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技術動向レポート

わが国における台風被害と高潮浸水対策の現状について(2/3)

サイエンスソリューション部 先進技術システムチーム コンサルタント 坂本 大樹

2.高潮による被害とその被害想定について

(1)高潮による被害について

台風による被害は、強風による建物の破壊やそれにともなう人的被害、豪雨により発生する河川氾濫に伴う建物浸水被害、土砂災害などが挙げられるが、その一つに高潮に伴う被害が挙げられる。一般的に台風が通過する際には、低気圧により海面が持ち上げられる効果(吸い上げ効果)や台風に伴う強風が沖から沿岸域に吹くことで海水が沿岸域に吹き寄せられる効果(吹き寄せ効果)により潮位が上昇することが知られており、この現象を高潮と呼ぶ。加えて満潮時に台風が通過する場合は最も潮位が上がるため、被害をもたらしやすい。このように発生する高潮にさらに強風により発生する波浪が加わることで、海岸に設置した堤防を越え、各地に浸水被害をもたらすことになる。

(2) 高潮浸水想定区域図更新に向けた自治体の動き

2015年5月に水防法が改正され、高潮発生時の避難体制の強化および被害の軽減を図るため、想定し得る最大規模の高潮における浸水想定区域を公表する制度が新たに創設された。本改正を受け2015年7月に、農林水産省、国土交通省から「高潮浸水想定区域図作成の手引きver1.00」が公表された。本手引きは、地方自治体の高潮対策を推進するため、「高潮浸水想定区域図」作成の概要をまとめたものである。また2020年6月には、ver1.00の公表以降、各都道府県において検討されてきた知見が蓄積されてきたことなどを踏まえ「高潮浸水想定区域図作成の手引きver2.00」が公表されている。地方自治体では、本手引きを基準に「高潮浸水想定区域図」の作成が進められており、各都道府県による取り組みを図表6、図表7にまとめる。大都市を中心に「高潮浸水想定区域図」が作成されている。また台風被害は東日本よりも西日本で大きく、取り組みが進んでいるといえる。なお海岸、河川に関する災害は高潮以外にも津波や河川氾濫に伴う洪水が挙げられるが、津波に関しては沿岸域の各都道府県において取り組みが進んでおり、河川氾濫等による洪水浸水想定はすべての都道府県で浸水想定区域図の作成がされている。


図表6 「高潮浸水想定区域図」を公開している都道府県一覧(2020年6月時点)
図表6

  1. (資料)みずほ情報総研が作成

図表7 各都道府県の高潮浸水想定の取り組み(2020年6月時点)
図表7

  1. (資料)みずほ情報総研が作成

3.高潮被害想定のためのシミュレーション技術と当社の取り組み

高潮被害想定のためには、過去最大級の台風が通過した際にどの規模の波が沿岸施設に押し寄せるかをあらかじめ予測しておく必要があり、そのためにシミュレーション技術が用いられている。その際にシミュレーションを行う事項としては、2章で挙げた台風の通過に伴う潮位上昇以外にも、風により発生する波浪の影響などが挙げられ、これらの結果を複合的にとらえ高潮浸水区域想定図が作成される。

高潮被害想定に用いられる主なシミュレーション技術とその流れを図表8にまとめる。高潮被害想定の流れとしては、まず台風が通過した際に各地域での地形特性を考慮した気圧や風速の推定を行う。そして、求められた気圧場や風場から、台風が通過した際に発生する風により発生する波の波高や波向などの推定や、台風が通過することによる潮位の上昇とそれに伴う各地の浸水量の推算を行う。前者を波浪推算・波浪変形、後者を高潮浸水計算と呼ぶ。さらにその結果を受けて、波が堤防等に押し寄せた際に、どの程度打ち上げるかの推定(打ち上げ高計算)や、波がどの程度堤防を越え、内陸部に押し寄せるかの推定(越波量計算)を行う。この中でも、高潮浸水計算と波浪推算・波浪変形は高潮被害想定の中で特に重要な役割を果たしている。

当社は、津波や高潮など海岸工学分野でのシミュレーションに関する技術を有しており、1. で述べたとおり近年大型台風における被害想定へのニーズが高まってきていることを受けて、高潮の被害想定に取り組んでいる。本章では高潮被害想定の波浪推算と高潮浸水計算を行った例を簡単に示す。


図表8 高潮被害想定に用いられる主なシミュレーション技術
図表8

  1. (資料)みずほ情報総研が作成

(1)波浪推算

ここでは、第3世代波浪推算モデルの一つであるSWAN を用いて、2019年度の台風19号時の解析を行い、全国港湾海洋波浪情報網(ナウファス)の観測値との比較を行った事例を紹介する。なお観測値との比較は、図表9に示す御前崎、清水、下田の3か所において行った。各地点の波高を示したのが図表10であり、台風が接近するとともに風が強まり波高が大きい波が生じるという傾向が概ね再現できているといえる。また御前崎の計算結果にて有義波高が最大となった2019年10月12日17時における有義波高と平均波周期の分布図を合わせて図表11に示す。


図表9 ナウファス観測点
図表9

  1. (資料)みずほ情報総研が作成

図表10 観測値と計算結果の比較(上:御前崎、中:下田:下:清水)
図表10

  1. (資料)みずほ情報総研が作成

図表11 2019年10月12日17時における計算結果(左:有義波高、右:平均波周期)
図表11

  1. (資料)みずほ情報総研が作成
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