ページの先頭です

技術動向レポート

次世代・革新型蓄電池技術の現状と課題

蓄電池技術はどこに向かうのか?(5/6)

サイエンスソリューション部 チーフコンサルタント 茂木 春樹
グローバルイノベーション&エネルギー部 コンサルタント 佐藤 貴文
環境エネルギー第1部 チーフコンサルタント 吉田 郁哉

3.次世代、革新型蓄電池の技術動向(続き)

(3)ナトリウム硫黄電池

リチウムと同じアルカリ金属であるナトリウムを用いた蓄電池として、既に商用化し広く普及しているものの代表格が、大規模な電力貯蔵用に開発されたナトリウム-硫黄電池(NAS電池)だろう。NAS電池は日本ガイシ株式会社によって2002年から事業化されている蓄電池で、正極に硫黄、負極に金属ナトリウム、電解質には固体電解質であるβ-アルミナが用いられている。放電時には、負極のナトリウムがNa+となり、β-アルミナ中を伝導して正極までNa+が輸送され、正極の硫黄によってNa+が還元されて多硫化ナトリウムとなる。作動中はナトリウムと硫黄を溶融させ、β-アルミナでのNa+伝導度を高く保つために、300℃程度の高温条件が必要となる。高温条件での作動が必須であることから、ヒーターでの加熱や放電時の反応熱を活用して、作動温度を維持(熱自立)する必要がある。

鉛蓄電池と比較すると3倍のエネルギー密度をもち、耐久年数も約15年と長寿命であるため、電力貯蔵用途に適した蓄電池である。更に構成材料が資源的に豊富に存在することから、他の蓄電池と比較してコスト競争力が高いとされており、この観点からも経済合理性が重要視される電力貯蔵用途での活用が期待される。

NAS電池は、過去に発火事故が発生したことがあるが、金属ナトリウムが用いられているため、消火にあたっては通常の水系の消火液を用いることができない。当時の発火原因は既に究明されており、単電池(蓄電池の最小単位)の破壊から短絡が生じ、隣接するモジュールに延焼が拡大したものとされている。これらの原因に基づき、現在では短絡防止策や延焼防止策などが図られており、安全性が向上しているものと考えられる。

既に普及が進んでいるNAS電池であるが、次世代で更に活躍が期待される蓄電池として本稿でも取り上げた。今後の動向が注目される。

(4)リチウム硫黄電池

リチウム硫黄電池は、通常のリチウムイオン電池で用いられる金属系正極の代わりに、地球上に豊富に存在し、NAS電池でも電極として実用化されている硫黄を封入した次世代型リチウムイオン電池である。正極としての硫黄は、通常のリチウムイオン電池と比較すると電圧が2~2.5V程度と低いものの、電気エネルギーを貯蔵する電極活物質が軽量であることから従来型のリチウムイオン電池セル比で2~3倍の重量エネルギー密度が可能になると期待される。従来型のリチウムイオン電池の正極に含有されるコバルト、ニッケル、マンガンのような価格の高い金属を低価格の硫黄で代替できることから原料コストの大幅な削減も期待される。

実用化にあたっての課題は、硫黄が電解液に溶解し易いことに起因する充放電容量の急速な劣化や、正極に用いる硫黄の電気伝導性が低く、充放電のエネルギーロスが大きい点などがある。これらの課題解決に向けた研究開発は徐々に進められており、たとえば固体電解質を適用して、正極の硫黄が溶出することを防ぐ試みなどがある。

リチウム硫黄電池は、大学や研究機関のみに限らず日本企業でも研究されており、複数の企業が過去にプレスリリースを行っているほか、海外では英国のベンチャー企業OXIS Energyが先行している。これらの企業や研究機関では、ラボレベルではリチウムイオン電池のエネルギー密度を超えるセルの作成に成功した事例もみられ、OXIS Energyでは既に450Wh/kgのエネルギー密度を実用的なサイズのセルで達成したとしており、空気電池や多価イオン電池よりも研究開発が進んでいると推測される。

現状では長期耐久性の確認やスケールアップの可能性について検討されているが、既にコイン電池やコンデンサの代替として日本企業により実用化され、大型用途でもサンプルセルの出荷が行われている全固体電池と比較すると、リチウム硫黄電池の実用化にはまだ時間がかかるとみられる。

(5)レドックスフロー電池

化学反応を利用したすべての蓄電池に共通する事項として、電気エネルギーと化学エネルギーの変換に酸化還元反応を用いていることが挙げられる。還元は英語でReduction、酸化はOxidationであることから、両者を短縮して酸化還元反応をRedox(レドックス)反応と表現することが多い。この〝レドックス〟を名前に冠したレドックスフロー電池も、電解液中に存在するイオンの酸化還元反応を利用した蓄電池の一種である。

レドックスフロー電池では、酸化還元反応を担うイオンを含んだ溶液を、ポンプを駆動力とした流動(フロー)によって循環させるという点に特徴がある。充放電時には、蓄電池本体の電極における酸化還元反応によって、電解液中にあるイオンの価数が変化することなどによって電気の充放電を行う。電極が変化せずに、電解液が変化するという点にも特徴があるといえる。

レドックスフロー電池は、タンクやポンプが必要となることからシステム全体が大きくなるためエネルギー密度は小さいが、電解液によっては劣化がないため耐久年数が10~20年以上と長寿命であり、不燃性または難燃性の材料から構成されるため、安全性が高く電力貯蔵用途に適している。また、蓄電容量を増やすためには主にタンクを増設すればよいため、大規模な電力貯蔵用途に適用可能である。

国内では、既に住友電気工業株式会社が全バナジウムレドックスフロー電池を開発、事業化しており、コンテナ型とすることで設置性の向上も図られている。その他にも、大企業からベンチャー企業まで、電解液の組成や電池本体の構造が異なる様々なレドックスフロー電池が開発されている。

研究開発の動向としては、電池本体の性能向上を目指して、より化学反応にかかる抵抗を小さくする取り組みが多い。具体的には、電池内部の流動を改善するための流路構造や電極の微細構造の検討、電解液の改良などがある。特に電解液の改良としては、新たな電解液の開発だけでなく、酸化還元媒体(Redox Mediator)という酸化還元反応を助ける物質を電解液中に導入し、化学反応に伴う抵抗を低減する取り組みもみられる。また、近年では高エネルギー密度化を目指した電解液の研究開発として、固体粒子を懸濁させた電解液を用いたスラリー型レドックスフロー電池というタイプの蓄電池も提案されている。一般に従来のレドックスフロー電池では金属イオンの溶液を用いるため、エネルギー密度が他の蓄電池と比較して低いが、溶液よりも固体中のほうが酸化還元反応を担う金属イオンの密度が高くなるという特徴を利用することで、体積エネルギー密度の向上が見込まれる。スラリー型レドックスフロー電池はセミソリッドフロー電池と呼ばれることもある。

一般的には、電力貯蔵用途が想定されているレドックスフロー電池であるが、電気自動車へ適用する試みもみられる。これまで、レドックスフロー電池を車載用として適用するには、大量の電解液を搭載するための大容量タンクが必要となり、システム全体を車両に搭載できないという課題が存在した。しかし、2013年に設立されたスイスのベンチャー企業であるnanoFlowcell®により、新たに開発された電解液を用いたレドックスフロー電池は、出力密度、エネルギー密度ともに従来のレドックスフロー電池のみならず、リチウムイオン電池をも大きく上回るものとされ、既に電気自動車で複数モデルを商品化しているという。フロー電池の車載への適用を可能とした電解液についての詳細は明らかにされておらず、リチウムイオン電池を上回るエネルギー密度を達成しているかどうかは現時点では確認できないが、今後も動向に注目していきたい。

(6)多価イオン電池

リチウムイオン電池はリチウム金属がイオンとなって正極と負極の間を出入りすることで充放電が可能となる。リチウムは電極に1個の電子を渡しイオンとなる(Li+)ことで、電極間を行き来することができるが、もし、より多くの電子を渡すことができるイオンがあれば、より容量の大きな蓄電池が実現する可能性がある。このような、より多くの電子の受け渡しのできるイオン(多価イオン)となりうる金属を用いた電池を、多価イオン電池という。多価イオンになりうる金属としては、例えば、マグネシウムイオン(Mg2+)、アルミニウム(Al3+)、鉄(Fe2+)、亜鉛(Zn2+)などが挙げられる。

多価イオン電池としての代表格は、最近国内外の研究機関から次々と新たな研究成果が発表されているマグネシウムイオン電池が挙げられるだろう。マグネシウムは、蓄エネルギーの性能としては理論的には重量エネルギー密度が最大約2,000Wh/kg、体積エネルギー密度が最大約6,000Wh/L、電圧も最大約4Vにも達し、実用化されているリチウムイオン電池の性能をはるかに凌駕する(19)。しかし、多価であるがゆえ、結晶中でも溶液中でも移動速度が遅くなり、また相互作用が弱く電極における反応も鈍いという課題がある。また、負極にマグネシウムを用いると、デンドライトが析出(20)し反応が著しく鈍くなる課題もある。さらに、安定かつ安全に充放電を行うためのマグネシウム電解液が存在していないことも課題である。このように、実用化に至るまでには様々な困難な課題が山積しており、我が国の研究グループをはじめ世界各国の研究グループがしのぎを削って研究開発が行われているが、ポストリチウムイオン電池として製品化・量産化される状況には至っていない。ポストリチウムイオン電池を目指し、製品化・量産化に向けたもう一段の技術革新が求められる。

また同様に、アルミニウム、鉄、亜鉛といった多価金属を用いた蓄電池も、理論的には可能性はあるが、マグネシウムと同様にデンドライト析出によるサイクル寿命の課題が大きい。一部の企業で蓄電池の製品化までこぎつけた例はあるが普及しておらず、根本的な課題解決には至っていないと言わざるを得ないだろう。

(7)ナトリウムイオン電池

ナトリウムは、リチウムと同じアルカリ金属でありながら海水中をはじめ豊富に存在し、また化学的特性がリチウムと似ていることからも、リチウムに代替する蓄電池材料として期待されており、ポストリチウムイオン電池としてナトリウムイオン電池の研究開発も進められている。

金属イオン電池材料としてのナトリウムは、標準電極電位(21)がリチウムより0.3V高い分、電池としたときの電圧が低下してしまうことから、リチウムイオン電池ほどエネルギー密度を大きくできないという問題がある。また、ナトリウムはリチウムよりも活性であるため過充電するとデンドライトが形成されてショートや爆発する可能性がある点も大きな課題である。これら課題を克服すべく、日本、アメリカ、欧州、中国、韓国など世界各国で研究開発が行われており、そのなかでも我が国の研究機関による研究開発レベルは世界トップレベルにある。実用化に向けた動向としては、2015年にはフランスの国立科学研究センターが中心となって、民生用で普及している18650サイズのナトリウムイオン電池のプロトタイプを開発し、2017年にTiamat Energyというベンチャー企業を立ち上げている。

また、先述したようにナトリウムはリチウムと化学的特性が似ていることから、量産化段階でリチウムイオン電池のノウハウを多く転用できる可能性がある。今後の研究開発動向が注目される。

(8)金属空気電池

金属空気電池とは、負極においては金属が活物質として出入りする一方、正極には空気中の酸素を活物質として用いる電池である。既に一次電池(一度放電するのみで充電が不可能な電池)としては亜鉛空気電池が広く商用化されており、ボタン電池などで我々にもなじみがある電池である。

金属空気電池は、正極で空気(酸素)を活物質とするため、高いエネルギー密度が可能で、理論的には重量エネルギー密度で1,000Wh/kg以上、単位重量あたりの容量が大きいリチウムであれば10,000Wh/kg以上にもなる(10)。先述したリチウムイオン電池の理論的限界値(662Wh/kg)と比べても、ガソリンに匹敵する圧倒的なエネルギー密度である。しかし、これはあくまで理論的な値であり、充放電を繰り返す蓄電池の実現には大きな課題がある。

まずは、負極における金属イオンの出入りにおいては、充電時にデンドライトが生成される問題、また高電圧に伴い電解液から水素が生成するなどの問題がある。また、正極においては、酸素の発生・還元の繰り返しが著しく電極を劣化させ、蓄電池の性能上重要となるサイクル寿命が極めて短くなる。正極はまた、一方は電解液に浸りながら一方は空気に触れることから、撥水性と反応性の両立が必要であり、開発のハードルが極めて高い。

以上の課題解決に対し、有機系電解液の開発、正極の機能分離化(第三電極方式と呼ばれる)などの技術開発が進められている。金属イオンとしては、資源枯渇問題のあるリチウムイオン以外の、例えば亜鉛、鉄、アルミニウムといったありふれた金属も用いることができ、これでも十分なエネルギー密度が取れるため、特に系統向け、電気自動車向けなどの中型~大型の蓄電池として大きなポテンシャルがあると考えられるが、現在のところ実用化に耐えうる金属空気蓄電池は実現していない。その他の蓄電池と同様、もう一段の技術革新が期待される。

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

関連情報

この執筆者(茂木 春樹)はこちらも執筆しています

2018年1月10日
設計者CAEについて考える
―本当に“使える”設計者CAEとは―
2018年3月
モデルベース開発の活用をもう一歩進めるために
―“鍵”となるのはマルチフィジックスシミュレーション―

この執筆者(佐藤 貴文)はこちらも執筆しています

2019年12月10日
太陽光発電が切り拓く自動車部門のCO2削減可能性
―自動車における「創エネ」のすすめ―
2018年3月
再生可能エネルギーの現状と将来
―再生可能エネルギーの導入による経済分析の視点から―

この執筆者(吉田 郁哉)はこちらも執筆しています

2019年6月13日
2050年、あなたの家が日本を救う?!
―セクターカップリングで拓く低炭素・省エネ、そして強靭な社会―
ページの先頭へ