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社会動向レポート

化学物質管理の新潮流;サービス型ビジネスモデルChemical Leasingの紹介(1/3)

環境エネルギー第1部 渡邉 絵里子

化学物質管理分野において欧州を中心に注目されているサービス型ビジネスモデルChemicalLeasing(ChL)が、我が国における化学物質の自主管理のさらなる推進、ひいては持続可能なビジネスの発展につながり得るか、導入可能性及び将来性の観点から論じた。

1.はじめに―我が国における化学物質管理の進展と現状の課題―

2006年の第1回国際化学物質管理会議で採択された「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(以下、「SAICM」という。)」では、「2020年までに化学物質の健康や環境への著しい影響を最小とする方法で生産・使用されるようにする」との国際目標(以下、「WSSD2020年目標」という。)が定められた。

我が国においては、2012年にSAICM国内実施計画(1)が取りまとめられ、これに基づき各主体による化学物質管理の取り組みが進められてきた。その管理の根幹を成す考えは「規制と自主管理のベストミックス」と呼ばれる手法である。これは、規制的手法と事業者の自主管理を支援・推進するための手法を適切に組み合わせ、総合的に化学物質管理を推進しようとするものである。事業所からの化学物質排出量削減・抑制を最も確実に進める手段は、排出基準や指針値の設定といった排出規制の強化である。しかし、規制の強化は事業者に過度の負担を強いる可能性が高く、また行政コストも増大させる。

そこで、事業者の自主管理を支援・促進するための手法も導入し、それらを適切にミックスさせることで費用対効果の高い化学物質対策を推進していこうとするのが、「規制と自主管理のベストミックス」の本質である。

事業者の自主管理を促進させる代表的な施策としては、化学物質排出把握管理促進法に基づくPRTR制度(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)が挙げられる。これは、事業者に対して、自らが環境中に排出した化学物質の量(排出量)や廃棄物等として処理するために事業所の外へ移動させた量(移動量)を把握し、年に1回国に届け出ることを課すものである。国は、その届け出られたデータを集計・公表している。また、PRTR制度は、事業者による自主的な取り組みを促進するとともに、化学物質の排出量削減の進捗状況を把握するうえでも大きな役割を果たしてきている。我が国においてPRTR制度が公布されたのは1999年であるが、SAICMに沿った我が国の取り組みとして2008年には対象物質の見直し等が実施された(2011年度全面施行)。そして、事業者と市民によるリスクコミュニケーションツールや、事業者や国による排出量削減の取組の評価指標として活用されるなど、SAICM国内実施計画において自主管理の促進と排出量削減状況の把握のための重要な制度として位置付けられてきた。

PRTR制度の公表値を見ると、ベストミックス政策による排出量削減の進展度合いが分かる。PRTR制度により、排出量の把握が可能となった2001年度と比較して、2017年度実績時点の排出量は約30%減少しており、「規制と自主管理のベストミックス」は一定の効果を上げてきたことがわかる(図表1)。

一方で、PRTR排出量の削減傾向は近年鈍化してきており、PRTR制度に代表される自主管理による排出量の削減・抑制効果が徐々に薄れつつある可能性がある。この理由として、経済産業省の報告書(2)では「インセンティブの低下」と「費用対効果の低下」が指摘されている。

まず、「インセンティブの低下」については、かつては企業や事業所の化学物質管理等の取組状況を評価し、表彰することで企業の自主的取組に対するインセンティブとすることを目的とした「PRTR大賞」が行われていたが、これは2008年を最後に開催されていない点が経済産業省の報告書では挙げられている。

もう一つの理由とされる「費用対効果の低下」については、PRTR制度導入から数十年が経過する中で、各事業者が費用的に許容可能な対策はほぼ実施されてしまっており、根本的な排出抑制対策には設備投資以外の方法では困難との認識が広く共有されている可能性があるとされている。また、PRTR排出抑制対策を講じた結果、排出量ゼロもしくは排出量の大幅な削減を達成した事業者の中には「もう十分、排出量を下げられるところまで取り組んだ」と考えているところが一定数あり、実質の設備投資がこれ以上は難しいと判断した可能性があるとの指摘もある。

さて、SAICMの「2020年までに化学物質の健康や環境への著しい影響を最小とする方法で生産・使用されるようにする」という国際目標について、その達成状況に関するSAICM事務局による公式見解はまだ公表されてないが、UNEP(国連環境計画)(3)が世界の有害化学物質に関する概況を取りまとめたGlobal ChemicalOutlook2によれば、「WSSD2020年目標は達成されないだろう」との厳しい評価になっている。2021年7月開催予定の第5回国際化学物質管理会議において、2020年以降の国際的な化学物質管理の目標である“ポストSAICM”が取りまとめられる見込みであるが、次なる国際目標の達成に向けて、さらなる化学物質の排出抑制が求められることは避けられないであろう。

しかし、上述のとおり規制強化にも自主管理促進にもそれぞれ課題があり、今後の化学物質管理に係る国際目標の達成に向けては、これまでの「規制と自主管理のベストミックス」を超えた新たな仕組みが望まれる。この新たな仕組みのひとつとして、欧州を中心に開発・導入されているChemical Leasingが有力候補と筆者は考えている。本稿では、このChemical Leasingについて紹介する。


図表1 PRTR 届出排出量・移動量の推移
図表1

  1. (資料)経済産業省「平成29年度PRTRデータの概要」
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