の重要性が増している。

このような状況下、国際的な気候変動関連の情報開示の枠組みを提供している気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や質問書を通した企業による気候変動関連の情報開示を促進しているCDPにおいては、「緩和策」に焦点を置きつつも、「適応策」に係る情報開示も企業に求めている。

一方で、こうした世界規模での「適応策」の必要性の高まりは、企業にとって、気候変動適応ビジネスの大きな機会となっている。特に気候変動影響に対して脆弱な途上国において、その気候変動への適応に資する事業の実施に関しては、民間企業を支援する制度が用意されている。

このような状況を踏まえ、本レポートでは、民間企業による気候変動への適応に係る取組として、TCFDやCDPに代表される気候変動関連の情報開示の枠組みとその中での「適応策」の位置付け、及び途上国における適応ビジネスに活用可能な支援制度を概観することで、民間企業における今後の適応策のあり方について考察する。

図表1 緩和と適応
図表1
(資料)環境省資料「適応への挑戦2012」

2.企業による気候変動関連の情報開示と適応策

国際的に重要視されている気候変動関連の情報開示の枠組みは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)と国際非営利組織であるCDPによって提示されている。ここでは、その2つの情報開示の枠組みとその枠組みにおける適応策の位置付けについて述べる。

(1)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)

TCFDとは、G20の依頼に基づき、金融安定理事会(FSB)が2015年12月に設置した民間主導のタスクフォースであり、一貫性があり比較可能かつ自主的な気候変動関連の財務情報開示の枠組み・方法に係る提案を行い、気候変動関連リスクも含んだ情報に基づく投融資や保険引受に係る意思決定の促進を目的としている。これにより、気候変動関連リスクに晒されている資産について、ステークホルダーのより良い理解が可能になるとしている。

TCFDは、2017年6月に最終報告書(提言)(4)を公表しており、図表2のとおり、組織運営の中核的要素となる「ガバナンス」、「戦略」、「リスクマネジメント」、「指標と目標」の4項目に沿って、合計11の気候変動関連情報の開示内容に係る提言を行っている。

また、TCFDの情報開示の枠組みにおいては、図表2の提言の中で多く使用されている「リスク」と「機会」に関して、図表3の通りに一貫した分類を行うとしている。具体的には、リスクについては、低炭素経済への移行に関連したリスク(移行リスク)と気候変動の物理的影響に関連したリスク(物理的リスク)を、機会については「資源効率性」「エネルギー源」「製品とサービス」「市場」「レジリエンス(5)」を挙げている。さらに、図表3が示すようにリスク・機会と財務的インパクトを関連付けることが特に重視されている。

この情報開示の枠組みにおいては、リスクの中の「物理的リスク」(6)や機会の中の「製品及びサービス」「市場」「レジリエンス」(7)などに適応策に関する事項も含まれており、これらのリスクや機会、それらへの対応策と財務的インパクトを財務報告の中で記載することが推奨されている。

加えて、複数の気候シナリオ分析のもとでの組織戦略のレジリエンスを説明するように求めている。図表2の「戦略」において、「2℃以下のシナリオを含む複数の、かつ、必要があれば物理的な気候変動関連リスクの増大と一致した気候変動シナリオを考慮した上で、組織戦略のレジリエンスについて記述する」とされている。これは、中長期的な気候変動による潜在的なリスクが生じるタイミングや規模の不確実さを踏まえ、起こりうる複数のシナリオに基づいて気候変動によるリスクと機会がどのように変化するか検討を行い、戦略策定プロセスやリスク管理に取り込む必要があることを示している。

2017年6月にTCFDの最終報告書(提言)が公表されたことを受け、民間企業による取組が今後活発化するものと予測される。当分の間は低炭素経済への移行に関連するリスクや機会に焦点があてられると想定されるものの、気候変動関連の財務情報開示が進むに従い、適応に係る取組がますます重要になると考えられる。

図表2 気候変動関連の情報開示に係る提言と推奨される情報開示事項
図表2
(資料)Final Report “Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures” の図表をみずほ情報総研が翻訳

図表3 気候変動関連のリスクと機会及び財務的インパクト
図表3
(資料)Final Report “Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures” の図をみずほ情報総研が翻訳及び赤枠と赤字箇所はみずほ情報総研が追記

(2)CDP

CDP(8)は、2000年に英国で発足した国際非営利団体であり、投資家と協働して、世界初の環境と財務情報が体系的に連携した情報開示プラットフォームを設立した。CDPは、大規模な企業に質問書を毎年送付し、その回答(9)を活用して、個々の企業の環境リスクや機会、影響について分析・評価の上、その結果をウェブサイトで公開している。投資家はこの結果を企業との対話、投資プロセス、リスクマネジメントに活用している。

直近の2017年の実績によると、CDPの質問書には、全世界で6,300社以上かつ500以上の自治体が回答しており、650以上の投資家(総運用資産額87兆米ドル)がその結果を活用している。日本においては、大規模な企業を中心とした500社がCDPの質問書の対象となっており、2017年の回答率は57%となっている。

CDPの質問書フォームでは、CO2排出削減に焦点を当てつつも、主に気候変動影響から生じるリスクと機会の理解や対応に係る質問を通して、企業による気候変動適応への取組に係る情報開示を求めている。2018年からの質問書では、TCFDの情報開示枠組みに準じた形へと更新されている(図表4)。なかでも、適応に関連する大きな変更としては「ビジネス戦略」の項目における気候関連のシナリオ分析の使用の有無やその詳細に係る質問の追加を挙げることができる。CDPにおいても民間企業による適応への取組が重視されてきている。

図表4 TCFDの提言を踏まえたCDP 質問書の主な変更点(気候変動適応関連箇所)
図表4
(資料)TCFD及びCDP の公開資料に基づきみずほ情報総研が作成

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