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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.31

The Quantitative Methods in Finance 2018 Conference (QMF 2018) 参加報告

2019年3月
みずほ情報総研 マーケッツデジタルテクノロジー部 田中 健太郎

1. カンファレンス概要

本レポートは数理的アプローチによるファイナンス研究の国際学会へ参加した際のレポートである。大会概要は以下の通りである。

大会名: The Quantitative Methods in Finance 2018 Conference (QMF2018)
主催者: University of Technology Sydney
開催地: オーストラリア・シドニー (Hilton Sydney Hotel)
期間: 2018年12月9日 ~ 2018年12月15日

2. 内容

カンファレンスでは午前は1カ所の大会議室で各人40分の講演、午後は4つの会議室に分かれて各人20分の講演が実施された。トピックとしては、確率モデルやデリバティブ商品評価、モデルリスク、信用リスク、高頻度取引、マーケットメイク戦略、アービトラージ戦略、アルゴリズムトレード、機械学習のファイナンスへの応用、XVAなど様々であった。以下では聴講した発表の中からいくつか報告する。

【機械学習の数理ファイナンスへの適用】

[Josef Teichmann,“Machine Learning in Mathematical Finance”]

ニューラルネットワークを数理ファイナンスにどのように適用するかについての発表。従前研究者の研究について説明を行った後に、実際にどのようにモデルのキャリブレーションを行うかについてハルホワイトモデルを用いて説明を行っていた。具体的には、ニューラルネットワークの普遍性定理により関数を表現できる性質を利用し、イールドと価格のデータからキャリブレーションを行っていた。また、リザーバーコンピューティング*1の数理ファイナンスへの適用についても言及があった。拡散確率微分方程式は、ラフパス理論からリザーバーコンピューティングを用いて計算を行うことができることを示していた。この結果から、リザーバーコンピューティングは、時系列分析、オプションプライシング、ヘッジなど多方面で応用できることを示唆していた。

[Wei Xu,” Machine Learning Methods for Risk Management of Large Variable Annuity Portfolios”]

変額年金(Variable Annuity:VA)*2について、モーメントマッチングという手法を機械学習に適用(Moment Matching Machine Learning : MMML)し、VAの評価およびVaRとCVaRの計算を行っていた。VAの評価に関する既存の研究では、計算の複雑さと計算負荷の問題から単一商品のVAの評価に留めているものが多く、複数のVAを含むポートフォリオまでは拡張しない、もしくは計算負荷を要するものとなっていた。MMMLを適用することで、Nested Monte Carlo法と比較し、同程度の精度で評価を行うことができるとともに、計算時間が約1/100程度まで削減できることが確認された。

【アルゴリズムトレード】

[Sebastian Jaimungal,”Mean Field Games with Differing Beliefs for Algorithmic Trading”]

平均場ゲーム*3というゲーム理論のフレームワークを用いてトレードの目的、リスク許容度、資産価格の変動モデルに対する考え方が異なる数多くのプレイヤーが同じ資産を取引すると仮定した状況のモデル化(ナッシュ均衡を求める)を行っていた。プレイヤーの人数が有限の場合においては、εナッシュ均衡解の導出に成功していた。この研究のユニークな点としては、平均場ゲームを用いた分析に、資産価格の変動モデルがプレイヤー毎に異なるという仮定を取り入れたことだと述べていた。より具体的には、各人のモデルに対する考え方を確率測度で表現し、資産価格過程に反映させ理論を展開していた。

【マーケットメイク】

[Xuefeng Gao,”Profitable of market making and latency”]

ティックが大きいアセットを対象に、マーケットメイク戦略と取引所からのデータ取得、取得したデータからモデルによる指値計算、指値を取引所の板に反映させる一連の行動の速度(レイテンシー)がマーケットメイカーの利益にどのような影響を与えるかについて、最適なマーケットメイク戦略を離散マルコフ決定過程によりモデル化を行い、マーケットメイカーが利益をあげることができる明示的な条件を示すことに成功していた。また、レイテンシーが遅くなればなるほど、マーケットの変動によりマーケットメイカーの利益が損なわれることを、マーケットデータを用いた実証実験により示していた。

【アービトラージ】

[Johannes Ref,”Short-and Long-term Relative Arbitrage in Stochastic Portfolio Theory”]

確率ポートフォリオ理論の分野では、期間[0,T]において十分に大きなTを取れば、緩やかな退化条件下においては相対的裁定機会*4が存在することが従前の研究結果により確認されていた。しかし、Tが短期の場合に同様に相対的裁定機会が存在するかについては長らく分かっていなかったが、本研究結果により、短期においては相対的裁定機会が存在しないことが確認されていた。

3. 所見

本大会には著名な研究者から大学院の学生まで各国から多数の研究者が参加しており、多彩な研究成果や最近の研究動向に触れることができ非常に有意義なものであった。

従前の数理ファイナンス理論的拡張の研究がある一方で、機械学習の数理ファイナンスへの適用などの話題もあった。数理ファイナンス、アルゴリズムトレード、機械学習は当部で携わっている業務の主となるものであり、このような研究成果を聞くことは今後の業務に取り組む上で大いに参考になり、モチベーションを高めるものであった。


  1. *1リザーバーコンピューティングはリカレントニューラルネットワークの一種で、入力層、中間層(リザーバー層)、出力層(リードアウト層)の3層で構成される教師あり学習。リザーバーコンピューティングのアルゴリズムは、リカレントニューラルネットワークの回帰結合部分の学習を行わず、出力部の結合のみを学習することで、多層になった場合に生じえる勾配消失問題や計算量の増大などの問題を回避しようとしたもの。
  2. *2Annuityとは契約に基づき、ある一定期間、一定間隔で継続して支払われる金額のことをいい、年金や退職金の支払いなどに利用される。
  3. *3小さな相互作用をもつエージェントが多くいる状況下における戦略的意思決定理論
  4. *4相対的裁定機会とは、θをself-finance trading strategyとするとき、時刻[0,T]において、以下が成り立つ状態をいう。
    式1
    ここで、Vは価値を表す関数である。

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