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社会動向レポート

化学物質管理の新潮流;サービス型ビジネスモデルChemical Leasingの紹介(2/3)

環境エネルギー第1部 渡邉 絵里子

2.サービス型ビジネスモデル“Chemical Leasing”の概要

(1)Chemical Leasingとは

一般に、サプライヤーは化学品を売れば売るほど儲けることができるため、従来のビジネスモデルでは、サプライヤーがユーザーに過剰販売することにより化学品の必要以上の消費や有害廃棄物の発生を助長する可能性も指摘されている(4)

これに対しChemical Leasing(以下、「ChL」という。)においては、サプライヤーが受け取る対価は、化学品(例:溶剤)の販売量ではなく、ユーザーが享受する「価値やサービス」(例:溶剤で洗浄した製品個数)に応じて決定される。つまり、ユーザーの化学品使用量が減少しても、「価値やサービス」が減少しなければ従来と同じ対価が得られるため、サプライヤーにとってユーザーの化学品使用量を削減しようとするインセンティブが発生する。ChLは、このような仕組みを通じてユーザーにおける化学品の使用量及び排出量を削減しようとするビジネスモデルである(5)(図表2)。

ただし、より少ない化学品で従来と同じ「価値やサービス」を提供するためには、サプライヤーがユーザーのプロセス改善のための技術的なサポートを行う必要があり、サポートに係るコストが発生することになる。しかし、サプライヤーが化学品の使用工程に関する専門的な知見を有している場合には、サポートに係るコストは大きくならず、トータルでみても原価は現状よりも少なく抑えられる可能性がある。さらに、ChLでは、サプライヤーはユーザーの生産プロセスに深く入り込むため、サプライヤーとユーザーとの間には中長期的な関係性が構築され、サプライヤーにとって取引を安定化させるメリットがある。

この仕組みはユーザー側にもメリットがある。手間のかかる化学物質の管理はサプライヤーが主導してくれるため、ユーザーは自分たちの事業のコアの部分に注力できる。また、化学物質の適切な管理による労働環境の改善、それに伴う労働者の健康リスクの低減等、環境面・経済面に加えて社会面でのメリットも存在する。すなわち、ChLにおいてサプライヤーとユーザーはWin-Winの関係となる。

このモデルではユーザーに化学物質管理サービスを提供する分だけサプライヤー側のコストは増加する。化学品使用量の削減によるコスト削減と合わせて、サプライヤー側としてトータルで儲かる仕組みを構築できるかどうかが成立可否の大きなポイントになる。


図表2 ChL の概要
図表2

  1. (資料)みずほ情報総研作成

(2)ChLの国際的な動向

ChLは、もともとオーストリア農林環境水資源管理省が2000年初頭に国家プロジェクトとしてChLの経済及び環境への影響評価を実施したのが始まりである。2003年にUNIDO(国連工業開発機関)(6)が参画し、Global ChemicalLeasingProgrammeが翌年立ち上げられ、2005年には、エジプト、メキシコ、ロシアにおいて実証事業が実施された(7)

ChLは、これまで金属加工業や飲料業等、14か国以上の業種・企業によるケーススタディが実施されている(4)。欧州では、少なくともドイツ国内で一時期には400件程度のChL契約が成立したとされている(8)

UNIDOがChL導入促進に向けてとりまとめたChemical LeasingToolkitでは、ChLを適用できる化学物質や使用プロセスとして、飲料産業におけるコンベヤベルトの潤滑油、水処理プロセス、金属加工業における表面処理プロセス、食品・飲料の包装材の接着剤等が挙げられている(9)(図表3)。また、これらの特徴として、リサイクル率が高い物質であること、溶剤や触媒等の最終製品に含まれない化学物質(以下、「プロセスケミカル」という)であること等があるとされている(4)

また、国際的な化学物質管理政策における位置づけとして、Global Chemical Outlook2では、今後、国際的に化学物質の生産量が増大する中での化学物質管理にはビジネスモデルの転換が必要と指摘されており、その有効なツールの一つとしてChLが紹介されている。同様の指摘は、2020年10月に欧州委員会から発表された「欧州持続可能な化学物質戦略(Chemicals Strategyfor Sustainability Towards a Toxic-Free Environment)でも記載されており、従来のビジネスモデルから、ChLをはじめとする“Chemicalas a service”モデルへの転換が必要であるとされている(10)。さらに、国家レベルでは、オーストリアが2020~2024年における国家成長戦略において、サーキュラーエコノミー(以下、「CE」という。)と廃棄物削減に向けた有効なツールの一つとしてChLを位置付けている(11)


図表3 ChLが適用されうる化学物質のカテゴリ及び使用プロセス
図表3

  1. (資料)UNIDO “Chemical Leasing Toolkit” より、みずほ情報総研作成

このように、欧州を中心にChLはCE達成や今後の化学物質管理の重要な要素として位置付けられ始めている。欧州では、ChLをはじめとして持続可能なビジネスの分類・定義づけを始めているが、逆に言えば、これらに合致しないビジネスモデルは持続可能でないと判断される可能性がある。ChLは現状欧州においてもビジネスベースでの普及はまだであるものの、こうした政策動向が追い風となって各社が関心を寄せ、取り組み始める可能性がある。

この新たなビジネスモデルが、我が国の化学物質管理において、「規制と自主管理のベストミックス」を超えた新しい仕組みとしても有効なものとなりうるか、次に論じることとする。

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