ページの先頭です

イニシアチブ整理を通じた企業への影響の考察

金融の脱炭素化(1/3)

2021年10月
みずほリサーチ&テクノロジーズ 環境エネルギー第2部 氣仙 佳奈

近年、国内外で金融の脱炭素化を巡る動きが活発化している。この動きを率いるのが、民間主導あるいは官民連携による国際的なイニシアチブ*1である。本稿では、乱立する各種のイニシアチブの中でも金融機関の行動を規定する「目標設定」に係るものに焦点をあてるとともに、それらの比較・整理を通じて、金融機関の脱炭素化目標とはどのようなものか、そして、それによって企業にはどのような影響が及ぶのかについて、考察していきたい。

1.金融の脱炭素化を巡るイニシアチブの動き

(1)背景

2015年にパリ協定が採択されて以降、世界全体で脱炭素社会の実現を目指す動きが加速した。近年では、我が国をはじめ多くの国々が温室効果ガス排出量と吸収量をバランスさせるネットゼロ(カーボンニュートラル)目標を掲げるに至り、あらゆる主体が脱炭素化に向けて取り組んでいる。その中でも大きな役割が期待されているのが金融機関だ。

金融機関の投融資行動は、投融資を受ける企業の経営に大きな影響を与える。そのため、金融機関が投融資行動を変化させれば、企業に脱炭素化を促すことができる。

こうした発想に基づく活動は、これまで一部の取組みとして表れていた。しかし、今やネットゼロ志向の時代。金融機関が実施すべき投融資行動の変化は、一部の投融資の見直しには留まらない。社会全体で脱炭素化を進めるには、金融機関の投融資ポートフォリオ全体も脱炭素化していくべきである、という考え方が広がりつつあるのだ。

(2)金融の脱炭素化を主導するイニシアチブの状況

金融機関の間で脱炭素化の重要性が高まる一方、その実現は容易ではない。どのように投融資ポートフォリオの脱炭素化に取り組むかについては、国際的な方法論等が未整備な状況が続いてきた。

そうした中、近年では国際機関(UNEP FI等)や国際NGO(CDP等)が金融機関等と協働しながらイニシアチブを組成し、ルールメイクを進めている。こうした動きを無視できないのは、そこで作られるルールがデファクトスタンダードになり得るからだ。実際に、企業の温室効果ガス(GHG)排出量算定のデファクトスタンダードを生み出したのはGHGプロトコルというイニシアチブである。

それではイニシアチブを全て確認することは可能だろうか。実情として、それは容易ではない。なぜなら、これらの数は非常に多く、また目的や考え方が異なる上に相互の関係性も分かりにくいからだ。全容を把握しようにも難しく、投融資ポートフォリオの脱炭素化に向けてどのような方法論が示されているのか、理解しづらい状況にある。

そのため、ここでは大きく二つの観点に基づいて、主要なイニシアチブを整理する。

一つ目の観点が、対象である。イニシアチブによって、投資家、銀行等、対象とする金融機関のタイプが異なる。特にここ数年では2050年までのネットゼロ達成を宣言するイニシアチブとしてNet-Zero Asset Owner Alliance(対象:アセットオーナー)、Net Zero Asset Managers Initiative (対象:アセットマネジャー)、Net-Zero Banking Alliance(対象:銀行)、Net-Zero Insurance Alliance(対象:保険会社)やこれらを束ねる組織としてGFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)が設立されている。同じタイプの金融機関毎に結集することで相互の取組みの促進や方法論の整備を進めることが狙いだ。

二つ目の観点が、取組みである。取組みとしては宣言、GHG排出量の計測、目標設定、情報開示等が挙げられる。金融機関の宣言に関するイニシアチブとしては、前述のネットゼロを宣言するものが既に大きな勢力となりつつある。また、GHG排出量の計測(投融資に伴う排出量*2の算定)方法を定めたイニシアチブとしてはPCAFが唯一無二の存在となりつつあり、国内でも参加する金融機関が登場しはじめている*3。そして、情報開示のイニシアチブとしては、CDP、TCFDが挙げられ、そのフレームワークはデファクトスタンダードと呼べるだろう。一方、目標設定に関するイニシアチブとしては、SBTi-Finance(金融版SBT*4)やIIGCC Paris Aligned Investment Initiative(PAII)が知名度を誇るものの、ネットゼロを宣言するイニシアチブが自らの目標設定方法論を定める動きも出てきており、まだデファクトスタンダードと呼べる方法論は誕生していない*5

この二つの観点からの整理を示したのが図表1である。


図表1 金融の脱炭素化に係るイニシアチブ(一例)
図表1

  1. (資料)各種公開情報に基づきみずほリサーチ&テクノロジーズが作成

上記のとおり、金融の脱炭素化に係るイニシアチブは多岐に渡るが、本稿では特に企業への影響が大きいと考えられるものとして、金融機関の行動を規定する「目標設定」に関するものを中心に解説する。金融機関が投融資ポートフォリオの脱炭素化を目指してどのような目標を設定するかが分かれば、その後に続く投融資行動の変化や、そこから生じる企業への影響も予測することができるだろう。

次章では、目標設定に関するイニシアチブとその方法論を取りあげ、その特徴や違いについて解説する。

  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
  • レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。全ての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。

関連情報

この執筆者はこちらも執筆しています

2020年10月30日
「気温」で評価する企業目標
―新たな視点で目標を見つめる―
2019年11月15日
国際的な気候関連イベントに見る脱炭素化の動き
―「1.5℃」と「2050年実質ゼロ排出」―
ページの先頭へ