ページの先頭です

社会動向レポート

小学校の現状を踏まえたプログラミング教育の実現のための課題と提言(1/2)

経営・IT コンサルティング部 コンサルタント 伊澤 俊

2020年より、我が国の小学校においてプログラミング教育が必修化されることとなった。プログラミング教育と聞くと、プログラミング言語を使ってプログラムを書くことを学ぶといったイメージを持たれがちであるが、今回必修化されるプログラミング教育は、「問題の発見・解決に向けた思考力の育成」を目標とするものである。

本稿では、プログラミング教育について、子どもたちが未来社会を生き抜くための能力の育成手段として重要性を示すとともに、その実現に向けた学校現場の課題を考察し、今後に向けた提言をまとめる。

1.小学校におけるプログラミング教育の重要性

(1)新たな社会(Society 5.0)において求められる個人の能力

我が国は今、急激な変化に直面しようとしている。人工知能(AI)、Internet of Things(IoT)、ビッグデータ等のデータ利活用に関する先端技術は日々高度化が進み、それに伴って、産業構造や私たちの生活のあり方が劇的に変わりつつある。この変化の先にある新たな社会(Society5.0)の到来により、人々の生活はより便利かつ快適なものとなっていくことが期待されている。一方で、技術の変化と社会の変化は、複雑に影響し合いながら進行していくと予想されるため、今後どのような社会が訪れるかを正確に予測することは難しいといわれている。このような時代において、個人が変化に適応しながら生きていくためには、どのようなめまぐるしい変化の中でも“主体的に学ぶことができる能力”が強く求められる。文部科学省の公表資料(1)では、こうした能力の具体的な例として、「文章や情報を正確に読み解き、対話する力」、「科学的に思考・吟味し活用する力」、「価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探求力」を挙げている。

(2)小学校におけるプログラミング教育に対する期待

このような、“主体的に学ぶことができる能力”の育成に向けて、2020年から必修化が決定された小学校におけるプログラミング教育に期待がかかる。プログラミング教育は、新学習指導要領において基盤となる資質・能力として位置づけられる「情報活用能力」(コンピュータ等の情報手段を適切に活用し、情報の収集や分析等ができる力)の強化を目的としている。すなわち、実際にプログラムを書くコーディングに関する知識や技能の習得ではなく、児童一人一人が生活の様々な場面で活用されるコンピュータの存在に気づき、問題の発見・解決等に向けて情報技術を手段として自ずと活用できるようになるための思考力を身につけることを目指している。こうした学習目的のもと行われるプログラミング教育は、“主体的に学ぶことができる能力”の育成手段としても、大いに有効であると考えられる。

(3)小学校における先行的な取り組み事例

新学習指導要領では、プログラミングを既存科目の授業内に取り込むことが想定されている。そこで、一部の先進的な小学校では、ビジュアル言語(2)と呼ばれる児童にとっても操作が容易なプログラミング言語を活用して、アニメーションを作ったりロボット等の電子機器を動かしたりする授業(以降、「プログラミング授業」とする)が、国語や算数、理科等の学習活動の一環として行われている。

東京都内のある小学校では、小学6年生を対象に「電気の性質とその利用」という理科の単元においてプログラミング授業が行われた。児童はいくつかの班に分かれ、各種センサー(温度センサーや赤外線センサーなど)とモーターやブザーといった出力機器を組み合わせ、一人に一台与えられたコンピュータを活用して、センサーの測定値に連動して出力機器が動作するプログラミングに取り組んだ。授業では、日常生活を支える道具の開発というテーマが与えられており、児童は人の気配や周囲の温度を感知できるセンサーを応用し、自動で動作する生活製品の制作に当たった。

大阪府内のある小学校では、小学3年生を対象にいろいろな音の響きやそれらの組み合わせを体感することを目的とする音楽の単元において、プログラミング授業が行われた。授業では、小学校3年生の児童が、音楽室にある楽器の音をタブレット端末で録音し、班ごとに音を重ねたり強弱をつけたりすることで作曲を行うプログラミングに取り組んだ。

操作性に優れたビジュアル言語によるプログラミングは、児童にとって、自身のアイデアを簡単に具現化できるツールになりうる。そのため、プログラミング教育は、児童の「こんなことをやってみたい」というアイデアを主体的に実現し、自ら課題を解決するための力を養う学習として非常に有効であるといえる。

また、当社が小学校の教員向けに実施した調査(概要は次章に記載)によれば、プログラミング教育には、児童が関心を持ちやすいという利点もある。既に先行してプログラミング教育を取り入れている教員に対し、プログラミング授業を受けた児童の反応を尋ねた結果(図表1)、「とても楽しそうにやっている」と「楽しそうにやっている」という回答が9割以上に上った。プログラミング教育が児童にとって非常に魅力的であることがうかがえる。

このように、創意工夫が求められる課題に対して、児童が高い関心を持ちながら取り組めるという点で、プログラミング教育は、来るべき新たな社会を生き抜く上で必要とされる“主体的に学ぶことができる能力”の育成において、重要かつ有効な教育であるといえるだろう。

図表1 プログラミング授業を受けた児童の反応
図表1
(資料)みずほ情報総研実施調査(2018年3月実施)

2.小学校教員向け調査に見る、プログラミング教育の実現に向けた課題

(1)当社実施の小学校教員向けアンケート調査の概要

前章で見た通り、未来を生きる子どもたちにとって重要な教育といえるプログラミング教育のための準備は、日本全体において、どのくらい進んでいるのだろうか。当社では、2020年の必修化に向けた学校現場の状況を把握するため、2018年3月に、全国の公立小学校の教員500名を対象とするアンケート調査(3)を実施した。以下に、プログラミング教育推進に関係するヒト(教員)、モノ(機器)、情報(プログラミング教育に関する情報)の観点に沿って、調査結果を示す。

(2)プログラミング教育を担う小学校教員(ヒト)

小学校教員に対して、プログラミング教育の必修化に対する認知状況を尋ねた結果(図表2)をみると、「認知している」という回答が8割を超えるものの、「認知していない」という回答も1割を超える結果になった。

次に、プログラミング教育の現在の実施状況について尋ねた結果(図表3)をみると、先行してプログラミング教育を「実施している」と回答した教員は、1割程度に留まる。さらに、プログラミング教育を実施していない教員に対して、実施に向けた検討状況を尋ねたところ(図表4)、「検討していない」とした教員が半数を超える結果となった。

プログラミング教育の実施にあたって想定される課題について尋ねた結果(図表5)をみると、「指導方法・内容が分からない」と回答した教員が6割を超え、「プログラミング授業用ソフトやツールが足りない(もしくはない)」と回答した教員が4割を超えた。

図表2 プログラミング教育必修化に対する認知状況
図表2
(資料)みずほ情報総研実施調査(2018年3月実施)


図表3 プログラミング授業の実施状況
図表3
(資料)みずほ情報総研実施調査(2018年3月実施)


図表4( 図表3でプログラミング授業を実施していないとした回答者における)プログラミング授業の実行に向けた検討状況
図表4
(資料)みずほ情報総研実施調査(2018年3月実施)


図表5 プログラミング教育を実施するにあたり想定される課題
図表5
(資料)みずほ情報総研実施調査(2018年3月実施)

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2018年6月6日
小学生段階からのプログラミング教育の重要性
―日米ITエンジニアのプログラミング経験の比較を踏まえて―
デジタル時代のIT人材(4)
ページの先頭へ