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社会動向レポート

東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるCO2見える化と気候変動対策(1/2)

環境エネルギー第2部 シニアコンサルタント 内田 裕之

2018年6月、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のための「持続可能性に配慮した運営計画」第二版が公開され、大会の温室効果ガス排出量の予測とこれに基づく具体的な削減対策が示された。その内容を解説する。

はじめに

21世紀になり、気候変動対策の重要性が高まる中、オリンピック・パラリンピック競技大会においても、競技大会に関連して排出される温室効果ガスの把握とその削減に向けた取組みを行うことが重要視されている。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会とする)については、開催まで2年を切り、この6月には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会とする)より具体的な気候変動への対策計画が掲げられた「持続可能性に配慮した運営計画」の第二版が公開された。今後、この運営計画に沿った対策が進められていくものと考えられる。

本稿では、東京2020大会の気候変動への取組みとして運営計画に掲げられているCO2見える化及び削減対策、気候変動に関する管理について報告する。

1.持続可能性に配慮した運営計画の概要

(1)持続可能性に配慮した運営計画

東京2020大会では、持続可能性に配慮した大会の準備・運営を行うため、大会関係者の拠り所となる資料として、運営の方向性や目標、施策例を示した「持続可能性に配慮した運営計画」を策定・公開している。第一版は2017年1月に公開され、主要な持続可能性のテーマ(SDGs に従い気候変動、資源管理など5項目)が記載された。その後、各テーマについて目標の設定や目標達成に向けた具体的な施策を盛り込んだ第二版が2018年6月に公開された。今後、2019年に進捗状況報告書、2020年の大会前に大会前報告書が公開され、大会後には大会後報告書が作成される予定である。

(2)気候変動対策の取組み

「持続可能性に配慮した運営計画」に記載された主要な持続可能性のテーマのうち、「気候変動」に関しては、大目標を「Towards Zero Carbon ―脱炭素社会の実現に向けて―」とし、可能な限りの省エネ・再エネへの転換を軸としたマネジメントの実施という方向性が掲げられている。 気候変動対策の取組みは、大きく「CO2見える化」「削減対策」「気候変動に関する管理」の3段階となっている。このうち、「CO2見える化」については、カーボンフットプリントと呼ばれる手法が用いられており、東京2020大会の大会開催時の排出だけではなく、準備・運営の活動全般に関連して温室効果ガスがどのくらい排出されるか、どのような活動に関連して排出されるか、を活動の種類別に把握している。定量的に把握する目的は、どのような活動が温室効果ガスの排出量に対して、大きな影響を及ぼすかを理解した上で、排出量の大きい活動に重点的に削減対策を講じていくという、合理的な気候変動対策の計画を策定することにある。

運営計画第二版におけるカーボンフットプリントの推計結果(図表1)は、ロンドン2012大会が事前に推計した結果に比べて少ない。東京2020大会の「削減対策無し」(BaU: Business asUsual)のケースは立候補時点で設定した条件をもとに、開催決定後に追加された競技の条件を加えた内容となっている。このケースでは、運営計画第二版で記述されている温室効果ガス排出量の削減対策は考慮されていない。これに開催決定後の会場についての見直し(新規建設から既存施設の活用へ変更など)の対策を考慮した結果が、「会場見直し等による削減考慮」のケースとなっており、新国立競技場の設計見直し、既存施設活用などの検討努力により、温室効果ガス排出量が約8万t 削減されるという推計結果になっている。

この排出量に対して、「削減対策」では、「排出回避」、「排出削減」、「相殺」の3種類に分けて、それぞれ具体的な目標が挙げられている。「気候変動に関する管理」については、大会の計画から大会終了後までの各主体の役割の明確化や対策実施状況の確認など、「削減対策」が確実に行われるような管理(カーボンマネジメント)を行うことが示されている。

次項以降に「CO2見える化」「削減対策」「気候変動に関する管理」の内容について説明する。

図表1 東京2020大会とロンドン大会のCFP 事前推定値(単位:万ton-CO2)
図表1
(資料)公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した運営計画 第二版」(2018年6月)をもとにみずほ情報総研作成

2.CO2見える化

(1)カーボンフットプリント手法の概要

カーボンフットプリントは、温室効果ガスの排出量を算定する手法および手法を用いたコミュニケーション(社内・社外のコミュニケーションの両方)制度を指す。算定手法の特徴は、図表2に示す通り、製品の「ライフサイクル(原材料の調達~製造(生産)~流通~使用~廃棄など)」を対象に、プロセスごとの温室効果ガス排出量を算定し、それらを合算することでライフサイクル全体の温室効果ガスを算定する点にある。

我が国では、2008年度から2011年度まで、経済産業省を中心とした国家事業としてカーボンフットプリント制度の試行事業が行われ、現在、多くの企業が自社製品の温室効果ガス排出量を算定する手法として採用している。ただし、当初のカーボンフットプリントは、日用品や食品などを対象とした評価手法であり、オリンピック・パラリンピック競技大会のようなイベントを対象としたものではなかった。

図表2 カーボンフットプリント算定結果のイメージ
図表2
(資料)みずほ情報総研作成

(2)オリンピック・パラリンピック競技大会におけるカーボンフットプリント

オリンピック・パラリンピック競技大会の温室効果ガス排出量については、国際的な気候変動に関する関心の高まりという背景を受け、2006年の冬季トリノ大会で温室効果ガスの把握が行われている。ただし、トリノ大会における把握の範囲は、大会運営時のエネルギー消費と参加者の移動に伴う排出量であり、カーボンフットプリントのようにライフサイクルを対象とするものではなかった。

これに対して世界における温室効果ガス排出量把握は、製品のカーボンフットプリントの進展や2011年に発行された企業活動を対象とするサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の算定・報告基準「Scope3基準」など、把握する活動の対象をライフサイクルやサプライチェーンへと拡大してきた。

2012年のロンドン大会では、製品のカーボンフットプリントやScope3基準などを参照し、大会のCO2見える化の方法(カーボンフットプリントと呼称)を整理した。算定された結果では、2006年トリノ大会の範囲には含まれていなかった、競技場の建設や輸送インフラの建設などの準備段階で、それぞれ大きな排出量が生じることが確認され、以後、リオ大会や平昌大会においても、カーボンフットプリントの手法を用いた温室効果ガス排出量の算定が行われている(図表3)。このようにカーボンフットプリントの適用は、大会のCO2見える化の中で、それまでに定量的に把握してこなかった範囲が重要であることを明らかにし、算定方法としての必要性が示された。

図表3 過去3大会におけるカーボンフットプリントの事前推定結果
図表3
(資料)各種資料をもとにみずほ情報総研作成

(3)東京2020大会のカーボンフットプリント

東京2020大会のカーボンフットプリントの算定では、評価範囲(評価した活動)の設定について、ロンドン大会で考案された図表4の判断基準の考え方をもとに行っている。この判断基準に基づいて整理された評価対象となった活動は図表5の通りである。過去の大会で含まれている輸送インフラに関しては、東京2020大会では対象の活動が無く、含まれていない。

東京2020大会のカーボンフットプリントの詳細結果を図表6に示す。結果では、会場建設に関連する排出量が全排出量の半分を超えており、その次に観客の移動、大会関係者の活動、オーバーレイ(製造)の排出量が大きい。

会場を見直した効果は、建設に関する排出量で約8万tの削減となっている。東京2020大会では、会場見直しの中で、既存施設の活用を進めている。この対応が気候変動対策においても一定の効果につながっていると考えられる。なお、新国立競技場に関しても設計変更の結果、温室効果ガス排出量で15万tの削減と、大会のカーボンフットプリント全体の約5%の削減につながっていることがわかる。

図表4 東京2020大会における評価範囲の設定基準(デシジョンツリー)
図表4
(資料)公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 第8回脱炭素WG 資料(2018年1月)をもとにみずほ情報総研作成

図表5 東京2020大会のカーボンフットプリント算定範囲
図表5
(資料)公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 第8回脱炭素WG 資料(2018年1月)をもとにみずほ情報総研作成

図表6 東京2020大会のカーボンフットプリント推計値
図表6
(資料)公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した運営計画 第二版」(2018年6月)をもとにみずほ情報総研作成

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