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技術動向レポート

肺がん検診におけるAI(人工知能)実用化に向けた福島県立医科大学との共同研究(1/2)

情報通信研究部
主席コンサルタント 永田 毅 チーフコンサルタント 佐野 碧 コンサルタント 岩渕 耕平
社会政策コンサルティング部
課長 山崎 学 調査役 井高 貴之

1.はじめに

肺がんは世界的規模で増加傾向にある疾患で(1)死亡率も高く、この疾患の制御は、全世界の喫緊の課題であり、特に肺がんは早期の場合には自覚症状を伴わないために発見が遅れる事が課題となっており、我が国も同様の課題を抱えている(図表1)。早期発見に向け、現在では、CTやMRIの普及により非侵襲な手段による精密検査が可能であるものの、時間もコストもかかることから検診率が低いのが現状であり、広く普及している胸部X線撮影による肺がん検診は大きな意義を持つ。

我が国では健康増進法に基づいて集団健診、施設健診などが行政(自治体)主導で行われており、健康維持管理に役立っている。成人に対する健診における肺がん検診を目的とした胸部X線画像の読影においては、「肺がん検診手引き」(日本肺癌学会編)にて処理フローが規定されており、読影担当医師2名で1枚の胸部レントゲンフィルム(デジタル画像)をダブルチェック方式で読影する(二重読影、一次読影)。この段階で異常と指摘された症例に対しては比較読影(二次読影)で最終評価が行われて、精度の高い判断がなされている。

読影作業に従事する医師の負担は決して軽いものではない。最近では政府主導で働き方改革が議論されており、医師に関してもその働き方を改善するための議論がなされて久しいが、医療に対する国民のニーズは年々高まっており、医師の負担が一向に軽減していない問題が存在する。また、医師の長時間にわたる読影作業は、作業効率の低下を招き、陰影の見過ごしにつながる可能性があるため、医療安全管理上も課題とされる。

上記のような問題を鑑み、当社と公立大学法人福島県立医科大学は、2019年より集団健診の画像読影作業におけるAIによる異常検知の実用化を目的とした共同研究に取り組んでいる(3)(図表2)。

肺がんの最終的な診断は医師が行うため、我々は主に以下の目的で本共同研究を実施している。

  1. [1]一次読影において、AIの判断を参考に医師が診断を行うことで、診断の質を落とすことなく、医師の負担軽減、医師の労働時間の短縮を図る。
  2. [2]医師の比重を、一次読影から二次読影業務にシフトすることで、二次読影の質の向上を実現する。
  3. [3]肺がん検診を遠隔で支援することを検討し、専門性の高い読影医の偏在による地方格差の解消を実現する。

本共同研究は現在進行中であり、現在は、図表2における最初のステップである、過去の検診症例・臨床症例での精度評価を行っている。本稿ではまず、国内の肺がんを含むがん検診全般におけるAIの活用状況について概観した上で、本共同研究の現状について報告する。


図表1 日本におけるがん推定罹患数と死亡率
図表1

  1. (資料)国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(2)よりみずほ情報総研作成。

図表2 共同研究の概念図
図表2

  1. (資料)みずほ情報総研作成

2.がん検診全般におけるAIの研究・活用状況

ここで、国内のがん検診におけるAIの活用状況について、現状を概観しておきたい。

理化学研究所と国立がん研究センターの共同研究グループは、ディープラーニングとデータ拡張技術による早期胃がんの高精度な自動検出法を確立した(4)。陽性的中率(AIが陽性と判断した画像中、実際に陽性であった割合)は93.4%、陰性的中率(AIが陰性と判断した画像中、実際に陰性であった割合)は83.6%を達成している。

オリンパス株式会社は、AI搭載の内視鏡画像診断支援ソフトウエア「EndoBRAIN」の国内販売を2019年3月から開始した(5)。EndoBRAINは、製造販売承認を受けた内視鏡関連の国内初のAI搭載ソフトウエアであり、腫瘍性・非腫瘍性ポリープを自動的に判別し診断を支援する。機械学習にはSVM(サポートベクターマシン、機械学習手法の一種)を用いており、製造販売承認に当たって6万9,142件の教師データを使用し、その精度は、感度(陽性のうち検査で陽性とされた割合)が97%,正診率(データが正しく診断された割合)98%を達成している。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業に採択され、昭和大学、名古屋大学、サイバネットシステム株式会社が研究開発を行い(6)、サイバネットシステム株式会社が2018年12月に薬機法の製造販売承認を取得した。

日本電気株式会社と国立がん研究センターの共同研究グループは、大腸潰瘍性ポリープを、ディープラーニングを基礎としたAIを用いて内視鏡検査時に即時に発見するシステムの開発に成功した(7)。隆起型の病変に関しては、感度(陽性のうち検査で陽性とされた割合)98%、特異度(陰性のうち検査で陰性とされた割合)99%を達成している。

がん研究会有明病院と株式会社AIメディカルサービスの共同研究グループは、AIにより、内視鏡検査時のリアルタイム胃がん検出支援システムを構築することに成功し、全胃がんの94.1%を検出することに成功した(8)

株式会社日立製作所は肺がん検診における3次元CT像に対して、ルールベース手法とディープラーニングをハイブリッドさせたAIを適用し、充実性結節病変の検出率93.4%を達成した(9)

コニカミノルタ株式会社は、医用画像AIベンチャーのパイオニアであるEnlitic, Inc.、丸紅株式会社と、共同開発契約を締結し、胸部単純X線における異常部位検知を行うAIの開発を進めると発表した(10)

株式会社エヌ・ティ・ティ・データは2019年4月にインドでAIを用いた胸部単純X線画像の遠隔読影サービスを始めた(11)。インドのスタートアップであるディープテック(プネー市)と連携し、複数の医療機関向けに、画像をAIで分析して各疾病リスクを確認、診断したリポートを作成・提供している。

このように、三大がん(胃がん、肺がん、結腸がん)に対して、様々な機関がAIの活用を試みており、その多くが読影医に迫る精度を報告していることからも、今後もこうした流れは拡大していくと考えられる。

本共同研究が対象とする肺がんに対するAIの活用は、従来は三次元CT像を対象とした研究がほとんどであった。X線画像は、二次元画像であるため、三次元CT像よりも情報が少なく、正常と異常の見分けがつきにくいため、難易度が高かったためと思われる。しかし、近年の画像解析技術およびAIの発展により、この問題を克服することができると我々は考えている。

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